Vol.217 結城浩/『若き科学者へ 新版』解説/幸せについて/子供に勉強を教えるとき/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年5月24日 Vol.217

はじめに

おはようございます。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

ここ数日で、急に暑くなりました。 「今年初めての真夏日」といった表現がニュースに登場しています。

急激に春から夏に向かっているようですね。 毎週、結城メルマガを書くたびに感じるのは、

 「うわあ、時間が過ぎていくなあ……」

ということです。

時間が過ぎなければ活動は何もできないのですけれど、 時間が過ぎていくのを実感すると、ちょっと焦っちゃいますね。

焦らず騒がず、日々を過ごしていきたいものです。

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校正の話。

先日、 『セルフパブリッシングのための校正術』 という校正の本が話題になっていたので買ってみました。

Kindleで216円とお手頃価格で、 さらっと読めそうな感じがしたからです

 ◆『セルフパブリッシングのための校正術』(大西寿男)
 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B01FXA31MK/hyam-22/

実は、まだ前半しか読んでいないのですが、 「セルフパブリッシングのための〜」とタイトルに冠してあるように、 校正をする専門家向けではなく、書く人のための本のようです。 校正の基本的な話から始まって、 校正をする目的や具体的なコツまで書かれています。

知っていることも多かったものの、 具体的なコツのところは、確かに書き手の参考になりそうです。 本書に書かれている「一人読み合わせ校正」というのは、 なかなかいい方法ですね。

自分の原稿に書かれている同音異義語の確認として、 たとえば「対称」という単語が出てきたら、 「対称{たいしょう、シンメトリーのこと}」 のような言い換えをして読み上げるというのです。

我が意を得たりと思ったのは「木も見て森も見る」 という態度についても触れられていたこと。 校正はどうしても「重箱の隅をつつく」ことになりがちなので、 部分を見るだけではなく全体も見るという態度が重要だと書かれていました。 そのことがきちんと書かれていたのがうれしかったです。 校正というとどうしても細かなところ「だけ」に終始しがちですが、 それだと、全体を通じて流れる意図を見失ってしまいます。

ということで、もしもあなたが文章を書く人で、 これまで校正をあまり考えたことがないなら、 本書を一読するのもよいと思います。

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重版出来!の話。

『重版出来!』(じゅうはんしゅったい)というコミックがあります。 結城メルマガVol.117(2014年6月24日)でも、 このコミックがおもしろい!と紹介しましたが、 現在ドラマになって大変な人気になっています。

 ◆コミック『重版出来!』(1)(松田奈緒子)
 http://www.amazon.co.jp/dp/4091850405/hyuki-22/

 ◆TBS火曜ドラマ『重版出来!』
 http://www.tbs.co.jp/juhan-shuttai/

水曜日の朝は、前日に録画しておいたこのドラマを、 妻と二人で鑑賞する習慣になっています。 毎回笑ったり、泣いたり、たっぷり楽しんでいます。

もともと本に関わる物語なので、 部数決定、サイン本やPOP書き、メッセージカードの準備、 編集さん、営業さん、書店さんなどのエピソードなど、 結城も共感するところがたくさんあるのです。 重版出来が決まったときの喜びなど、 涙を流さない回は一回もありません。

第2話では「ひとりでに売れる本なんてない。 売れているものの背後には必ず売っている人がいる。 おれたちが売るんだ!」という名セリフがありました。 これは毎回うるっときてしまいます。

また、内容だけではなくドラマの作りもすばらしいです。 各回に張られた伏線がしっかりと回収されたり、 登場するひとりひとりのキャラクタが生き生きとしていて、 まさにドラマを作っているのですね。

重版出来! 今週も楽しみです!

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WindowsからMacへの移行の話。

結城のメインマシンは数年前からMacBookに変わりました。 一方、家内が使っているマシンは私が使っていたThinkPadのお下がり。 Windows 7を使っています。

最近、家内のマシンが不調になってきたので、 この機会にと家内のマシンもMacBookに変えてみました。

MacはiPhoneとの連携がずっと楽なので、

 「どうしてもっと早くMacに移行してくれなかったの?」

と言われてしまいました。家内が使っているのは、 メールとWebとスケジューラくらいで、 WindowsからMacに移行しても、 日常生活にはほとんど影響がありませんでした。

マシンを移行するとき、特にWindowsからMacに移るときは、 ほんとうにクラウドの威力を感じます。 また、ふだんの作業がクラウドベースになっていると、 マシンの移行によるストレスも非常に少ないものになりますね。

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適切な削除の話。

コンピュータ上で仕事をしていると、 「大事なファイル」の取り扱いについて考えさせられます。 たとえば重要な情報を整理したExcelファイルがあるとします。

 「このファイルを万一にも消してしまったら大変だな!」

と不安になると、

 「念のため、別名で保存しておこう」

と考えたくなります。別名で保存。

数日して、そのExcelファイルに修正が入ったので、

 「そうか、この時点のものも保存しておかなくちゃ!」

と気付きます。別名で保存。

こんなことを繰り返していると、 フォルダ内は何だか似たようなファイルであふれ始めます。

 最新版.xls
 最新版-念のため保存.xls
 最新版-念のため保存final.xls
 最新版-念のため保存final2.xls
 最新版-念のため保存final3.xls

そのうち、本当の最新版と誤って、 古いバージョンのExcelファイルに修正を入れてしまい、 頭を抱えることになりそうですね。 あちこちに修正を入れてしまったら、 手が付けられなくなります。

誤って大切なファイルを消しても大丈夫なようにしよう、 という考えは正しいのですが、 別名で保存しておこうというのはあまり適切ではありません。 バックアップは別の手段で取っておき、 不要なファイルはきちんと削除する必要があるのです。

不要なファイルがたくさん残っていて、 本当に大事なファイルがそこに埋もれてしまったなら、 大事なファイルを失ったのと同じ結果になるのですから。

ちなみに結城は、ファイルのバックアップ用に、

 ・Time Machineを使って外部メディアにバックアップを取る
 ・定期的にzipで固めてDropboxに放り込んでおく
 ・Gitを使ってBitbucketに保存する

という三つの方法を併用しています。

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ツイッターさんの話。

SNSを「擬人化」したコミックがあります。 月刊アライブでも連載中の、 ツキギさんが描く「ツイッターさん」という漫画です。

 ◆ツイッターさん
 http://twittergirl.ifdef.jp/index.html

 ◆ツイッターさん(これまでの漫画一覧)
 http://twittergirl.ifdef.jp/comic.html

キャラクタがかわいいのでお気に入りです。 Twitterというシステムそのものは巨大ですが、 このように擬人化すると、とても身近に感じられますね。

また、Twitterの「あるある」な話や機能変更などが、 ツイッターさんの日常生活に変換されて語られるため、 なかなか楽しいのです。

この楽しさを少し抽象的にいうなら、 自分がすでに見聞きしているものに、 別の光を当てた楽しさなのかもしれません。 つまりは「再発見」の楽しさなのでしょう。

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ビリヤードの話。

先日Webで「絶対にハズれない」ビリヤード台というものを見かけました。

 ◆数学者が作った「絶対にハズれない」ビリヤード台
 http://www.roomie.jp/2016/05/334544/

要するに、ビリヤード台全体が「楕円」の形をしていて、 二つある焦点の一つに穴が空いているというもの。

楕円という図形は、焦点の片方から光線を発して周囲で反射させると、 必ずもう一つの焦点を通過するという性質があります。 ですから、焦点からビリヤードの玉を転がすと、 必ず穴に入ることになります。

 ◆スクリーンショット

2016-05-23_elliptical.jpg

どちらの方向に転がしても(玉にスピンなどが掛かっていなければ)、 必ず穴に入るというのがおもしろいですね。

こちらに動画もあります。

 ◆Elliptical Pool Table
 https://youtu.be/4KHCuXN2F3I

楕円のこの性質は「ささやきの回廊」と呼ばれる建築物にも利用されています。 周囲の壁が楕円をしている広間で、片方の焦点に立って小声で話しても、 他方の焦点に立っている人には(距離にも関わらず)はっきり聞こえるらしいです。

 ◆スクリーンショット

2016-05-23_talk.png

この題材はWeb連載「数学ガールの秘密ノート」で使ったことがあります。

 ◆第84回 卵のないしょ話(後編)
 http://bit.ly/girlnote84

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書籍解説の話。

ノーベル生理学・医学賞を受賞した科学者メダワーの書籍、 『若き科学者へ』が新版となり、みすず書房から刊行されます。

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 『若き科学者へ 新版』(仮題)
 ピーター・B・メダワー著
 鎮目恭夫訳
 みすず書房
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本書には、若い科学者ならびに科学者を志す若者へ向けての、 時を越えて語られる力強いアドバイスが書かれています。

この本は結城が大学一年生のころに愛読した本ですが、 新版を刊行するにあたり、結城が 「新版への解説」を書かせていただくことになりました。 何だか、時代がひとめぐりした感覚があります。

本書は、今年の七月下旬にみすず書房より刊行の予定です。 目次は以下の通り。

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 まえがき
 1 序 論
 2 科学研究の適性とは?
 3 何をしましょうか?
 4 科学者として進むための装備の仕方
 5 科学における性差別と人種差別
 6 科学者の生活と作法の特殊性
 7 若い科学者と年長の科学者
 8 研究の発表
 9 実験と発見
 10 賞と栄誉
 11 科学の方法
 12 科学的メリオリズム(改良主義)と科学的メシアニズム(救世主義)

 新版への解説(結城浩)
 訳者あとがき
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ぜひ、機会がありましたらお読みください。

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では、今週の結城メルマガを始めましょう。

どうぞ、ごゆっくりお読みください!

目次

  • はじめに
  • その都度、形にしておく - 仕事の心がけ
  • 学びについて、幸せについて、個人的に思うこと
  • 子供に勉強を教える - 教えるときの心がけ
  • おわりに