結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年9月6日 Vol.232
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
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最新刊の話。
ようやく『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』がアマゾンで 予約開始しました。発売は2016年10月中旬ころの予定です。
◆『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797387122/hyam-22/
ありがたいことに、たくさんの方がすでに予約注文なさっています。
その!予約に!応えるべく! 著者である私は、初校ゲラが出てきてせっせと読んでいる段階です。 がんばらなくては!
「本を書くのは最高の勉強法」の思いを今回もまた新たにしています。 一冊本を書くたびに、その本の内容そのものと「本の書き方」を学びますね。
今回のテーマは統計です。 ずっと本のことを考えているので、 Twitterで「君はレアな人間か」というタグがトレンド入りしたときに、 レアというのはいったい「何σ」なのだろうかと考えてしまうほどです (σは標準偏差で、σが大きいほど平均からのずれが大きいという意味)。
今回もレビューアさんからの指摘メールに山ほど助けられています。 レビューアさんから、数学的な誤りの指摘を受けることはもちろん大助かり。 でも助かるのは誤りの指摘だけではありません。 レビューアさんからの「これってどういう意味でしょう」のような、 何気ない一言が重要だったりするのです。 ちょっとした疑問や、ふと感じた違和感によって、 まったく違う章の修正に結びついたりするからです。 「他者の目」の重要性はいくら強調してもし過ぎることはありませんね。
またその「他者の目」も多様であることが大事です。 つまり、レビューアさんが複数人いると助かるということ。 「ここは読みにくいかもね」みたいな一言を一人のレビューアさんからもらう。 結城自身は「うーん、そうかなあ」と思う。 でも、複数人からまったく同じ箇所に対して「読みにくいかもね」 という指摘があったら話は違います。 その箇所は、再検討の俎上に上ることになります。
独立に読んでいるレビューアさんが同じ箇所に言及するとしたら、 きっと出版後の読者さんも同じ箇所で「読みにくい」 と感じるに違いありません。 出版後に直すよりも、出版前に直す方がはるかに手間は少なくてすみます。
まったくありがたいことですね。
ということで、 『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』の校正がんばりましょう! 応援よろしくお願いいたします。
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Kindle Unlimitedの話。
Kindleの読み放題サービスのKindle Unlimitedは、 継続しないことにしました。
一カ月の間でKindle Unlimitedを使って読んだ本は、 結局2冊どまりだったので、 あまり継続する意味がないと判断したためです。
今後自分が本を買おうとしたときに、 「おっ、これもKindle Unlimitedか」 と思うことがしょっちゅうあるようだったら、 再開を検討したいと思います。
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時給の話。
先日スタバで書き物していたら、 女子高生らしい二人連れが、
「1時間かけて100円安いものを探すのは時給100円の人がやること」
という話をしていて思わず聞き入りました。 でもこれをそのままツイートしたら、 「マックで女子高生が話してたんだけど……」 というジョークのテンプレートのように聞こえますね。
「1時間かけて100円安いものを探す」というのは「時給100円」 と言えなくはないですけれど、損かどうかはわかりませんね。 何もせずにぼーっとしていたら「時給0円」ですから。
スタバの女子高生の結論は、
「100円安いものを買う」や、
「セールをねらう」や、
「ポイント2倍のタイミングで買う」よりも大きな節約は、
「買わない」という選択だよ。
というものでした。確かに、一つの正論ではありますね。
「お金が制御できてないんじゃない。
心が制御できてないんだよ」
というのが女子高生の話し相手の決め台詞でした。 思わずスタバで正座(比喩)しそうになりました。
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詩的な言葉について。
Twitterで @yu_yurs さんからこんな質問をいただきました。
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質問です。
詩的なことばと独りよがりなことばとの違いはなんでしょうか?
私は独りよがりなことばしか書けなくて、
おのれの文才のなさに悔しくなってしまいます。
https://twitter.com/yu_yurs/status/768415264039800835
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結城は詩人ではないので、 このような質問にきちんと答えられるわけではありません。 でも、このような質問に答えようと試みることは、 私自身にとって必要ではないかと思いました。
以下は返信ツイートを元に書き直した文章です。
私は詩人ではないのではっきりはわかりません。 しかし大切なポイントは、
「その言葉を受け取った人が新たな発見をするかどうか」
ではないかと想像しました。 「言葉だけ」を考えていても答えは見えず、 言葉を受け取った「人」に注目するのが大事ですね。
たとえ言葉そのものはありふれていても、 その言葉を受け取った人の心に新しい発見があるならば、 それは素敵な言葉といえるのではないでしょうか。
さらにいうならば、 発した言葉が受け取り手に「発見」を生むためには、 言葉を発する人とその言葉を受け取る人との間の「関係」 が大事であると思います。
言葉を発する人は受け取り手のことを考える。 言葉を受け取る人は誰がその言葉を発したかを考える。 それがすべてではないですが、 人と人との「関係」は重要な要素であると思います。
いみじくも @yu_yurs さんは「ひとりよがり」 というキーワードを書いていらっしゃいました。 それです。もしも言葉が「ひとりよがり」なら、 その言葉を発した人だけの小さな世界で閉じてしまいます。 相手と関係を結ぶことなく、 ひいては相手に発見をうながすこともないでしょう。
詩的な言葉かどうかはいったん置いておきます。 相手にしっかりと届き相手の心に発見をうながす言葉、 それを生むためには、
・言葉で表現しようとする対象、
・言葉そのもの、そして、
・相手。
を理解する必要があるのでしょうね。
結城はネットで活動していますが、 そこには直接顔を合わせたことがない読者さんがたくさんいます。 そんな中で、どうやって理解が進むのか。
結城自身が「顔を合わせたことがない読者」 を理解するために心がけていることは、
・相手の言葉に耳を傾ける
・言葉の向こうにはその言葉を発した「人」がいると意識する
・言葉はその人を語るけれど、
その人のすべてを語るわけではないと意識する
・自分の発する言葉の届く範囲と相手に与える印象を意識する
といったことです。くどくど書きましたが、 一言で表現するならば、言葉を使うためには、
「想像力と愛」
が大切であると考えています。
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では、今週の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- 数学ガールの特別授業(筑紫女学園編)(4)
- 図版について - 本を書く心がけ
- これからの10年をどのように過ごすか - 仕事の心がけ
- 高校時代の学びについて - 学ぶときの心がけ
- おわりに