Vol.235 結城浩/数学ガールの特別授業(筑紫女学園編)(6)/大人になってから数学をやり直す/嘘をつかない/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年9月27日 Vol.235

はじめに

おはようございます。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

朝晩は肌寒い日もあったりしますが、 昼間は妙に暑くなったりして、着るものが難しいです。

でも秋分も過ぎ、まちがいなく季節は秋へ向かっていますね。

あなたは、いかがお過ごしですか。

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新刊の話。

『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』は現在再校待ちの段階です。 今週の中頃には編集部から再校ゲラが送られてくる予定ですので、 そこからはまたゲラを読む日々が再開します。

初校ゲラに比べると再校ゲラはずっとすっきりしている(はず)。 文章のザラザラも取れて読むのが楽しくなる(はず)。

それはいいのですが、初校の段階で懸案事項だった点や、 大きめの修正が入った部分はまた入念に読み返す必要があります。

再校読み合わせは来週の水曜日。 そこからは結城の手をほぼ離れ、出版社(+印刷所)マターとなります。

サイン本を作る予定が10月26日(水)ですから、 書店に並ぶのは最速で10月27日(木)になる可能性があります。 そこから10月末に掛けて刊行ということですね。

毎回の話ですけれど、新しい本が出るというのはほんとうにうれしいことです。 いつも応援してくださる読者さんに心から感謝です。 今回は「やさしい統計」ということで、 いつもとは違う層の読者さんにも届くといいなあ……

応援よろしくお願いいたします!

 ◆『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』(アマゾン)
 https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797387122/hyam-22/

そうそう、恒例の《サイン本無料プレゼント》企画もやっていますので、 ぜひ、ご応募くださいね!

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処女作の話。

先日Twitterで「初めての量産」というハッシュタグを見かけました。 そういえば、本が刊行されるというのも「量産」ですよね。

結城の初めての書籍『C言語プログラミングのエッセンス』が発売されたとき、 公衆電話から紀伊國屋書店に電話を掛けて「売ってますか?」 と確認したのを思い出します。 電話ボックスで、妻と一緒に書店員さんの声に耳をすましました。

この結城メルマガでも何回も書いたエピソードですが。 公衆電話とか電話ボックスというのが時代を感じさせますね。 ときは1993年。いまから23年前の思い出です。

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数学ガール6の話。

『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』の再校ゲラを待ちながら、 『数学ガール6』のほうもじわじわと進めます。 少しあいだが空いたので、もう一度最初から読み返しているところ。

第1章〜第3章はかなり引き締まっているけれど、 あちこちに細かい図の抜けがあったり、 話題を整理する必要がありそうです。 でも、まあ、まずまずの感じ。

それに比べると第4章〜第6章はまだまだ粗いです。 素材としては十分入っているけれど、洗練されていませんし、 話題をつっこみすぎていて、ぎゅっと絞れていません。 軸がふらふらしている感じが抜けません。

第7章はぐっとレベルアップしていてたいへんよろしい。 でも、第8章と第9章はぜんぜんだめ。 そして第10章は、第4章〜第6章と同じように絞り込めていない感じ。

まだまだですなあ……

次の一歩としては、 第10章すなわちゴールをしっかり定めることでしょうね。 そうすると、おのずから第8章と第9章の膨らませ方も見えてくるし、 第4章〜第6章までの絞り方も見えてくるはずだからです。

がんばろう、がんばろう!

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ハロウィンの話。

ハロウィンの季節になると、 あちこちで私のアイコンの親戚っぽいお化けが登場します。 いろんな方が写真付きでツイートしてくださるので、 何だか楽しくなります。

以下、@yamachan_zさん@ryudvicさん@tokoyaさん@jr2kingさんのツイートです

 最近あちこちのスーパーで結城浩さんを見かける(違
 https://twitter.com/yamachan_z/status/778236706080174080


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 そういえばうちにも結城浩先生が
 https://twitter.com/ryudvic/status/778907039707779072


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 結城浩先生?!
 https://twitter.com/tokoya/status/778583616137801728


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 結城…先生…
 どうして…こんなところで…内側からピカピカしているのですか…!?
 #数学ガール
 https://twitter.com/jr2king/status/779991707328716800


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ありがとうございます!

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まぐまぐさんの話。

先日、メールマガジンで有名な「まぐまぐ」さんのオフィスに行ってきました。 この「結城メルマガ」は2012年から「まぐまぐ」さんで配信していますが、 オフィスに行ったのは今回が初めて。

メルマガのことを含めた今後のお仕事について打ち合わせをしてきました。 未知数の部分も多々あるのですが、おもしろい話に広がるといいなあ。

また進展がありましたら、結城メルマガでもアナウンスしますね!

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定義と呼称の話。

ときどき、こんな言い回しを見かけます。

 「どうして〇〇はいつも△△なのか」

形は疑問文ですけれど、 実際には非難や批判のニュアンスが入ってることが多いですね。 「どうして○○はいつも△△なのか。困ったもんだなあ……」 という具合です。 このような疑問文は修辞疑問(レトリカル・クエスチョン) と呼ばれたりします。

ところで、結城はこの修辞疑問を見るたびに試すことがあります。

 「どうして〇〇はいつも△△なのか」

という言い方をひっくり返して、

 「いつも△△なものを○○と呼んでいるのではないか」

と考えてみるのです。ただし実際に口に出すと、 もめることも多いのでご注意くださいね。

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演出とプログラミングの話。

プログラミング言語処理系Gaucheの作者であり、 なおかつ俳優でもあるShiroさんのブログ記事を興味深く読みました。

 ◆Mai Poina in Maui / 演出家の仕事
 http://blog.practical-scheme.net/shiro/20160918-mai-poina-maui

少し引用します。

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 何度か演技のクラスで一緒になった俳優のDennis Chun氏は
 役者の仕事は"how to make the scene work" を考えることだ、
 と言っていた。
 とすれば演出は "how to make the play work"
 を担当するってことかもしれない。
 http://blog.practical-scheme.net/shiro/20160918-mai-poina-maui
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ここには二つの概念と二つの役割があります。 芝居のシーン(scene)と芝居全体(play)。 そして役者と演出。 役者はシーンを担当し、演出は芝居全体を担当。

記事の中では、 役者の演技と演出の考えがずれたとき、 すりあわせをどうするかについて書かれていました。

演出は、役者の演技そのものに口を出すのではなく、 演技のもとになっている「解釈」の方をすりあわせする。 そんなお話でした。

演出と役者が「解釈」においてすりあわせできたなら、 そこからさきの演技は役者にまかせる、と。

この記事を読みながら、 「部下の行動を細かく指示したがる上司」 という「あるある話」を思い出していました。

上司と部下の責任分担がしっかりしていて、 それぞれに十分なスキルがあれば、 細かい指示を減らすことができます。 上司の「方針」が何らかの形で部下に伝えられ、 部下はそれを適切な方法で実現する。 その連係プレイが組織で動く妙味になるでしょう。

それはまた、 プログラミングでのインタフェースの重要性にもつながる話です。 一つのモジュールが、他のモジュールの実装詳細に立ち入ると、 メンテナンス性は悪くなります。

 ・わたしは何に責任があるか。
 ・あなたは何に責任があるか。
 ・そして、わたしとあなたが協力して目的を達成するため、
  わたしたちはどんな情報交換と合意が必要か。

このくらいの抽象度で考えると、 「演出と役者」「上司と部下」「複数のモジュール」は、 とても似ているように感じますね。

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インタビューの話。

ファイルを整理していたら、2007年に公開した 「数学ガール出版記念(仮想)インタビュー」 というファイルが出てきました。

「出てきました」といっても、 ずっと自分のWebサイトで公開していて、 その存在を忘れていただけなんですけれどね。

スマートフォンやタブレットでも読みやすいように、 レスポンシブデザインに修正し、 改めて公開しました。

無印の『数学ガール』が刊行され、 まだ続編が出るかもわからなかった時代のお話。 読んでいると懐かしくなります。 お時間がありましたらお読みください。

 ◆『数学ガール』出版記念(仮想)インタビュー
 http://www.hyuki.com/girl/interview.html

これは『数学ガール』を紹介する目的で結城が作った文章ですので、 実際にインタビューを受けたものではありません。念のため。

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英語の話。

先日、 @ww_cb さんのうれしいツイートを読みました。

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 結城先生の英語版数学ガールの力を借りて、
 フィリピンの数学の先生に複素数平面を伝えてみた。
 超カタコトだったけど、
 複素数の掛け算が回転を表していることはすごく感動してました。
 数学ってすごい!っていうか結城先生が書く本は夢中になって読める本です!
 https://twitter.com/ww_cb/status/777879203601457156
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 複素数の計算がただの計算で終わらない
 ということをどうしても伝えたくて、
 自分が結城先生の本から感動させてもらったことを
 他の国の人に伝えてみようと思いました。
 英語苦手ですが、他の国の人にも伝わった瞬間に
 数学って英語よりも世界共通言語だなと思いました!
 https://twitter.com/ww_cb/status/778005827336548352
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結城はこのツイートを読んで、深く感動しました。 その理由はいくつかあります。

 ・数学的な内容を英語で伝えようと思ったこと。
 ・「どうしても伝えたいこと」を伝えたい!と思ったこと。
 ・そして実際に感動が伝わったこと。

結城はこの話のように、 伝えたいことを言葉に乗せて相手に送るというアクションがすごく好きです。 自分が考えるだけではない、自分が納得するだけでもない。 感動を伝えたいという願いを実行に移すところ。そこです。 そこがすごく好きなんです。

実行したら、成功するかもしれないし、失敗するかもしれない。 あたりまえのことです。 それでも、どうしてもやってみたいから、 自分の中にその気持ちが強くあるから、チャレンジする。 その感覚が好きです。

この話題は、今回の結城メルマガで配信する、 「数学ガールの特別授業(筑紫女学園編)」にも通じる話です。 今日は、生徒さんの質問に答えていますが、 その中に「言葉で伝える」話が出てきますね。

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本の話。

リンダ・グラットンの『ワーク・シフト』の続編が出るらしいです。 タイトルは『ライフ・シフト』とのこと。

 ◆『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』
  (リンダ グラットン+アンドリュー スコット)
 https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B01LYGI45Q/hyam-22/

『ワーク・シフト』は、結城にはめずらしく(?)、 かなりていねいに読んだ本のひとつです。 世の中がこれからどのように変化していくのか、 そしてその変化に応じて「労働」はどう変化するのか。 それが描かれています。

 ◆『ワーク・シフト 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>』
  (リンダ グラットン)
 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B009DFJE9Q/hyam-22/

大げさな言い方をすると、私は『ワーク・シフト』を読んでから、 世の中の流れを見る自分の視線が変わったように思います。 というのは、日々流れてくるニュースが、 この『ワーク・シフト』で描かれている近未来像の《一例》 のように見えることがよくあるからです。

『ワーク・シフト』では、 グローバルに活躍して専門能力はあるけれど孤独な人や、 必ずしも収入は大きくないけれど自己の価値観で生きる人や、 大企業に属さず小さなユニットによって活躍する人や…… そのような近未来に働く人たちの姿が描かれます。

今度の続編『ライフ・シフト』もたいへん楽しみです。

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Web連載の話。

結城はCakesで「数学ガールの秘密ノート」のWeb連載をしています。 現在は「広がる複素数」シーズンが終了し、お休みをいただいているところ。 再開は2016年10月7日(金)です。

それまでの時間Web連載の新シーズンを準備します。 すでにEvernoteには新シーズンの題材候補が何個もあるので、 その中から一つ選び、お話を膨らませていく作業をするのです。

先週検討していた題材は、調べているとやや難しすぎることがわかりました。 なので別の案を考えて「一人ブレーンストーミング」をします。 Evernoteに新たなノートブックを作成し、 考えたことをぱたぱた書いていくだけですけれど。

すでに自分の中にアイディアがあって、 ただ書き出すだけの章もありますし、 キーワードだけ覚えていて、 参考書で調べながら進む章もあります。

自分がすでに知っていることを書くか、 自分がまだ知らないことを書くか、 そのバランスを取るのは難しいものだと思います。

Web連載を開始する時点でまったくわからないというのは無茶ですが、 全部わかった状態になってスタートするのも無茶です。

一番いいのは、毎週書き進めながら、 私自身が新たに学び、新たな発見をしていくくらいの難易度と題材です。 そんなにうまいこと発見できるものかね、と思いたくなりますが、 でもわりとうまく発見できるものです。

自分で「わかっている」と思った内容であっても、 Web連載を書き進めるために改めてじっくり考えると、 必ず「なるほど!」という発見が見つかるものなのです。 これは結城の経験則です。

これはほんとにそうです。 「わかっている」と思って説明を省略したり、 例示を怠ったりすると、ふわふわした内容になってしまいます。 けれど「改めて考えよう。自分でていねいに式を追い、論理をつかもう」 と心がけるなら、必ず発見があるのです。不思議なものですね。

ということで、せっせとEvernoteにメモを取り、 Web連載の新シーズンに備えています。

どうぞお楽しみに!

 ◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」
 https://bit.ly/girlnote

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では、今週の結城メルマガを始めましょう。

今回で「数学ガールの特別授業(筑紫女学園編)」は終了です。 (1)〜(6)までのすべてのPDFのリンクをお送りします。

どうぞ、ごゆっくりお読みください!

目次

  • はじめに
  • 数学ガールの特別授業(筑紫女学園編)(6)
  • 嘘をつかない - 仕事の心がけ
  • 大人になってから数学をやり直す - 学ぶときの心がけ
  • おわりに