結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年4月18日 Vol.264
はじめに
おはようございます。結城浩です。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
先週は、 雨をくぐり抜けて咲く桜を楽しむことができました。
でも、関東の桜の花はそろそろ終わり。
春から初夏へ少しずつ季節は移っていきます。
2017年になってばたばた忙しかった結城の生活も、 ありがたいことに、少し落ち着いてきたようです。
本の完成へ向けてがんばらなくては。
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新刊の話。
『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』を書いています。 当初の予定よりずいぶん遅くなってしまいましたが、 先週はやや進捗がありました。 第3章と第4章をレビューアさんに送ることができたのです。
今週は第5章とエピローグに取り組む予定。
結城は執筆作業を進めるときに、簡単な作業ログを書いています。 そして作業開始時には、 自動的に最近の作業ログが表示されるようにしています。 最近の作業ログはこんな感じです。
◆『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』作業ログ(スクリーンショット)
構成を大きくいじっているときには作業ログにもいろいろ書くのですが、 微調整の段階になってくるとあまり書くことがありません。 ひたすら何度も何度も読んでいき、ちまちまと直すだけです。 なので、作業ログも「第3章。」だけになっちゃってますね。
作業ログをときどき読み返すのはモチベーションアップになります。 「なぜこんなに作業が進まないんだろうか」という疑問に対して、 「そもそも時間が掛かる作業なのだ」というのを実感できるからです。
自分はベストを尽くしていると実感できるのは、 次の一歩を進める上で重要です。
アマゾンではすでに予約が始まっていますが、 焦ることなく最高の作品を作っていきましょう!
◆『数学ガールの秘密ノート/積分を見つめて』
https://bit.ly/girlnote09
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ホームビデオの話。
先日、ひょんなことから妻と二人でホームビデオを見ていました。 いまから二十年以上もむかしのビデオです。 長男が生まれたころ、 彼女と私の両親がお祝いに集っているところなど。
当時のビデオはシャープの液晶ビューカムで撮りました。 撮影してから数年して別の機械(たぶんソニー)を買ったので、 それで再生できるメディアに移し替えました。 また数年経って今度はVHSに移し替えました。
物理メディアは適当なタイミングで移し替えないと、 機械がなくなって再生できなくなったりします。 こんなこと繰り返してもしょうがないと思い、 結局、ある時点でMP4ファイルに落としました。 現在はDropboxで管理しています。
物理的な「もの」を管理するのは、 自分の住居スペースを圧迫しますし、 破壊や劣化を招く場合もあります。 電子的な形で保存できるなら、 それに越したことはありません。
二十年以上も前のホームビデオを見ると、 なつかしいと思うのはもちろんです。 でも、切なさとか、さみしさとか、 何ともいえない独特の感情を抱くようになってきました。
ビデオに写っている父親二人はどちらも他界していますし、 母親二人も(そして私たち夫婦も)みんな二十年分、 歳をとっているわけです。
時が流れると、すべてが変化していくのですね。
もののあはれ。
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MathJaxの話。
Webで数式交じりの文章を美しく表示するとき、MathJaxは便利です。 WebページのheadでMathJaxの設定をするだけで、 Webページ中に書かれたLaTeXコマンドが数式に変換されます。
◆MathJax
https://mathjax.org/
たとえば、CakesのWeb連載「数学ガールの秘密ノート」でも、 MathJaxを利用しています。
先日、MathJax公式から「MathJax CDNのサービス終了」 というアナウンスがありました。具体的には、
cdn.mathjax.org
beta.mathjax.org
でのCDNサービスを停止するということです。 ここにリンクしてMathJaxを利用している人は、 代替サービスとして、
cdnjs.cloudflare.com
を使うことが求められています。
結城も、自分が管理しているサイトをチェックして、 期限となっている2017年4月末までに直さなくては。
詳しい情報や、具体的にどのように変更すればいいかは、 以下のページで解説されています。
◆MathJax CDN shutting down on April 30, 2017.
Alternatives available.
https://www.mathjax.org/cdn-shutting-down/
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コンピュータサイエンスの授業の話。
先日、Rui Ueyamaさんのnote(ノート)を読みました。 Rui UeyamaさんはシリコンバレーのGoogleで働きつつ、 スタンフォード大学で学んでいる方です。
◆スタンフォードのコンピュータサイエンスの授業の感想
https://note.mu/ruiu/n/n4d720b650c5b
これを読んでいると、すごく楽しそう!と感じます。
難しくても、大変でも、 やっぱり学ぶって楽しいことなんですよね。
それにしても、Webがなかった時代には、 さっきのnote(ノート)のような個人の体験記を見る手段って、 ほとんどなかったんじゃないでしょうか。
ふつうの人がどんなことを考えているか、 それを垣間見ることができるのが現代なのですね。
Webの黎明期には「個人が行う情報発信」 ということがよく言われました。 そこには「個人が特別のことを情報発信する」 というイメージがあったように思います。 でも実は、各個人が「自分の日常」を語るだけでも、 十分おもしろい情報発信になっているんだと思います。
Twitterや、後ほどお話するMastodon(マストドン)でも、 自分のふだんの当たり前の日常を語っているわけですし。
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TAOCPの話。
The Art of Computer Programming(略称TAOCP)といえば、 LaTeXを作ったKnuth先生のライフワークである書籍シリーズです。
「アルゴリズムの解析」を扱ったこのシリーズの最新刊、 (第4A巻)の日本語訳が出ました。
◆The Art of Computer Programming Vol.4A日本語訳
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4048930559/hyuki-22/
こういう本は即買いしています。
実をいうと、TAOCP Vol.4Aは原書のときも購入しています。 しかも二冊。一冊はスキャンしてPDFにしています。 もう一冊は紙のまま使っています。
さらにいうなら、Vol.4Aとしてまとまる前の分冊(Fascicle) も原書と日本語訳を買っています。 いったい何回買うんだ自分……
結城には、このレベルの難しさの本は、 すべてが読めるわけではありません。でも、 すべてが読めないわけでもありません。 ということは、この本の中には、 自分の「読める/読めない」の境界線があるということになりますね。
《自分の理解の最前線》にはおもしろいものがいっぱいあります。 それは経験上よくわかっています。 少しがんばって読み解けば「なるほど、そういうことか!」 といえるものがたくさんあるということですね。 開けるのに少し力が必要なおもちゃ箱といいますか、 宝石箱といいますか。
なので、やや背伸びをしても、ともかく本を買う。 手元に置いて、ときどきパラパラとめくる。 読めそうなところがあったらじっくり読む。 そんなことを繰り返そうと思っています。
そんなことをしても、 今日明日で何かが起きるわけではありません。 でも、一年二年しているうちに、 おもしろいことが起きる(かもしれません)。
『コンピュータの数学』も、 そんなふうにして読んでいったんですよ。 問題を解くまではいかないけれど、 内容はずいぶん読めるようになったんじゃないかなあ。
◆『コンピュータの数学』(グレアム+クヌース+パタシュニク)(アマゾン)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4320026683/hyuki-22/
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カフェで見た女の子の話。
カフェで仕事中、 三歳くらいの女の子が店の中を歩いているのを見かけた。
その後ろを、五歳くらいの男の子が歩いている。 女の子が歩く速さに合わせて歩いているので、 たぶん、女の子のお兄ちゃんなんだろう。
女の子は身体全体を使って、
「わたくし、機嫌悪いんですのよ」
という雰囲気をまわりにふりまいている。 彼女の顔の動きも、手を組む仕草も、 ときどきちらっとお兄ちゃんを振り返る視線も、 まるで大人の女性のように見える。
お兄ちゃんは、 つたない表現でなだめる言葉を口にしつつ、 不機嫌な妹の後をずっと歩き続けている。
私は、そんな二人を眺めていた。
* * *
では、そんなところで、 今回の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- 数学の問題に挑戦しよう!(問題編)
- マストドンとアイデンティティ
- 書くことと学ぶこと - 本を書く心がけ
- 数学の問題に挑戦しよう!(解答編)
- おわりに