結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年12月12日 Vol.298
はじめに
おはようございます。結城浩です。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
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生き残るためのスキルの話。
こんな質問をいただきました。
今後、生き残っていくことができるエンジニアとは、
どんなスキルを持っている人でしょうか。
結城はこの質問に対して断定的な答えができるわけではありません。 でも、この質問に関連したお話をしてみましょう。
この質問を読んでまっさきに考えたのは、
「このスキルを持っていれば生き残れる」
というスキルは存在するか?
という疑問でした。 質問にそのまま答えようとすると、 生き残るためのスキルを探してしまいます。
たとえば「プログラミング言語の○○を習得しよう」とか、 「ハードウェアの知識が必要になる」とか、 「コミュニケーションの能力が意外に必要」とか。
でも落ち着いて考えてみると、 必要なものはいつの時代も同じだと思いました。
・英数国の力を持ち、本や他人から学ぶことができる。
・変化を受け入れ、変化を起こすことができる。
・知識を大切にするが、必要とあれば捨てることもできる。
無理に一言でいえば「スキルを身につけるスキル」でしょう。 すなわち「メタなスキル」が大切となるのです。
どういうことなのか、もう少し言い換えます。 表面的なスキルや知識だけを求めるのはよくありません。 「このスキルさえ身につけていればもう大丈夫」と考え、 そのスキルにしがみついているのではまずいでしょう。
なぜならば、世の中は変化していくからです。 どんな知識でも、どんなスキルでも、すぐに古くなります。 特に最先端のものほど、あっというまに古くなります。
一つの技術、一つの知識、一つのスキルを過学習してしまうと、 時代が変化していったときに困ってしまいます。 知識やスキルが悪いというのではありません。 それにしがみつくのが良くないのです。
そのように考えますと、学校で英数国を学ぶのは大事なことですね。 学校で学んでいるのは、将来社会に出てから、 必要なスキルを身につけるための基本スキルになるのです。
財産にたとえるなら、学校で学んでいるのはいわばタネ銭。 「学ぶためのタネ銭」といえるでしょう。 学ぶ力は複利で増えます。学校で学んだ知識をもとに、 本を読み、人の話を聞くことができるからです。
学校で学んだことが即、役に立つかどうかはわかりません。 あまりにも基本的であるために、 一見すると役に立たなく見えることも多いでしょう。 でもそれは、財産形成のタネ銭が見劣りするようなものです。 大切なのはタネ銭を持つことと、それをいかにして増やすかを考えること。
私が先ほど「メタなスキル」と言ったのは、 自分が持っているタネ銭を増やすスキルのことなのです。
ご質問ありがとうございました。
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クリエイタの心構えの話。
「イノベーションのジレンマ」は個人クリエイタにもある。
成功体験はクリエイタを殺す。
未来を生み出す存在が、 過去の威光に振り回されるのは悲劇であり喜劇である。
幼児の歩みを見よ。 新たな一歩を踏み出すためには、 現在のバランスをいったん崩すことが不可欠である。
過去に生きると決めた人は、 未来に死ぬことを選んでいる。
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レスポンシブデザインと機会損失の話。
歳をとると、紙の本を読むのがつらくなります。
目が弱くなったからというのが大きな理由です。 紙の本だと光の影響を受けやすく、 場所や角度で見え方が変わるので疲れやすいのでしょう。 大きな本の場合、視線の移動量もばかにできません。 重さの問題もありますね。 紙の本を持つ手は疲れやすいけれど、 iPhoneなら片手で持ったままじっと読めますから。
ということで、結城は、紙の本で読むよりも、 コンピュータの画面やiPhoneの画面で読む方がずっと楽です。
ですから、iPhoneで読めるテキストはとても大事です。 ところが残念なことに、ネット巡回をしていると、 iPhoneで読めないWebサイトが意外に多いことに気づきます。
すこし古いWebサイトだと、 レスポンシブデザインになっておらず、 字が小さくて読めないことが多いのです。
モダンなブログサービスを利用していたら大丈夫ですが、 独自のやり方でサイト構築していた場合には、 気づかないうちに時代遅れになっていることもあるでしょう。
新しいサイトはもちろんのこと、 昔ながらのWebサイト管理者は、 ぜひ、iPhone(スマートフォン)で自分のサイトを見ていただきたいです。 そしてレスポンシブデザイン対応してほしいなあ……
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年齢層の話。
Twitterのサイトで「ツイートアクティビティ」という情報ページがあります。 その「オーディエンス」という欄を眺めていたら、 結城のアカウント(hyuki)をフォローしてくださっている方、 その年齢構成が表示されていました。 下図のように、 18〜24歳が33%、25〜34歳が39%、35〜44歳が16%でした。 結城が体感で想像しているよりも年齢層が高いと感じました。
フォロワーさんから「アンケートしてみたら」とアドバイスをもらったので、 期間は一日で年齢構成のアンケートをとってみました。 すると下図のように、 18〜24歳が43%、25〜34歳が26%、35〜44歳が19%という結果に。 こちらの方が、結城の体感に近いと思いました。
どちらの信憑性が高いかは判断できませんけれど、 「Twitterのアナリティクスが教えてくれるもの」と 「一日アンケートでお答えいただいたもの」とでだいぶ違いがあるようですね。
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数学の教え方の話。
高校一年生の女性から、以下のような質問をいただきました(要約)。
テスト前に友人から数学の質問を受けます。
でもうまく説明できません。
自分では理解していると思っているのに、
うまく言葉になりません。
人に数学を教えたり説明したりするときの心得を教えて下さい。
人に数学を説明するときに大事なのは、
「いま相手は何をわかっているのか」
を知ることです。なぜなら、 わからない状態で新しいことを伝えても、 なかなか理解は進まないからです。
相手が何をわかっているのかを知るためには、 「これはわかってる?」などと問いかけ、 相手からの返答によって判断します。 相手の理解度に応じて、 説明内容を考える必要があるでしょう。 すなわち、
「相手と歩調を合わせて進む」
ように説明することが大切なのです。 先生役のあなたがいくら先を急いでも、 生徒役の相手がついてこれなかったら意味がありませんから。
自分はわかっているけれど、 他の人に教えることが苦手な人が陥りやすいミスがあります。 それは「これはわかってる?」と聞いて返事が返ってこないとき、 相手を怒ってしまうというミスです。
あるいはまた「これはわかってる?」と聞く口調が、 相手を問い詰めるような言い方になってしまうミスもよくあります。
自分はわかっているけれど、一発で相手に説明できないとき、 どうしても先生役の人はイライラしがちです。 そのイライラが、相手への怒りになったり、 問い詰める口調になったりするわけですね。
それから、相手が「○○についてはわかったよ」といっても、 実際にわかっているとは限らないのも要注意です。 これは同年配同士で教え合うときによくあります。 「わからない」と言いにくいため、 つい見栄をはってしまい「わかった」という場合です。 あるいはまた、ほんとうに「わかったつもり」 になっている場合もあります。
いずれにせよ「どこまでわかっているのか」を確かめた上で、 的確に次の一歩を進めることが大切になります。
そして、そのように「教える」という経験は、 実は自分自身が学ぶときも役に立ちます。 なぜなら、自分に対して、 「これはわかっているかな?」 と根気よく問いかけることができるようになるからです。 わかったふりをせず、本当にわかっているのはどこまでかを確かめ、 的確に次の一歩を進めることは、学ぶ上で大切なことですね。
「数学ガール」シリーズで描かれているのは、 まさにそのような「わかったかどうか」を確かめる対話かもしれません。 数学ガールを読んで「教え方の参考になった」や「学び方がわかった」 という方が少なからずいるのは、そのへんに理由がありそうです。
ご質問ありがとうございました。
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それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- 再発見の発想法 - A/Bテスト
- 老人とのコミュニケーション
- たくさん売れる危険性 - 本を書く心がけ
- おわりに