結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2019年1月22日 Vol.356
目次
- 人生で決断をくだすとき
- インクリメンタルな環境改善(1) - 仕事の心がけ
- 失敗が怖くて挑戦できない
- パズルゲームで遊ぶときに考えていること - 学ぶときの心がけ
はじめに
結城浩です。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
今回は「おわび」から。
先週のVol.355でnote(ノート)での配信が1日遅れるという事故がありました。
これは、結城が配信予約の際に設定ミスしていたためです。
たいへん申し訳ありませんでした。
なお、今回のミスは講読者さんからご連絡いただいて初めて気付きました。連絡がなかったら、さらに配信が遅れてしまうところでした。ご指摘くださった講読者さんに深く感謝します。
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確定申告の話。
毎年、いまごろの時期になると「確定申告」が気になります。結城は個人事業主なので、2018年1月1日から12月31日までが「2018年度」となり、そのあいだの収入や支出などをまとめる必要があるのです。
もちろん会計仕事は毎月やっているのですが、あちこちに細かいミスや漏れがあったりするので、確認作業が意外にたいへんなのです。
「ええと、どこから手を付けたらいいかな」と思ったときに私は気付きました。
「2018年の自分」は「2019年の自分」に対して、申し送りの情報を残しておいたはずだ!
探してみると「いかにも私が探しそうなところ」に、確定申告作業リストがチェックボックス付きでまとめられていました。2018年の自分、えらいぞ!
……大げさでしたね。
それはそれとして「確定申告」の機会に、2018年という一年間の活動を振り返るのは重要なことだと思っています。自分の活動というと結城の場合は「本を書くこと」なのですが、それを「一年間のお金の出入り」という視点から見直すというわけです。
ふだんは「この文は誤解を招くから直そう」や「ここの『は』は『が』の方がいいな」のようにミクロな視点で仕事をすることが多いです。それに対して「一年間のお金の出入り」という視点に立つと、自ずから全体を俯瞰することになります。
全体を俯瞰するとは、たとえばこんな問いに答えることです。
- 本の売上は、収入全体の何割に当たるか。
- 紙の本と電子書籍の売上は、どういう比率か。
- 新刊と増刷の売上は、どういう比率か。
- 何年も増刷を繰り返している本の、売上推移はどうか。
- 国内と海外の売上は、どういう比率か。
つまり、自分の収入を構成する要素をよく知り、全体像を正しくとらえようとしているのです。
必要な会計データはスプレッドシートに入れてあるので、並べ替えをしたりグラフを描いたりして全体を俯瞰します。個々の会計データを入力するのは決しておもしろい作業ではありませんが、全体を俯瞰する作業は非常におもしろいです。見ているのは世界のここにしかない会計データだからですね。
たとえば、次のようなことがわかります(もちろん実際はもっと深く調べます)。
- 電子書籍は安定して伸びている。
- 海外の売上も伸びている。特に中国。
- 新刊と増刷の比率には大きな変化はない。
- 「結城メルマガ」は貴重な安定収入源である(あなたがいま読んでいるこれのことです。感謝!)
結城は、会計データをおもしろがっているだけではありません。全体を俯瞰する作業を通して現状を理解した上で、自分の「未来の活動」に結びつけようと思っています。売上が上がるのは重要です。しかし、そこだけに注目するのではなく「自分が望むポートフォリオになっているか」という確認が重要だと私は思っています。
……などと書いてきましたが、実は、売上に関しては単純な法則がわかっています。それは「新刊を出すことは、全体に多大な好影響を与える」という身も蓋もない法則です。
ということで、2019年もがんばって新しい本を書かねば!
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アイコンの話。
結城さんのアイコン「スレッドお化け坊や」がかわいいので、自分のアイコンにしたいのですが、大丈夫でしょうか……というお問い合わせをいただきました。
それに対して結城は、「スレッドお化け坊や」は結城浩のアイコンなので、あなたご自身のアイコンとして使うことはご遠慮ください……というお返事をしました。
アイコンやアバターは重要です。特にネットではそれが「顔」の代わりになりますから。ツイートでも、ブログ記事でも、結城浩のアイコンが表示されることで「あ、結城浩が書いてるんだな」と認識できます。「名前もIDも覚えていないけど、アイコンだけは覚えている」というケースもよくありますよね。
ネットでの活動を大事だと考えている方は、アイコンをよく考えて決め、それを継続的に使うことをお勧めします。クリエイタ系の人は特に当てはまると思います。「この作品はあの人が作ってる」ということを認識してもらうための大きな手がかりがアイコンになるからです。
結城は「スレッドお化け坊や」という同じアイコンを20年近く使っています。
◆結城浩のアイコン
http://www.hyuki.com/icon/
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コミックの話。
Web連載「数学ガールの秘密ノート」に登場した新キャラ「ノナちゃん」は絵を描くのが好きなようです。ノナちゃんからのご紹介でこんなコミックを知りました。
『ブルーピリオド』は藝大を目指す高校生の物語です。自分に何ができるのかを考えること、言葉ではなく絵を使って表現すること、自分の生きていく方向を見定めていくこと……そのようなテーマが青春群像として描かれている作品です。
◆山口つばさ『ブルーピリオド』
https://amzn.to/2U6rhRT
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毎日「お題」を与えられる話。
Daily UIという企画を知っていますか。
メールアドレスを登録すると、ユーザインタフェースの「お題」が毎日ひとつ与えられ、そのお題に答えるデザインをする。そういう無料企画のようです。
◆Daily UI
http://www.dailyui.co
ユーザインタフェースのお題というのは、たとえば「Advertisement(広告)」や「Calculator(計算機)」や「Search(検索)」のような単語として与えられます。それをもとに自由にWebやアプリをデザインし、それをツイートする。それだけといえばそれだけ。
毎日、お題が与えられ、それをデザインすることで、デザイン力をつけていくというチャレンジ企画なのでしょう。
DailyUIというハッシュタグを検索すると、たくさんの人が日々チャレンジしているようすをうかがうことができます。
◆TwitterでDailyUIを検索する
http://bit.ly/hyuki-dailyui
結城がこの企画を知ったのは、灰色ハイジさん(@haiji505)が「100日続けたDaily UIの記録」という記事をnoteに書いていたからです。
◆100日続けたDaily UIの記録|灰色ハイジ @haiji505|note(ノート)
https://note.mu/haiji505/n/n4c58da2f6154
これを見て結城が思ったのは、同じノリで「Daily ○○」というサービスが作れそうだなということでした。Webサービスの仕組みとしてはそれほど難しくはないでしょう。登録されたメールアドレスに、毎日一個ずつメールを送るだけですから。気の利いた「お題」を100個(あるいは256個)用意するところがポイントですね。
たとえば「Daily Math(毎日1つ問題を解く)」や「Daily Blog Topic(毎日ブログ記事を書く)」や「Daily Programming(毎日プログラムを一つ書く)」というのはどうでしょうね。
「Daily ○○」に挑戦するのもいいけれど「自分が作れるDaily ○○は何だろう」という発想はおもしろそうです。チャレンジするとおもしろい項目を自分は100個見つけられるだろうか。それはどんな分野だろうか。そういう発想です。
あなたなら、どんな「Daily ○○」を作りますか。
私なら「Daily 「Daily ○○」」を作りたくなります。毎日「○○」が送られてきて「Daily ○○」に使える単語を100個作るチャレンジ企画です。メタだ!
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では、そろそろ今回の結城メルマガを始めましょう。
どうぞごゆっくりお読みください。
人生で決断をくだすとき
質問
結城先生は、人生で何か決断をくだすときに、何を基準にしていますか。
回答
ご質問ありがとうございます。
「決断の基準」といっても、人生の決断は規模や種類や重大性がさまざまなので一概には言えません。答えるのがすごく難しい質問です。
選択肢がある場合には、割と「エイヤ」で決めちゃいます。決めてから、がんばる。十分がんばったら、うまくいってもうまくいかなくても後悔しない。そういうパターンが多いようですね。
どういう選択肢を選ぶかについては、感覚的な話で恐縮ですが「未来に広がる方を選択する」ように心がけています。つまり、すぐには役立たないかもしれないが、長期的には望む方向になる選択肢を選ぶという意味です。
◆未来に広がる一手
https://mine.place/page/0687be6b-1aaa-471b-9ba6-03dff459adbd
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人生の決断という話になると、論理的に割り切れないものも多数ありますし、そもそも未来は目に見えないので「確実にこうなる」とはいえない中で判断することになりますよね。人生は簡単には割り切れない、と腹をくくって決断します。
結城はクリスチャンですから、決断においては「神さまに祈る」ことが欠かせません。また、結城の決断には「聖書に基づくキリスト教的な価値感」が大きな影響を与えていると思います。
◆将来の住まいについて考える
http://www.hyuki.com/dig/tolive.html
「決断の基準」という話からは少し離れますが、結城は「全部賭け」が好きな傾向があるようです。特に大事なものほどそうです。一つのことに集中する。一つのことに時間を注ぎ込む。一点買いする。そんな感覚です。
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決断するときには、自分の人生全体に思いを馳せることは重要です。いま私が立っている場所はどこか。何のためにいまここに立っているのか。何のためにいまこの決断と向かい合っているのか。そのような大きな問いに必ずしも答えが得られるとは限りませんが「思いを馳せる」ことは重要です。大きな決断は、自分の人生に大きなインパクトを与えるからです。
◆あなたがもし、このような時に黙っているならば
https://story.hyuki.net/20180623075359/
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重大な決断は当然ながら重大です。しかし、決断しない方がいい場合もあります。特に体調が良くないとき。結城は、体調が良くないときには重大な決断はしないように心がけています。
◆心の状態が良くないときには
https://story.hyuki.net/20150926224914/
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決断することは重要で、一度決断したことは守った方がいいと思います。しかしながら、どうしても上手く行かないときには、大胆に決断を翻すこともときには大事です。矛盾しているようですが、割り切れないのが人生です。
自分を律するという意味で、あるいは多少の困難に負けないという意味で、いったん行った決断を大事にするのはいいことです。しかしながら、過去の決断にこだわることが「関係者の誰も幸せにしない」ということも人生にはよくあります。
決断を翻すことで、一時的に自分が非難されたり恥をかいたりするけれど、長期的には関係者が幸せになるというケースです。その場合には「決断を翻す」という「新たな決断」が大事なこともあるのです。
以上、「決断の基準」に限らず「決断というもの全般」について思うことを書きました。あなたに何か伝わるものがあればうれしいです。
ご質問ありがとうございました。