結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2013年8月13日 Vol.072
はじめに - 夏休みと規則正しさ
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
毎日、「これぞ夏!」というほど暑い日が続いていますが、お元気ですか。 結城は何度も何度も「クーラーは文明の利器」という言葉をつぶやいております。 二つの意味があって、クーラーというのはすばらしい発明だなあという気持ちと、 こんなに暑いときにはクーラーがないと文化的な生活は難しいなあという気持ちです。
実際、クーラーをつけないでいると頭がぼうっとして何も考えられません。 そのうちに何を考えようとしていたのかすら思い出せなくなって、 もういろいろめんどうになってしまう。危険です。 あわててクーラーで涼みながら考えごとを再開します。
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講演集『数学ガールの誕生』の初校読み合わせが終了しました。 現在は再校ゲラが出てくるのを待っている状態です。 そのあいだに、『数学ガールの秘密ノート』第二弾の原稿を進めます。 これは今年の12月に刊行なのですが、 この8月9月のうちには結城の側で完成させなければなりません。 ということでできるところからせっせと原稿整理を始めます。
夏休みに入ってありがたいことに生徒さん・学生さんが『数学ガールの秘密ノート』を たくさん読んでくださっているようです。メールでご感想をいただいたり、 Twitterで感想ツイートを見かけたりしています。感謝なことです。 読者さんの生の声を聞くことができるというのはとてもありがたい時代になったなあと思います。
結城が最初の本を書いたのは1993年ですが、 その頃は書籍に「ハガキ」がはさまれていました。 読者さんは著者や出版社へ「ハガキ」を使って感想を送っていたのです。
ハガキに書かれた感想をまとめてコピーした紙が、 ときどき編集部から送られてきます。 結城はそれを読むのが楽しみで楽しみで……。 現代のTwitterのように感想がリアルタイムで読めるわけではないのですが、 読者さんからのフィードバックはたいへん貴重なものでした。 当時の紙は現在でも本棚に大事にしまっています。
現在は編集部からハガキのコピーが送られてくることはありません。 ただ、「数学ガール」シリーズの読者さんから封書のお手紙を転送してもらうことがあります。 読者さんが書いた論文だったり、長めの感想文だったりと、形式や内容はいろいろですが、 ともかく編集部に届いた読者さんの作品が転送されてくるのです。 それを読みながら、読者さんからの反応をいただけるというのは ありがたいことだとつくづく思います。
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結城のようにフリーで仕事をしていると、つい夏休みを取るのを忘れてしまいます。 基本、文章を書いている(仕事をしている)のが大好きなので、 意識的に別のことをしようと思わないとずっと日常生活を続けてしまうのです。 家族からブーイングが出ます。
夏休みというと最初に思い出すのは高校三年生の夏休み。 何をやっていたかというと勉強です。毎朝母親にお弁当を作ってもらい、 自転車で図書館に出かけ、午前中勉強して、お弁当食べて、午後勉強して帰ってくる。 そういう毎日でした。
勉強三昧の夏休みでしたが、私はとても楽しかったのを覚えています。 問題集のページを日数で割り算して、何日に何番と何番の問題を解くかという予定表を作り、 実行したら蛍光ペンで染めていく。それが楽しかった。
何より好きだったのは、毎日が規則正しく過ぎていったことです。 やるべきことがあって、淡々とそれをこなす毎日。 いま思っても、それは充実した夏休みでした。
「数学ガール」シリーズに出てくるような美少女数学ガールがそばにいれば もっと楽しかったかもしれませんが、 それはそれで勉強どころじゃなかったでしょうね。
とここまで書いて気づきました。 私はいまも同じようなことやってますね。 毎日毎日規則正しく書き物をする。 やるべきことがあって、淡々とそれをこなす毎日。
まったく同じじゃん!
……こほん。
夏休みというと、あなたは何を思い出しますか?
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先週はCodeIQの「ディーペスト問題」の応募〆切が過ぎ、 解答してくださった方々に評価とフィードバックを送りました。 全部で154名というたくさんの方々にご解答いただきました。 人数が多いほど原稿料が多くなるわけではないのですが、 たくさんの方に楽しんでいただけたと思うととても楽しいです。
運営さんから「次回もよろしくお願いします」という主旨のメールをいただいたので、 調子にのって新作問題を週末に作っていました。 メールで送ったらちょうど運営さんは夏休みとのこと。 新作問題の公開は運営さんの夏休み明けになりそうです。 前回の「ディーペスト問題」は銀河の星を探索するという壮大な問題でしたから、 今回の「クロッシング問題」はもう少し小ぶりでかわいらしい問題にしてみました。 たくさんの方がまた楽しんでくださるといいなあ。
CodeIQに出題し始めたのは今年2013年の1月からですが、 これまでに11題出題して、のべ解答者数は1486人に上ります。 これはたいへん多い人数です。
結城は「問題を出してみなさんに解いてもらう」というCodeIQのような企画がとても好きです。 Web日記でも、Twitterでも、誰に頼まれたわけでもないのにときどきクイズを出します。 考えてみると子供のときからそうでしたね。 親や友達に対してなぞなぞを出したり、『頭の体操』で仕入れたクイズを出したり。
あ、思い出した。
小学生のころ、こんなことをやって遊んでいました。
校庭の砂場のとなりに土が少し堅めの場所があって、そこに木の棒で文字を掘る。 たとえば「よ」というひらがな一文字を描くように掘る。 大きさは……そうですね、20cm四方くらい? 掘れたらその上に砂と土をかけて隠すのです。 そして友達を呼んできて、そこに隠された文字を当てさせる。 そんなゲームのようなことをやって遊んでいました。 子供時代。小学校の二年生か三年生くらいかなあ。
単純なゲームなのですが、 たとえば「め」を描いたのかな、と思わせて実は「ぬ」だったりと、 だんだんテクニックが生まれてきます。「め」が見つかった時点で安心して、 最後のくるんと丸くなるストロークを探し損ねる……それを誘うわけですね。 「は」かなと思わせて、実は「ほ」かなと思わせて、実は「ぽ」だとか。
考えてみますと、結城が現在CodeIQでIT技術者さんに出題している問題も、 小学生時代に友達に出していたクイズと同じ構造を持っています。 それは「とっかかりやすくて、興味を誘うけれど、 意外に奥が深くてトラップが隠されている」という構造です。 そしてさらに、解いた人が「なるほど!」と思えるような仕掛けが埋め込まれている。
たとえば今回出題したディーペスト問題は、仮想的に作った銀河の星探索です。 一見すると単純なアルゴリズムで解けそうに見える。 でも、実際にプログラムを作って動かしてみると「あちゃあ!そんなトラップが!」 と言いたくなる仕掛けが含まれています。
たかがクイズ、されどクイズ。 ちょっとしたことのように見える出題にも、作成者の意図は反映されるものですね。
……ということを書いていたら、やねうらおさんがご自身のブログ記事で 結城のディーペスト問題について言及なさっていました。 結城は気づいてなかったのですが、 この問題に挑戦してくださっていたようです。
◆世間ではプログラマが足りていないらしい
http://d.hatena.ne.jp/yaneurao/20130811#p1
このブログ、原稿書きの気分転換にと思って読んでいたら、 途中からCodeIQの話になり、結城の問題に挑戦した話になったのでたいへん焦りました。 幸い「問題の作りに関しては流石としか言いようがない。極めて良問である」 と評価されていたのでほっとしました。
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それではそろそろ結城メルマガを始めましょう。 今回のメインコンテンツは「再発見の発想法」で、 テーマは「On Demand - オンデマンド」です。
また「本を書くときの心がけ」のコーナーでは 「批判について」というタイトルで、 作品に対する批判にどう向き合うかについて考えます。
読者さんからの「Q&A」コーナーでは、 「同僚に遅れを取ってしまった」という方からのお手紙にお答えします。
それではどうぞお読みください!
目次
- はじめに - 夏休みと規則正しさ
- 本を書く心がけ - 批判について
- 再発見の発想法 - オンデマンド
- Q&A - 同僚に遅れを取ってしまい
- 次回予告 - フロー・ライティング