結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2013年8月27日 Vol.074
はじめに - 問題作成
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
結城メルマガで何度も書いていますが、 結城はCodeIQというサイトでIT技術者(プログラマ)向けの問題を出題しています。 先週の月曜日(8/19)に新作「クロッシング問題」を公開しました。
◆クロッシング問題
https://codeiq.jp/ace/yuki_hiroshi/q432
これは簡単に言えば、 たくさんの線分を並べたときの交点の数を数えるという問題です。
とはいえ、人間が手で数えるわけではありません。 データファイルとして与えられている情報を使って、 コンピュータに数えさせるプログラムを作るのが問題です。 何しろ線分の個数は30万本以上あるのですからね!
数えるだけならば特に難しいことはないようですが、 高い評価を得るためには条件があります。 それは、個数を3秒未満で数えなければならないという条件です。 要は「急いで数える」必要があるのです。
ここから先はネタばれになるので書きませんが、 解答者は知恵を尽くして「急いで数える」わけですね。 分野としてはアルゴリズムの問題になります。
このようなプログラムの問題を作ること自体は難しくありません。 でも、解答者がそれなりに知恵を絞る(そして楽しむ)問題にするのはとても難しいです。
CodeIQで新作問題を出題したときにはどきどきします。 それは、問題自体に不備がないかどうか心配するからです。 解けない問題になっていないか、とてつもなく難しかったり、 とてつもなく易しくなっていないか、 問題文を誤読されてしまうことはないか…… 出題直後はそういうことが非常に気になります。
もちろん、出題前には自分で問題文を何回も何回も読み、 推敲・校正することになります。 しかしそれでも不安はなくなりません。
問題を出題してしばらくすると解答者が現れます。 投稿された解答を読んで考えの道筋を読み、 結城が想定していた正解にたどり着く解答者が現れるとほっとします。
誤読されないようにするため、問題文はできるだけ読みやすく書きます。 また、簡単な例を提示することで、問題文の意味がさらに明確に伝わるようにします。 解答者がせっかく苦労してプログラムを書いても、 問題を誤読して不正解になるのは悲しいことですから。 問題を作るというのは文章を書く練習にとてもいいのかもしれません。
日曜日(8/25)の時点で解答済みの方は125人を越えました。 解答〆切(9/2)までにたくさんの人が楽しんでくださるといいな。
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さて、結城は今年2013年4月に『数学文章作法 基礎編』をちくま学芸文庫から出版しました。 みなさまの応援のおかげで売れ行きも順調で、すでに三刷になりました。感謝です!
『数学文章作法』は数式まじりの文章を題材にして、 いかに正確で読みやすく書くかということをテーマにした本ですが、 多くの読者さんから、
・数学に限らず一般的な文章作成に通じる
・文章を書くだけではなく、読むときのコツもわかる
という評価をいただいています。 ありがとうございます。
本書に「基礎編」とある通り、 この『数学文章作法』は一冊で終わりにするのではなく、 何冊かのシリーズにしようと考えています。 出版社の筑摩書房さんからも、
「次の本はいつ出ますか」
というご依頼をいただいています。 たいへん感謝なことです。 現在は次の一冊の検討を始めている段階です。
『数学文章作法 基礎編』は執筆をこの結城メルマガ上で行い、 執筆途中の段階の各章をPDFで購読者さんにお送りしてきました。 プレビュー版として購読者さんへ一足早くお届けしたわけですね。
結城メルマガ上で最後の章まで書いた後、 結城が書籍としてのとりまとめを行い、 順序を整理して加筆修正を行って出版社に送りました。 書籍としての脱稿です。
この流れは、
・雑誌に連載記事を書く
・連載記事がまとまったところで書籍にする
というサイクルと同じです。 つまり雑誌の役割をメルマガが果たしてくれていることになります。
このような執筆スタイルを取ることができるのは、 すべて結城メルマガを購読してくださっている方のおかげです。 ほんとうにありがたいことです。感謝します。
ところでその『数学文章作法』の続編ですが、 もちろん今回もこの結城メルマガで「連載」していこうと計画しています。 どうぞご期待ください!
今回の結城メルマガでは「続編をどう考えるか」についてのあれこれを書きます。
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別の話題です。
来月9月に刊行される講演集『数学ガールの誕生』がアマゾンで予約可能になりました。 ありがたいことに、アマゾンの「数学」ランキングで二位になるなど、 たいへん人気の本になっています。みなさん応援ありがとうございます。
後でもまた触れますが、 本書は「新年の抱負」にも挙げた重要な本の一つですので、 このようにして刊行にあと一歩までこぎ着けたのはとてもうれしいです。 感謝です。
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さて、そろそろ結城メルマガを始めましょう。 今回は、まず数学文章作法の「続編をどう作るか」を考えます。 それから、8月も終わりになりますので「活動の振り返り」をしたいと思います。
それではどうぞお楽しみください!
目次
- はじめに - 問題作成
- 数学文章作法 - 続編をどう作るか
- 本を書く心がけ - 「新年の抱負」の振り返り
- 次回予告 - 数学文章作法の続編検討