結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年5月26日 Vol.165
はじめに
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
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ソフトの話。
MacBookを使っています。 先日導入したPopClipというソフトがたいへん便利なのでお薦めします。
Macを使っていて、たとえばブラウザの上で「テキスト範囲選択」しますよね。 範囲選択が終わるとすぐにその上に「カット|コピー|ペースト」 というメニューがポップアップ表示されるのです。 これはちょうど、iPhoneで指で範囲指定したときとそっくりなUIになるのです。
これまでだったら範囲選択した後、Command + Cを使ってコピーしていました。 それがマウスクリック一発に変わるということですね。
これが便利かどうか、さっぱりわからなかったのですが、 ものは試しと思って導入したらたいへん便利! そもそも、 一日のうちにこれほど何回も範囲選択していたのかと驚くほどです。 PopClipを使い始めてしばらくはポップアップするたびに「うわっ」 と驚いていました。 それだけふだんは無意識に範囲選択していたということなのでしょうね。
◆あんなことやこんなことも出来る「PopClip」ってMacアプリが便利すぎて悶絶
http://sinack.com/mac/popclip.html
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先日の「母の日」の出来事。
母の日なので、母に「ありがとう」のメールを送った。
私を産んでくれてありがとう。 私を育ててくれてありがとう。 たくさんのはげましをいつもありがとう。
すると、しばらくして母から返事のメールが来た。
「ありがとうにありがとう」
何とおしゃれな答え!
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本の話。
森博嗣さんの『喜嶋先生の静かな世界』が電子書籍になっていました。
◆『喜嶋先生の静かな世界』(森博嗣)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00GD6ES2Q/hyam-22/
この本は……と説明するのは難しい。 大学の先生、特に理系の研究者をめぐる物語ですね。
いわゆる「あるある」な話もたくさん出てくるのですが、 全体としては、やはりこのタイトルに出てくる「静かな世界」が、 うまく全体の空気を表現しているように思います。
研究の厳しさのような、研究の冷たさのような、 それから、研究に取り付かれた「狂気」のような。
そんなことを思いつつ、「静かな世界」を感じる本です。
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キーボードの話。
スターウォーズのR2-D2が照らすライトを使ったバーチャルキーボード。 これはかっこいい。
◆imp. R2-D2 バーチャルキーボード IMP-101
◆imp. R2-D2 バーチャルキーボード IMP-101(アマゾン)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00UT1HZT4/hyam-22/
持ち歩くのも楽そうだけれど、タッチタイプには向かないような気がする。 どうなんだろう。
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質問の話。
ネットで質問をもらうことが多い。ask.fmのような質問サイト経由のこともあるし、 メールのこともある。もちろんTwitterでもらうこともある。
◆ask.fm(結城浩)
http://ask.fm/hyuki0000/best
そんな中で、
「◯◯は何の役に立つんですか?」
という質問をもらうことも少なくない。たとえば、
「数学は何の役に立つんですか?」
などは典型的な質問である。
ところで、この質問を聞いたとき、私は一瞬身構える。
・これは、素朴で真摯で純粋な問いなのだろうか。
・それとも、レトリカル・クエスチョンの一種なのだろうか。
つまり、ほんとうに質問なのか、質問の姿をした非難や愚痴や皮肉なのか、 そのどちらだろうということです。
「○○は何の役に立つんですか?」
というのは、ときに、
「○○なんか役に立たない!」
という意味で使われることがあるからです。
自分がよく知らない人からの初めての質問なら「素朴で真摯で純粋な問い」 として、答える方がいいだろうなと私は思っています。
レトリカル・クエスチョンに対して真面目に答えるのは、 答える人がちょっと馬鹿っぽく見える可能性もありますが、 私はそれの方が逆よりもいいだろうなと思います。
「○○は何の役に立つんですか?」という問いに対して、 私が情報や知識を持っていないこともあります。 その場合でも、質問に対してはできるだけ、 礼儀正しく真摯に答える方がいいでしょうね。
質問者というものは答えそのものを求めているだけではありません。 自分が質問をするほど信頼している「先生」が、 どう答えるかという姿勢にも注目しています。 真摯に答えようとする姿勢もまた、 答えの一部になっているのだと思います。
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言葉の話。
Webであちこちを歩いていると、
「何かの能力が低い人を罵倒する人」
を見かけることがよくある。 「何かができない」ことや「できるけれど完成度が低い」ことを馬鹿にしたり、 むやみと怒ったりする人のことである。
そしてまたややこしいことに、 そのような「能力が低い人を罵倒する人」を罵倒する人もいる。 「能力が低い人を罵倒するなんて!」と怒りに燃える人である。
でも、「能力が低い人を罵倒する人」というのは、 「言葉を使う能力や影響を想像する能力が低い人」 かもしれないので、優しく接するのがいいですね。
さもないと、自己矛盾を起こすことになってしまうから。
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学びのエッセンスの話。
数学ガールを書いていて思うのは、 数学の中には「学びのエッセンス」が純粋な形で含まれているということ。 そして、柔らかく真剣な対話を通して、 その「学びのエッセンス」が学びの場に香り高く広がっていくということ。
学びは一人で進めるものだけど、要所要所には出会いがある。 誰かのちょっとした一言がブレークスルーになることがある。 答えではなく問いかけが、大きなヒントになることもある。 それを生み出すのは、信頼できる相手との対話であることが多い。
そういう体験は、数学と同じように「時を越える」ものだと思う。 その記憶が、一人の人の心の中でずっと命を持ち続けていることもあるし、 語り継がれ、本に描かれて伝わることもある。 発見や、体験や、経験が、時を越えて人々に感動を与える。
数学は、そのような「学びのエッセンス」を私たちにしっかり教えてくれる。 その厳密さやその堅さを通して。その精密さやその美しさを通して。
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さて、それでは今週の結城メルマガを始めます。
今回は、「フロー・ライティング」のコーナーで、 「メタな視点と講演準備」という読み物をお送りします。
では、結城メルマガをゆっくりお楽しみください!
目次
- はじめに
- フロー・ライティング - メタな視点と講演準備
- 複雑さと戦う
- 学ぶことは楽しい - 学ぶときの心がけ
- 「連ツイ」を書き換えてブログ風に
- おわりに