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⌘ 2014年12月19日発行 第0827号 特別
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■■■ 日本国の研究
■■■ 不安との訣別/再生のカルテ
■■■ 編集長 猪瀬直樹
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「運命の分岐点」
メルマガの発行は木曜日としてきたが今回は一日遅れの金曜日である。
安倍晋三首相の祖父である岸信介について来週発売のある雑誌に書いたが、
紙幅の都合で省いたところがある。それは極東軍事裁判でなぜA級戦犯が28人
起訴されたが、そのなかになぜ岸信介が入っていなかったか、である。もし起
訴されていたとしても東條英機と同様の絞首刑にはならないまでも、鈴木貞一
企画院総裁と同じように終身禁固刑ぐらいにはされたであろう。鈴木企画院総
裁は、東條内閣と統帥部(軍部)の連絡会議(実質的な最高意思決定機関)で
ある政府・大本営連絡会議の席上で、日本に戦争遂行能力あり、という石油貯
蓄量の数字を出した人物で、僕の『昭和16年夏の敗戦』に登場するのでお読み
いただいた方には馴染みの名前である。
岸信介は開戦時の東篠内閣では商工大臣を務めており、そのため巣鴨プリズ
ンに収監された。彼は不起訴のまま収監から三年三カ月後に釈放された。『昭
和16年夏の敗戦』の完結編にあたる拙著『東條英機処刑の日』で記したが、東
條英機が絞首刑を執行されたのは昭和23年12月23日である。これは皇太子明仁
(今上天皇陛下)の誕生日にあたる日で、その日がいずれ祝日になると見込ん
でGHQが処刑の執行日としたのではないかと考えられるのである。ひとまず
絞首刑執行で戦犯については決着がついた。岸信介が釈放されたのはその翌日
であった。
なぜ岸信介は起訴されなかったのだろうか。同じく東條内閣で大蔵大臣の加
賀興宣、外務大臣の東郷茂徳、書記官長(官房長官)の星野直樹は起訴された。
岸はこう述懐している。
「三回目の取り調べは、東條内閣の閣僚のうち、起訴された者と、されない者
との線をどこに引いたかということに関連しているんですよ。つまり、開戦を
実質的に決定したのは政府大本営連絡会議で、そこに私が出席したかどうかが
問題だった。私は出席しなかったと答えたけれど、東條さんの取り調べ調書に
よれば、(略)私が連絡会議に出席したような記憶があるといっている」
(「岸信介の回想」)
最終的に日米開戦が決定された御前会議は昭和16年12月1日、岸信介は出席
している。しかし、御前会議はセレモニーで、そこに至るまで政府・大本営連
絡会議が幾度も開かれており、11月29日に日米開戦を決定している。
岸信介は政府・大本営連絡会議に出席していたか、いなかったか、がどうも
起訴の線引きであったようだと岸信介は回想している。商工大臣や逓信大臣や
農林大臣に関するマターは鈴木企画院総裁が統括していたので、岸信介らは出
席していなかった。出席していたか否か、疑いが晴れたのは、大本営・政府連
絡会議が開かれていた宮中の門番日誌に、岸の参内の記録がなかったからであ
った。
岸信介は郷里の山口県へ戻り、衆議院議員に立候補した。昭和30年(1955年)、
自民党と民主党が合併していわゆる五十五年体制が確立して二年後、首相とな
り新安保条約(60年安保)締結へと歴史は動いていく。鈴木企画院総裁が巣鴨
プリズンを出所したのは昭和31年であった。もし岸信介が起訴されていたら再
起は不可能だったのではないだろうか。
いまの安倍内閣も、こうした歴史の不思議な積み重ね、展開のなかで存在し
ているのである。
猪瀬直樹
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「日本国の研究」事務局 info@inose.gr.jp
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