例えば、ソーシャルメディア上で、商品を中心としたコミュニケーションをとっていると、商品自体がユニークな魅力を持っていないとコミュニケーションを盛り上げることは難しいですし、 ユーザーから商品への要望や不満が寄せられることもあります。
一方で、企業のソーシャルメディア活用目的としては、 ①広報、②プロモーション、③認知拡大、④ブランディング、⑤サイト流入強化などが上位に挙げられ(出所:株式会社トライバルメディアハウス「ソーシャルメディア白書2012」)、 商品開発部隊とうまく連携できているケースは少ないと思います。
こうした状況に、ソーシャルメディア運用者であれば、一定の歯がゆさや違和感を感じたことがあるのではないでしょうか?
今回は、ソーシャルメディア時代に、なぜユーザー参加型商品企画が重要になるかを掘り下げ、そのメリットや懸念事項についても整理したいと思います。
目次
■【1】ますますユニークな商品力が求められる
・ユーザー参加型ならユニークな商品コンセプトを生み出しやすい
■【2】コミュニケーションのハードルが下がっている
・多数かつ多様なユーザーと会話しながらブラッシュアップ
■【3】ユーザーは受け身の存在ではない
・参加ユーザーが”パートナー”に
■ユーザー参加でヒット商品をつくる!メリットと懸念事項
■最後に
【1】ますますユニークな商品力が求められる
ソーシャルメディアが普及したことで、 “リアルな交友関係”や”興味関心”によって、人々が何重にも繋がり、 ちょっと心を動かす物事に出会えば、即座に、簡単にシェア出来て、
その連鎖によって、驚くほど遠くまで情報が伝播し得る環境が出来上がっています。
「プロモーションコストをかけなくても、商品さえ良ければ、口コミで自然に拡がっていく」という理想的な状況を、 人の心を動かすようなものなら、実現し得る訳です。
リアルな人間関係に基づく信頼性の高い口コミを加速したり、 興味関心の高い人から順に体験談をUPしてもらい、自然とキャズムを越えていくようなツールになり得ます。
マーケティング担当者としては、是非うまく活用したいところですが、 どんな情報でも、そのように”自然に拡がる”訳ではありません。
他にないユニークなもの、エッジの効いたもの、新しいものこそが、 口コミに乗って、遠くまで拡がっていきます。
一方で、どこにでもあるような情報を発信しても全くユーザーの心に響かず、スルーされてしまいます。
広告費を投入して無理矢理インプレッション(表示)させても、ユーザーの反応が得られなければ、どんどん費用対効果が下がる仕組みになっています。
つまり、ソーシャル時代には、これまで以上に、商品自体の新規性/独自性が求められ、既存の見慣れた製品をちょっと改良しただけのもの(よく比較しなければ違いが分からないもの)や、少し価格を安くしただけのものでは、ソーシャルの威力を利用しづらく、マーケティング上不利になる一方です。
私達が普段ソーシャルメディアマーケティング支援をさせて頂く際にも、よく「どんなに小さくても良いので、ナンバーワンになれる切り口を見つけて下さい」と申し上げているのですが、ユニークな魅力こそが、ソーシャルの成否を分かつポイントだと思うのです。
ユーザー参加型ならユニークな商品コンセプトを生み出しやすい
一方、ユーザー参加型商品企画の最大の効果は、 実は、新規性・独自性の高い、ユニークな商品コンセプトを生み出しやすいという点にあります。
ユーザーは、自分のニーズや利用状況といった自分自身が持っている情報から商品企画を考える傾向があり、 企業は、自社が専門性を発揮できるソリューション情報に依存した商品企画を行う傾向があります。
その結果、ユーザー主導の商品開発では、「質的に新しいことが初めて出来るようになる」といった斬新な新機能を提供する傾向が強いのに対し、 メーカー主導の商品開発では、「出来ることはこれまでと同じだが、精度や使い勝手が向上する」といったこれまでの延長線上の機能改善の傾向が強いことがイノベーションタイプに関する研究から明らかになっています。
業界を知り尽くし、ソリューション情報に長けた商品開発担当者の発想の範囲だけではなく、
消費の現場で誰よりもニーズ情報に長けたユーザーの新鮮な発想に耳を傾けることで、
業界の常識に囚われない、斬新な商品コンセプトを生み出しやすくなるのではないでしょうか?
そうしてユニークなコンセプトを生み出して初めて、企業のソリューション情報(商品開発担当者の専門性)は真価を発揮出来るのだとも思います。
【2】コミュニケーションのハードルが下がっている
インターネットが普及しても、ソーシャルメディア以前には、 オンラインで「ユーザーの声を聞く」ことは、なかなか大変なことでした。
自前でコミュニティサイトを作って、ユーザーの声を受け付ける場を用意しても、アクセスを集めるのも大変ですし、 アクセスするユーザーの多くは実際には「閲覧のみ」のユーザーで、 わざわざ書き込むユーザーは、ごく一部のマイノリティ(少数派)に限られる傾向がありました。
そのため、ネット上でユーザーの声を集って、商品化しようとしても、 一部の偏ったユーザーの声ばかり集まってしまい、 商品化しても実際にメインの店舗ではあまり売れない”ニッチ”な商品に収束する傾向がありました。
それは、これまでリアル店舗では、ニッチすぎて商品化出来なかった商品が、ネット上で物理的成約を超えて購入者を集うことによって、新たに商品化できるケースが増えた、という意味では画期的だったのですが、 多くの企業にとって、魅力的な商品開発手法にはなりませんでした。
しかし、ソーシャル時代には、企業アカウントの存在を、友達経由で知って、「いいね!」や「フォロー」しておくだけで、(新たな会員登録等の手間もなく)自分のホーム画面上で情報を受取ることが出来るようになり、 流れてきた情報に対しても、「いいね!」ボタンや「リツイート」ボタンなど、
とても気軽なアクションによって意思表明が出来るようになりました。
つまり、コミュニケーションのハードルが大幅に下がったことで、 特殊なマイノリティだけではなく、 質的にも多様で、量的にも多数のユーザーと、 これまでよりずっと気軽に簡単に素早くコミュニケーションがとれるようになったと言えます。
もはや、ユーザー参加型商品企画は、「ニッチ専門」ではありません。
多数かつ多様なユーザーと会話しながらブラッシュアップできる
コミュニケーションのハードルが下がったことで、
多数かつ多様なユーザーに、「ちょっと隣にいるから聞いてみよう」という気軽さで、
企画の重要なポイントについて、意見を聞いてみることが出来ます。
何十万人のユーザーを対象としたテストマーケティングを、低コストで日常的に繰り返すことも可能なので、「発売してみたら全然売れなかった」というリスクを下げ、日々ブラッシュアップしていくことで、売れる可能性を高めていくことが容易になりました。
ユーザー参加型商品企画のチャンスが広がり、 多くの企業にとって魅力的な手法になり得ると言えます。
【3】ユーザーを支援する姿勢が不可欠
ソーシャル時代に、ユーザーの情報発信力は高まり、
ユーザーの心に響く情報は、驚くほど遠くまで拡がるようになりました。
ネガティブな情報に対しても同様です。
企業の不正や怠慢、偽善は、すぐに見抜かれてしまいます。
ユーザーは、情報を受けたり、商品・サービスを消費するだけの、
“受け身の”“力の弱い”存在ではありません。
そのため、ソーシャルメディアマーケティングでは、
まず、既存のユーザーに“実際に”自社製品を満足して使って頂けるように、
徹底的に、誠実に支援することが第一だと考えています。
例えばFacebookページを作る際にも、 新規ユーザーを集めることよりも、まずは、既存ユーザーにファンになって頂くことの方が重要です。
自社商品を喜んで使ってくれている既存ユーザーを集めれば、「自然な拡がり」が期待出来るからです。
自社商品と離れたところで、アプリや懸賞等を使って、やみくもに“ファン数”を稼いでも、 自社製品による“満足”を支援する姿勢が欠けていては、 コストがかかるばかりで、結局効果に繋がりません。
既存ユーザーの“満足”を支援しようとすれば、当然、 自社製品についての不満や要望に触れることも出てきます。
それに対して、その場凌ぎの上辺の対応ばかりしていては、 ユーザーは“失望”して、離脱してしまいます。
このような考え方をすると、ユーザーの声を商品/サービス企画に反映していくことは、とても自然なことのように思えてくるのではないでしょうか?
参加ユーザーがパートナーに
一方で、ソフトバンクの孫社長がTwitter上のユーザーの提案に対して、 「やりましょう!」と積極的に応えているように、 ユーザーの声をきちんと聞いて、実現に向けて努力する姿勢を示すことが出来れば、それを見ているユーザーも含めて、何か不満やアイデアがあった時に、 「言ってみようかな」と思えるようになります。
こうして、建設的な意見を提案してくれるユーザーが増えていきます。
それは、自社商品をより魅力的なものへと高め、広めていくための「パートナー」を社外にたくさん作ることに他なりません。
そこでは、ユーザーは、建設的な意見をくれるだけでなく、 商品化を待ち望み、商品化された後も、積極的に周囲に広めてくれます。
また、商品開発のプロセスを可能な範囲で“オープン化”することで、 意見を表明したユーザーだけでなく、単に閲覧しているだけのユーザーも、 商品化された商品を購入する傾向があることが、 「無印良品」の「モノづくりコミュニティ」の事例研究から報告されています。
ユーザー参加型商品企画は、 商品企画過程での探索的ニーズ調査、アイデア創出、コンセプトテスト(検証的調査)だけでなく、商品化後のプロモーションやPR/ブランディング効果にも直結する取り組みなのです。
ユーザー参加でヒット商品をつくる!メリットと懸念事項
以上に、ソーシャルメディア時代にユーザー参加型商品企画がこれまで以上に重要になる理由として、以下のような背景を整理しました。
- ますますユニークな商品が求められる
- マイノリティではなく、多数かつ多様なユーザーと手軽にコミュニケーションがとれる
- 主体的な情報発信力を持つユーザーの“満足”を支援する姿勢が重要になる
ソーシャルメディアマーケティングで実際に成果を上げるためには、 ユーザーと真摯に向き合い、 ユーザーの声を、商品/サービスの改善や、新商品/サービスの企画に活かしていく体制を築くことが不可欠だということ、 そしてその先にチャンスが広がっていることを感じて頂けたら幸いです。
実際、「ヒット商品を生み出す」という商品企画の主目的からしても、 ユーザー参加型商品企画は、とても有利に働くと考えています。
理由は、以下のような優位性を得やすいためです。
- ユーザー目線に徹することで、企業の常識ではなかなかたどり着けないようなユニークなコンセプトを生み出しやすい
- 多数かつ多様なユーザーを対象に頻繁にテストマーケティングが出来、会話しながら気軽にブラッシュアップしていくことができる
- 参加ユーザーが「パートナー」となり、商品を購入したり、周囲に広めてくれる
一方で、実際に、ユーザー参加型商品企画を展開する際には、 様々な懸念が出て来るかもしれません。
以下に、代表的な懸念事項に対する考え方を簡単に整理しておきます。
企画過程をオープン化することで、競合に真似される?
商品企画過程で、オープンに情報を発信することで、 競合に真似されたり、それによって市場が荒らされてしまうリスクは、 当然主な懸念事項の1つだと思います。
1つの対応策としては、情報発信の範囲を見極めて、 可能な範囲に絞って情報発信をすることが出来ると思います。
例えば、ユーザー行動やユーザーが抱えている課題/ニーズ仮説、コンセプト案などに絞って情報発信を行い、商品デザインや具体的なスペックは伏せておくという形が考えられます。
それ以上のことは、「真似されるリスク」よりも「オープン化のメリット」を重視すべきだと考えています。
企画過程をオープン化することで、パートナーユーザーを増やし、 閲覧者も含めプロモーションにも繋げていくことが出来るためです。
余計に時間やコストが余計にかかるのでは?
やり方にもよるので一概には言えませんが、 「ユーザー参加型商品企画の方が、既存の方法よりもコストがかかる」ということはありません。
「3M」や「無印良品」といったユーザー参加型商品開発の先駆的事例からは、 コストについても優位性が認められていて、 既存の方法に比べると「売上高」よりも、むしろ「粗利益」の比率の方が大きくなるという報告もあります。
そのため、プロジェクトの設計次第で、時間やコストの問題をクリアすることが出来ると考えています。
ユーザーは、自分のニーズを明確に把握しているのか?
一般ユーザーは、必ずしも自分のニーズを明確に言語化していないので、
「どのように引き出すか」といった工夫も重要ですし、 「誰に聞くか」といった設計も重要です。
実際に成果を上げる手法については、次回詳しくまとめたいと思います。
ここで重要なこととしては、ニーズ情報は、ユーザーの中にしかないということです。 企業の商品企画担当者がコアユーザーの1人でもあるという場合もありますが (その場合も、どこまでが特殊で、どこからがある程度一般性のあるニーズなのか見極める必要があります)、 たいていは、ユーザーの中にあるニーズ情報を、 たとえそれが整理されていなかったとしても、何らかの方法で引き出す必要があります。
商品企画部隊と連携した体制づくりが難しい
PR、ブランディング、CRM、販売促進、アフターフォローそして商品開発・・・
企業のマーケティング活動においては、様々な部門が連携して動いていますが、
ソーシャルメディアマーケティングは、本来そのどこか一部門に属するものではなく、
縦割組織を横断するような、分野統合的な活動が出来る体制が望ましいと考えています。
それは、「運用ガイドライン」などでオペレーション設計を事前に明確化しておくことで、ある程度実現可能だと考えています。
マーケティング戦略全体の中で、ソーシャルメディアごとの役割/目的をきちんと定め、それに応じて、必要な情報発信のネタを関連部署から定期的にもらい、コミュニケーションの結果得られた気づきを定期的にフィードバックする体制づくりです。
それは、商品企画の文脈だけでなく、例えば「複数の店舗間での連携」や「現場と本社の連携」などにも不可欠です。
ソーシャルメディアが、日常的に、直接コミュニケーションをとるツールである以上、効果的な運用のために、複数の部署(チーム)間が連携できるオペレーション設計は、いずれにしても必要不可欠なものだと考えています。
最後に
以上、ソーシャルメディア時代に、なぜユーザー参加型商品企画が重要になるか、整理してまとめてみました。
「ユーザー参加型商品企画」と言っても、 必ずしも商品企画書や仕様書の作成まで全てをユーザーにアウトソースするということではありません。
実際に商品化していくために、企業の商品企画担当者の能力は欠かせないものですが、 ソーシャルメディアを上手に活用すれば、ユーザーのニーズ情報やユーザー目線のアイデアをこれまで以上に引き出すことが出来、ユニークな商品コンセプトの立案に有利に働くこと、 また、商品企画過程自体をキャンペーン化して、発売前に購入希望のファンコミュニティを構築していく可能性について、お考え頂く機会になれば幸いです。
既に、ユーザー参加型の取り組みをされている方がいらっしゃいましたら、是非取材や情報交換の機会を頂けましたら幸いです。
最後に、「ユーザー参加型商品企画」の可能性を実感して頂くために、 「Facebookを活用した商品企画のトライアルキャンペーン」を期間限定で実施しているので、もしご興味をお持ち頂けた方は、是非お気軽にお声がけ頂けましたら大変幸いです。
ageha
">by 木下 優子