オンナのウラガワ ~名器大作戦~
第256回 どこか楽しめる怖い話のウラガワ(1)
◆もくじ◆
・どこか楽しめる怖い話のウラガワ(1)
・最近の志麻子さん
【配信版】月刊オメ★コボシ ~『メグ・ライオン』スペシャル~ 9/9まで
9/4『メグ・ライオン』舞台挨拶に登壇予定
次回、9/21「【配信版】月刊オメ★コボシ」
『業苦 忌まわ昔(弐)』角川ホラー文庫から発売中
TV「有吉反省会」にヒョウ姿でひきつづき出演中
「岩井志麻子のおんな欲」連載中
カドカワ・ミニッツブック版「オンナのウラガワ」配信中
MXTV「5時に夢中!」レギュラー出演中
・著者プロフィール
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新型肺炎でさまざまな怖さを味わっているこのごろ。
本来の怪談やホラーをテーマにした作品で怖がれる、というのはなんと幸せなことか。
今月も、「どこか楽しめる怖い話」をお届け。
若手芸人の麻衣子さんの故郷の家は、いまは叔父の一家が住んでいる。
小さい頃、座敷を出て短い廊下を渡ったところに、部屋があった記憶があるのだが……。
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2014年11月~18年12月のバックナンバーは、「月別アーカイブ」の欄からご覧ください。
2019年1月「去年に縁があったあれこれのウラガワ」
2月「台湾で初めて会った人たちのウラガワ」
3月「胸に引っかかる人を思う春のウラガワ」
4月「こういう人いるよねという出会いのウラガワ」
5月「働くということについて考えたウラガワ」
6月「私なりのプロファイリングをしてみたウラガワ」
7月「芸事業界の人たちの願いごとのウラガワ」
8月「怖さひかえめな怖い話のウラガワ」
9月「まだ挽回できるかどうか気になるウラガワ」
10月「なぜか惹かれる未解決事件のウラガワ」
11月「今頃になってわかってきた出来事のウラガワ」
12月「とりあえず終えたかな、というウラガワ」
2020年1月「愛しい南国の怖い話のウラガワ」
2月「ひきつづき東南アジアの怖い話のウラガワ」
3月「どこか心残りの別れのウラガワ」
4月「未経験な世の中のあれこれのウラガワ」
5月「「あの人実は」「あの人やっぱり」のウラガワ」
6月「アマビエ的なものや人のウラガワ」
7月「怖い話をエンタメとして楽しみたいウラガワ」
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2013年7月~12月 名器手術のウラガワ/エロ界の“あきらめの悪さ”のウラガワ/エロとホラーと風俗嬢のウラガワ/風俗店のパーティーで聞いたウラガワ/エロ話のつもりが怖い話なウラガワ/風俗店の決起集会のウラガワ
2014年1月~10月 ベトナムはホーチミンでのウラガワ/ベトナムの愛人のウラガワ/永遠のつかの間のウラガワ ~韓国の夫、ベトナムの愛人~/浮気夫を追いかけて行ったソウルでのウラガワ/韓国の絶倫男とのウラガワ/ソウルの新愛人のウラガワ/風俗嬢の順位競争のウラガワ/夏本番! 怪談エピソードの数々のウラガワ/「大人の夏休みの日記」なウラガワ/その道のプロな男たちのウラガワ
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実は八月はもう秋に向かっていて、一年の後半にも入っているけれど。真夏、真っ盛り、という雰囲気に満ちている。怪談、怖い話も盛り上がる時期だ。
いっときのピークは過ぎたものの、まだ油断ならない新型肺炎。感染症の怖さと人の怖さをいやというほど味わった。人のすごさ、素晴らしさも目の当たりにはしたけどね。
ともあれ、本来の怪談やホラーをテーマにした映画、漫画、小説などを楽しめた八月は、なんていい季節だったのかと泣けた。
現実の方が怖い。結局は一番怖いのは生きた人間。というのはどうしようもないが、どこか楽しめる怖い話、というのを今月も書いてみたい。
例によって、全編に渡って実話をベースにしてあるため、個人や場所など特定できないよう、すべてに微妙な脚色と変更を加えてあるのを最初におことわりしておく。
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大人になってから、久しぶりに子どもの頃に通った学校や公園、友達の家などに行ってみたら、こんなに小さかったかな、と驚く。そういう経験は、誰にでもあるだろう。
そして子ども時代に限らないが、夢や漫画やドラマなどが混ざり合い、非現実の記憶ができていることもある。実際にはあり得ない、でも確かな思い出となっているあれこれ。
私の岡山の実家は中二の頃、建ったものだが。百メートルほど向こうに、もっと幼い頃に亡き祖父母と住んでいた古い家もそのまま残っていて、かなり廃墟っぽくなっている。
覗いてみるたび、天井の低さや部屋の狭さに目まいを覚える。それにしても、我が家に限らず古い一戸建てというものは、縁の下に納戸、屋根裏に外便所、庭の古木に土蔵といった「怖いもの」「怖い場所」がたくさんある。
自分ちなのに、不思議な空間や不気味な場所、得体の知れないものがあるのだ。何度も書いているが、その自宅にある闇が私をホラー作家にした。もし私が都会のマンションに生まれ育っていたら、ホラー作家にはなったとしても作風が全然違うと思う。
という話を、若手芸人の麻衣子さんにしてみた。麻衣子さんは関西の出身だが、幼稚園児の頃に親の転勤で上京し、言葉もまったく東京のそれだ。
「わかりますよ。私もたまに親の実家があるんで故郷に帰りますが、まだ家があるんですね。父の弟の一家が住んでます。
父の弟、つまり私の叔父さんですが、昔いろいろやらかして夜逃げしたり、各地を放浪したりで、一族の問題児だったんです。私にとっては、ちょっとカッコよくておもしろくて、でもなんか異質なものは感じる人でしたね」
私と同世代だという叔父さんは、よく家に来て幼い麻衣子さんと遊んでくれたという。
「思えば、父や祖父に借金申し込んだり、ヤバい女から逃げたり怖い男から隠れてたりしてたみたいですね。大人達の会話で、なんとなくわかってました。
変な人が、何度か叔父さんを訪ねてきてましたもん。兄である父が、あいつの居場所なんかこっちが知りたいくらいや、と逆切れしてました。父の怒った様子は半ば演技、半ば本気でしたね。兄弟喧嘩も、よくしてました。
叔父さん、家のあちこちにある暗がりに隠れてたんじゃないかな。変な人達が帰っていくと、ひょこっと姿を現してました。父が怒っても説教しても、けろっとしてたなぁ」
そんな麻衣子さんにも、夢なのか勘違いなのかわからない、奇妙な記憶があった。
「座敷を出て短い廊下を渡った所に、部屋がありました。
十二畳くらいのかなり広い部屋で、窓がなくて薄暗いんですが、ごちゃごちゃいろんな古道具やタンス、布団袋や本棚が詰め込まれてる。気味悪い剥製や生々しい日本人形もあって、ほんと怖いんです。
その真ん中の空間に長持っていうのかな、古風な衣装箱が置いてありました。『もういいかーい』って叔父さんがからかうような口調で囁くと、『もういいよー』って間延びした声がして蓋が開いて、女の人が起き上がりました。