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第313回 どうしても心残りなウラガワ(1)
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第313回 どうしても心残りなウラガワ(1)

2022-03-31 18:00

    オンナのウラガワ ~名器大作戦~

    ◆もくじ◆

    ・どうしても心残りなウラガワ(1)

    ・最近の志麻子さん 
     『遊星王子』「日テレプラス」で連ドラ放送予定
     5月公開の映画『死刑にいたる病』に出演
     「夕やけ大衆」で「四畳半ホラー劇場」を連載中
     『でえれえ、やっちもねえ』角川ホラー文庫より発売中

     カドカワ・ミニッツブック版「オンナのウラガワ」配信中
     MXTV「5時に夢中!」レギュラー出演中

    ・著者プロフィール

    ===

    春なのに、心置きなく花見も出来ないこのところ。
    頭に浮かぶのは、何か取り残してきたもの、忘れかけていた誰か。
    感傷的になってしまう、心残りな出来事をつづる今月。

    最近考えてしまうのは、40年近く昔に、焼身自殺をした独り暮らしの独身女性のことで……。

    バックナンバーはこちらから↓
    http://ch.nicovideo.jp/iwaishimako/blomaga

    2014年11月~20年12月のバックナンバーは、「月別アーカイブ」の欄からご覧ください。
    2021年1月「ゆるく共存していくことを考えさせられるウラガワ
    2月「いつの間にか入り込む怖いもののウラガワ
    3月「もはや共存するしかないあれこれのウラガワ
    4月「変わらぬもの、変わりゆくもののウラガワ
    5月「子どもっぽい大人、大人になっても子どもな人のウラガワ
    6月「ドライになり切れないウェットな物事のウラガワ
    7月「ホラーの夏なので怖い怪談実話なウラガワ
    8月「夏といえばの怖い話・奇妙な話のウラガワ
    9月「歳を取れば大人になれるわけではないウラガワ
    10月「この歳になって初めて知ることもあるウラガワ
    11月「「どこで逸れたんだろう」と考えてしまうウラガワ
    12月「人生そのものがお楽しみ会のウラガワ
    2022年1月「まだ楽観視できない未来を思うウラガワ
    2月「記憶が混乱するアレコレのウラガワ


    ※2014年10月以前のバックナンバーをご購入希望の方は、本メルマガ下部記載の担当者までお知らせください。リストは下記です。

    2013年7月~12月 名器手術のウラガワ/エロ界の“あきらめの悪さ”のウラガワ/エロとホラーと風俗嬢のウラガワ/風俗店のパーティーで聞いたウラガワ/エロ話のつもりが怖い話なウラガワ/風俗店の決起集会のウラガワ
    2014年1月~10月 ベトナムはホーチミンでのウラガワ/ベトナムの愛人のウラガワ/永遠のつかの間のウラガワ ~韓国の夫、ベトナムの愛人~/浮気夫を追いかけて行ったソウルでのウラガワ/韓国の絶倫男とのウラガワ​/ソウルの新愛人のウラガワ​/風俗嬢の順位競争のウラガワ​/夏本番! 怪談エピソードの数々のウラガワ​/「大人の夏休みの日記」なウラガワ​/その道のプロな男たちのウラガワ​

    ===

     三月といえば、春なのに。春は名のみの風の寒さや、という高名な歌詞の一部がこんな胸に染みるようになったのは、やはり新型肺炎が蔓延するようになってからだ。

     花見をしない春が来るとは思わなかったなぁと、まだ咲かぬ今年の桜と花見について考えていたら、それ以外にも何か取り残して来たもの、遠ざかってしまったもの、忘れかけていた誰かが浮かんできそうになる。

     そんなわけで今月は、「あんまり春にも私にも関係ないかもだけど、春なのに、と感傷的になってしまう心残り」みたいなものを書いてみたい。

     これまたいつの季節でも同じことだが、全編に渡って登場人物はみんな仮名か匿名にし、場所や背景などにもちょっとした改変、微妙な脚色を加えてある。早く、冬来たりなば春遠からじ、という名文も噛み締めたいものだ。

                        ※

     お嬢ちゃん、娘さんと呼ばれていた頃から、自分には直接関係ないのに、猛烈に良くも悪くも親近感を持ったり身につまされたり、共感を覚えてしまう事件があった。

     私にとってそれは、大事件、犯罪史上に残る、映画化もされた、なんてのよりも、関係者を除けばわりとすぐ世間からは忘れられていった、という事件の方が多い。

     ……四十年近く昔、ある下町の平穏な商店街の通路に、凄まじい悲鳴と火の手があがった。その人はみずから灯油を浴び、火を放っていた。つまり、焼身自殺を図ったのだ。
     住んでいたアパート裏の土手に灯油缶があり、草むらが焼け焦げていた。彼女はおそらくその場で即死できると思ったのに、想像を超える熱さ苦しさで錯乱し、絶叫しながら近くの商店街に駆け込んだのだ。

     駅の前で力尽きて倒れたときは真っ黒焦げになって息絶えており、周りも手の施しようがなかった。体を包んでいた炎は、二階の窓にも届くほどだったという。

     無残な焼死体の身元は、間もなく判明する。その陶子は北国の出身で、半年前に上京し、近所の工場に勤めるていた。まだ二十代前半の、一人暮らしの独身女性だった。

     誰もが、陶子は大人しくて真面目な人だったといい、仕事でも人間関係でも金銭面でも、問題はなかった。少なくとも、そこまで親しくない周りの人達から見れば、だが。

     陶子の部屋の大家は階下に住んでいて、とにかく陶子は物静かな子で、トラブルどころか彼女を訪ねてきた男も友達も一度も見たことがない、と証言した。

     
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