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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その9

2018-06-04 16:29
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    [本号の目次]

    1. 深海カメラ調査開始
    2. 調査初日の成果
    3. ロガーの画像
    4. ミラクルショット

    深海カメラ調査開始

     2002年10月21日、調査初日、朝7時。小笠原二見港の奥に続く漁船船溜まりに係留されている第八興勇丸の甲板に船頭の磯部さん、漁の手助けと雑用をこなす乗子の平山さん、小笠原ホエールウォッチング協会の森さん、それに取材の下見ということでNHKの小山ディレクターと私の5名が顔をそろえた。さあ、出航だ。うねりはやや高いが、快晴である。父島から南東に向かい1時間半ほど沖にでた。森さんの長年にわたる観察で分かってきたマッコウクジラの群れが現れる父島南東海域である。平山さんが旗竿と浮き球、幹縄の籠を用意した。磯部さんが工夫したハーネスを使ってロガーを幹縄につないで、その下にナイロンテグスの仕掛けを吊るした。仕掛けには特大のイカ角と餌のスルメイカが付いている。漁師が結んだロガーと仕掛けである、落とす心配はない。磯部さんは船を微速で大きな円を描くように操船しながら、長い幹縄を出していく。小一時間ほどかけて400、600、800mの幹縄に三台のロガーを吊るし、各々500mほどの距離を置いて順々に入れた。

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    第八興勇丸作業甲板 
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    旗流し縦延縄に調査ロガーを付けて流す

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    ロガーを吊るすハーネスとイカ釣ライト 
     

    調査初日の成果

     その後、漁業用の縦縄6本を水深600m付近を狙って同じように流した。どんな生き物が小笠原の深海にいるのか、どんなものを食べているのか、釣りあげて胃内容物を調べるためである。初日は10時近くになってしまったが、平山さんが炊き上げた白米に味噌汁、ハムエッグに漬物の朝食となった。その後、仕掛けた漁業用の縦縄に、なにか獲物がかかっていないか見て回る。この日は、外套長45㎝ほどのアカイカが釣りあがってきた。ロガーは5時間ほど稼働するので、午後2時ころから入れた順にロガーを回収して、帰路につく。南島の間の瀬戸を通り、父島のシンボルと称されるハート岩を右手に見ながら、二見港に向かう。ロガーにどんなものが写っているか楽しみである。午後5時少し前に漁船だまりの岸壁に着いた。ロガーを携えて、ホエールウォッチング協会へ向かう。中の画像を取り出すパソコンが置いてある机の上にロガーを乗せて専用ケーブルでつないで、ソフトを起動させる。モニターに取り込まれた画像が順次映し出されてきた。

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    漁業縄にかかった魚を取り込む磯部さん(奥)、乗子の平山さん(手前)
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    左:父島のシンボル、ハート岩

    ロガーの画像

     三台のロガーで夫々約500枚、計1500枚以上の画像をつぶさに調べた。そのほとんどは仕掛けのラインと下のイカ針がぼんやりと写っていれば良いほうで、期待していた画像はほとんど得られなかった。その中に、幹縄400mに付けたロガーに魚のようなものが20枚ほど記録されていた。しかし画像が不鮮明で距離も離れていて、素人の私ではなんとも判断が付かなかった。磯部さんに画像を見てもらったところ、「テツビンでないかい?」とのこと。テツビンって、なんだ。調べたところ、シマガツオ科の魚でどうもヒレジロマンザイウオのことのようである。メカジキを狙う縦延縄の餌にするとのことである。そのうちに釣れると聞いて、期待して待つことにした。その後も天候に恵まれ、10月26日までの6日間、毎日沖に出て調査を続けた。翌日からは、漁師の出航時間にあわせて朝4時半には港を出ることにした。イカ針がロガーに絡まることもあり、またロガー自体の調子が悪くて全て上手くいったわけではないが、総計6000枚近くの画像が得られた。その中から生物が写っていた何枚かを紹介しよう。

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    ヒレジロマンザイウオ(幹縄400m)尾鰭の後縁が白い三日月
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    アカイカ(幹縄600m)

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    アブラソコムツ?の頭部(幹縄800m)
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    カッパクラゲ?(幹縄600m)


    ミラクルショット

     その中で、ミラクルショットといえる1枚がこれである。磯部さんが大五郎1.8L ペットボトルをベースに、巨大なフックを周囲に付けたイカ角を特製してくれた。ボトルは白いビニールテープで覆い、赤のビニールテープで帯のストライプを付けた。周りのフックにスルメイカを数個体刺して1000mの幹縄につけ流したところ、イカ角自体が幹縄に絡みついてロガーのすぐ近くに来てしまった。撮影を開始してから325枚目までは何も写っていなかったが、326枚目にヨシキリザメがそのスルメイカを齧りにきた一瞬が捉えられたのである。この写真はヨシキリザメが水深1000m付近まで潜り餌を捕食している証拠となる、世界で初めて撮影された写真である。このロガーでは30秒に1枚しか撮れないことを考えると、奇跡としかいうよりない1枚であった。ニュースメディアに公開しようとしたところ、こんな露出オーバーでピントの甘い写真は採用できないとの対応で、なにが重要なのか全く理解されなかった。

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    2002年10月25日、小笠原父島南東沖水深1000m付近で撮影された、ヨシキリザメ



    ・・・その10へ続く。

    一番最初からから読みたい方は下をクリックしてください。
    その1:http://ch.nicovideo.jp/juf25sui/blomaga/ar1471337

    *著者情報
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    【窪寺恒己(くぼでらつねみ)】
    水産学博士 国立科学博物館名誉館員・名誉研究員 日本水中映像・非常勤学術顧問
    ダイオウイカ研究の第一人者。2012年に世界で初めて生きたダイオウイカと深海で遭遇。

    専門分野:海洋生物学/イカ・タコ類/ダイオウイカとマッコウクジラ/深海生物
    主な著書:「ダイオウイカ、奇跡の遭遇」新潮社 2013年
         「深海の怪物ダイオウイカを追え!」ポプラ社 2013年 他

    詳しいプロフィールはこちら
    www.juf.co.jp/seminar/kubodera/

    「烏賊解剖学のススメ」を日本水中映像チャンネルにて公開中!是非ご覧くださいhttp://ch.nicovideo.jp/juf25sui



    *頭足類の映像もあります
     日本水中映像YouTube https://www.youtube.com/user/suitube7

    *講演情報などもアップしています
     日本水中映像FaceBook https://www.facebook.com/japanunderwaterfilms




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