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窪寺博士のダイオウイカ研究記-その26

2020-03-01 16:35
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    【本号の目次】
    1. 2008年12月の調査
    2. 海は大時化
    3. 2009年に向けて
    4. 調査研究報告書

    2008年12月の調査

     この年は、国立科学博物館のプロジェクト研究である「日本周辺海域の深海性動物相調査」の一環として、東京大学海洋研究所(現:大気海洋研究所)の「淡青丸」による三陸沖の深海トロール調査が10月19日から26日にかけて行われた。私はその調査航海の首席研究員として調査全般を仕切ることになった。そのため、今年二回目の小笠原調査は11月29日から12月11日と例年より大幅に遅くなってしまった。海況は東京湾を出るあたりから荒れ始め、「おがさわら丸」は大きなうねりの中、船体をきしませながら南に向かった。いつもは賑わうレストランやロビーに人影が絶えた。
     翌日の昼、小笠原父島二見港に入港、磯部さんと岩ちゃんが出迎えに来てくれた。直ちに小笠原ホエールウォッチング協会に顔を出し、残置しておいた深海カメラのチェックをおこなった。12月1日には漁師の作業場で、東京から持ち込んだ2台をあわせて4台の深海カメラに赤・白LEDライト、吊り具、ロッド用台座などを取り付け、4台の水深計もセットして明日からの調査にそなえた。今年から森さんが自宅の一部を開放して、来島研究者が宿泊・自炊できる森ハウスを開設してくれた。これには大いに助けられた。森さんに大感謝!

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    小笠原ホエールウォッチング協会の前で4台の新型カメラをスタンバイする。さすが12月、センターの看板ザトウクジラがサンタの衣装を着ていた

    海は大時化

     翌朝4時15分起床、朝食も摂らずに直ちに港に向かった。雨粒が強風に舞う中、岸壁に舫われた第八興勇丸の横で磯部さんと岩ちゃんが待っていた。「先生、この暴風雨じゃ調査は無理だね。他の漁船も今日は港に足止めだ」と申し訳なさそうに話す。私が何としてでも調査をしたいことを知っているのだ。でも父島の漁師たちでさえ出港を見合わせている悪天候では致し方ない。今日は陸で仕事をすることにした。いったん森ハウスに帰り朝食を食べてから小笠原ホエールウォッチング協会に出向いて、今までにため込んだ映像データの整理をする。何が写っているか確認して、出現時間と行動を記録する。何時も気を使ってくれる協会の池田チカさんがコーヒーを濾してくれる。夕方近くまで根をつめて作業を続けた。外の風雨は衰えを見せず吹き荒れた。この悪天候は翌日、翌々日と続き、調査に出られない日が続いた。風が少し弱まった12月5日、磯部さんを拝み倒して出港。大うねりのなか、一回だけ深海カメラを降ろしたが、あまりの動揺に身の危険を感じて早めに切り上げて帰港した。

     さてどうするか・・・

     結局この12月の調査は大荒れの天候で、二日しか海に出ることが出来なかった。それも大うねりで深海カメラが上下に振られ、望んでいたようなダイオウイカの映像は撮影されなかった。それでもキングサイズのテツビン(ひれじろまんざいうお)やアカイカが釣れあがってきた。

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    縦延縄で釣り上げられたヘビー級のテツビン(ひれじろまんざいうお)。鉄瓶のように黒光り

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    水中HDビデオカメラが捉えたアカイカ。餌を付けたイカ針にかかる

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    釣り上げられたアカイカ。外套膜を開いてみると輸卵管腺に熟卵のつまった完熟雌。それでも食欲はあるようで、胃袋は杯。一度、産卵してから二度目の産卵に備えているようだ
     
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    水中HDビデオカメラで捉えられたヒロビレイカ。餌のスルメイカを8本の腕を広げ回転しながら襲う

    2009年に向けて


     科学研究助成金に採択され、2006年から進めてきた「中深層性大型頭足類の分類ならびに生態、潜在的生物量に関する基礎的研究」は2009年3月をもって期限となる。調査研究を続けるためには、新たに科学研究助成金に応募する必要があった。そこで、12月の調査に出かける前に、同じ小笠原海域でマッコウクジラの潜水行動を研究している天野・青木グループ、東海大学海洋学部の大泉・庄司グループ、小笠原ホエールウォッチング協会の森さんに集まってもらい、2009年以降の調査研究プロジェクトを話しあう場を設けた。
     天野・青木グループは超小型のバイオロガーを開発してマッコウクジラに取り付け、詳細な3Dの潜水行動を解析することを計画していた。大泉・庄司グループは深海カメラによる駿河湾の深海スカベンジャー動物群集の動態と誘引物質の解明を行いたいとのことである。森さんは今まで通り私や天野・青木グループの小笠原における現地調査の支援と共同研究を担当。私は、さらに小型で高性能の深海HDビデオカメラとライトシステムの開発と、それを用いた深海性大型頭足類の生態撮影を目指すことにした。それらの研究目的と調査計画を踏まえて「中深層性大型頭足類とマッコウクジラの共進化的行動生態に関する先駆的研究」のタイトルで、私が研究代表者を務め他7名の連携研究者による基盤研究(A)として科学研究補助金に申請書を提出した。

    調査研究報告書

     東京にもどっても、陸揺れがまだおさまらない年末の慌ただしさのなか、撮りためた深海カメラの映像解析を進め、三年間の調査研究成果を纏めることに集中した。研究成果をまとめた報告書を2009年3月までに提出しないと、新たに申請した2009年からの科学研究補助金の採択は認められないのだ。提出した研究成果の概要を以下に記す。

     「本研究は、大型トロールネットや深海探査艇による大規模な調査とは異なり、日本の先進技術であるマイクロ電子機器を組み込んだ超小型・軽量の水中撮影システムおよび赤色系LEDを用いた照明機器を用い、深海環境への撹乱を最小限度に止めることにより、中深層性大型頭足類のみならず深海性動物の自然状態に限りなく近い生態を撮影・記録し、それらの実態に迫ることを目的としている。
     平成18~20年度の3年間、後藤アクアティックスと共同で開発した深海HDビデオカメラシステム3台を用いて、小笠原父島周辺海域において地元の漁船を傭船して各年9月から12月にかけて約4週間の野外調査を実施した。水深600~1100mの3層にシステムを降し、延べ120時間を超す撮影を行い、アカイカ、ヒロビレイカ、ソデイカ、カギイカなど中・深層性大型イカ類の遊泳行動や捕獲行動などがハイビジョン映像で詳細に記録された。また、ヨシキリザメ、シュモクザメなど大型魚類の遊泳・攻撃行動も撮影された。これらの映像をコンピュータに取り込み、フレーム単位で詳細に行動様式の解析を行い、それら中深層性大型頭足類の行動生態に関する多くの新たな知見が得られた。
     また、平行して行われたマッコウクジラの潜水行動を探る超小型バイオロガーを用いた調査では、数回にわたりロガーの装着に成功し、マッコウクジラが日中は水深800~1000mに繰り返し潜行し、夜間は500~600mと浅い水深に策餌層を変える行動が明らかにされた。さらに、三次元加速度データから餌を襲う際の詳細な行動様式に関する新たな発見がなされた。」

     このような報告書を提出して、2009年の科学研究補助金に採択されることを期待していた。
     
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