その16 グレイシー一族の血筋。(前半)
カーロスに伝えた柔術は、前田先生が考案した新しいスタイルのもの。物凄い妄想で暴走が更に暴走なのだ。前田先生がカーロスを教えることになったきっかけは、ガスタオン・グレイシーに感じた恩義から。
ガスタオンは大事業家で、政財界に太いパイプを持つ地元の名士。その一族はとても頭が良いんじゃないのかな? グレイシー一族はとても頭が良い。そして勘が鋭い。事業で大成功するには、頭が良いだけでは何かがまだ足りない。勘のよさや、判断の早さ、思いっきりの良さ。そしてご縁に恵まれること、人との出会いに恵まれること、色んな要素が集まって来るから事業で大成功できるのだ。ガスタオンはそういった要素に恵まれた人物だったんじゃないのかな?
その遺伝子を持つグレイシー一族も、同じような素質を受け継いでいたとしても不思議じゃない。UFCを考案して始めたのはホリオン・グレイシーなのだ。ホリオンはガスタオンの孫。これは血筋を受け継いでいるとしか思えない。巧妙な戦略でUFCを旗揚げし、グレイシー柔術をそれまでのブラジルのローカル格闘技から一気にメジャーに引き上げ世界中に柔術を普及させた。
これはガスタオンの血筋を受け継いだとしか思えない。グレイシー柔術がバーリ・トゥードにおいて有効性を発揮したのも、実は巧妙な戦略が隠れている。グレイシー柔術は前田先生が考案した1対1用の格闘技。この妄想で暴走が当たっているとしたら、グレイシー柔術は多人数には通用しないのだ。ところが彼らは“バーリ・トゥード”という何でも有りの意味を表す言語を生みだし、自分たちの闘いの方程式に対戦相手をはめ込むことに見事成功した。
男と男の勝負は1対1。さらに何でもやって良い。1対1というロジックを巧みに使ったのだ。昔のグレイシー柔術のイメージビデオがある。大勢の男たちが輪になって囲んでいる。囲んでいるのは、2人の男。男と男が1対1でバーリ・トゥードで闘っている。その周りを男たちが囲む。正々堂々と1対1で闘う男2人を囲んで見守る。それが、グレイシー柔術が作り出した、バーリ・トゥードのロジックなのだ。
本来の柔術は戦で使う、あるいは闇討ちのように襲ってきた相手に対して使うことさえあった。戦や闇討ちをしてくるような相手と戦うような状況では悠長なことをやったらすぐに殺される。バーリ・トゥードとは何でも有りではないのだ。正々堂々とやる1対1の喧嘩が、バーリ・トゥードだったのだ。男と男の真剣勝負は1対1である……巧みにそういった状況を作り出し、なおかつグレイシー柔術のイメージを高め、見事にブランド作りに成功した。上手に事業を推し進めたのだ。
商品のイメージアップに大成功したグレイシー柔術はまずブラジルで成功し、UFCという世界に通用する宣伝媒体を自らの手で作り出して商品を宣伝した。その結果、グレイシー柔術は見事なまでに普及したのだ。
今では世界中にブラジリアン柔術のアカデミーがある。これは格闘家のやるレベルを軽く超えている。ガスタオンの大事業家の血筋を彼らは引いているのだ。前田光世先生が伝えたオリジナル(?)の柔術は、現代の総合格闘技用に出来ている。なのに、グレイシー柔術はなぜ勝てなくなってしまったのだろう?
「グレイシー柔術が負ける時は、相手がグレイシー柔術を覚えた時だ」
「それは本当の意味での敗北ではない」
「グレイシー柔術がそれだけ普及したという結果なのだから」
「その時の真の勝者は我々なのだ」
随分前にホリオンが言っていた有名な言葉。実際にグレイシー柔術は世界中に広まり、グレイシー柔術では勝てなくなった。そしてその言葉は半分当たって、半分外れた。