その17 武術の型とは。(後半)
型とはとても身体に良い。身体に良いレベルはとてつもないほど良いのだ。型の意味を知れば型とは最高の健康法になり、身体を強健にする方法にもなる。型は一度で健康と強健を同時に手にすることさえ出来るのだ。
武術の型とは、身体の術を引き出す。身体の術とは身体の可能性でもある。武術の型を口伝に従い鍛錬し続けると、信じられないようなことが起きる。心眼流の師匠が、筋電図を用いて筋力を測定したことがある。身体の状態は同じままで、形を変えてゆく。心眼流の型を取った瞬間に筋電図の数値が一気に2倍近くに上がったのだ。力を大きくした訳ではない、ただ身体の形を口伝に従った形に変えただけなのだ。
現代の常識で考えられないような不思議な現象が、現代の科学で作り出した筋電図によって測定された。優れた武術家の周りには、その時に必要なご縁が集まってくる。ちょうどその頃に師匠とご縁が生まれた大阪の病院院長が、その話を聞き興味を持った。そして医学的に分析を試みた。
ご縁とは必要な場所に、必要な時に集まってくるものなのだ。人の身体を現代の医学で分析した知識と、古流の知識が重なったのだ。医学的な知識は僕には無いので、詳しく説明を聞いても医学的用語を使った説明は出来ない。何となく説明してみると……。
人の身体には、効率良く動く角度がある。物を持つ時、ボールを投げる時、箸を持つ時、色んな時にそれぞれに一番良い形がある。その形になれば身体が効率良く働く形があるのだ。色々と分析した結果、心眼流の型の形は非常に効率良く身体が働く形で、筋肉や腱や骨格が理想的な角度や形で全体的にまとまっているらしい。この辺りの話はきちんと聞かせて頂いたのだが、きちんと理解は出来なかった(笑)。
とにかく人の身体は動かす際に最適な形があり、それを何百年も前から知っていて日常的に型として使ってきたのが古流の時代の武術家だったのだ。現代のスポーツ理論でさえ気付いてないほどの、詳細な身体に関する知識の集積が古流の型の形。その形になれば、筋電図の数値が一気に跳ね上がるのだ。数値が上がらないような、ぼやけた身体の状態でいくら鍛えても効果は薄い。薄いどころか身体を壊す原因にさえなるだろう。
大阪の院長さんが、ビックリしてそれでいて嬉しそうに言った。
「何百年も前の日本人の身体に関する知識は驚愕に値します。よくこんな細かい箇所にまで気が付いた。これは現代の医学にも充分に応用され貢献が出来ると思います」
そう言った院長さんは武術の型を元に研究を始めている。スポーツだけではなくリハビリにも大きな貢献を目指している。いくら書いたものを読んでも実際の効果は理解出来ないかもしれない。とにかく武術の型は身体を覚醒させる。人間はその能力の半分も使えていない。そう言われている。半分以下の状態で無理やり鍛えるよりも、眠っている能力を覚醒させたほうが実は遥かに効率が高い。ただそのやり方を知らないだけなのだ。
そしてやり方は実は何百年も前から日本にあったのだ。僕も最初は全く理解出来ないでいた。それでも日々型を繰り返す。日々鍛錬を続ける。そうするとある日突然に変わるのだ。身体の感覚が変わり、同じことをやっても全く別の力が出て来るようになるのだ。鍛えて強くなるのではない。身体が覚醒して変化して強くなるのだ。こんな不思議な感覚を師匠に報告すると、嬉しそうに答えてくれた。
「ここから始まりですよ……」