面会に来る男性たちに仮性包茎について尋ねている今日この頃。
私は何が知りたくて拘置所の面会室で包茎を連呼していたかと言うと、自分が真性はおろか仮性包茎のペニスを一度も見たことがないというのは本当なのか確認したかったのだ。
どうやら私は包茎ペニスを1本も知らないらしい。
彼らの話はなかなか興味深かった。これは究極のプライバシーなので他言はできないが面白かった。
私は高校野球漫画が好きなのだが「おおきく振りかぶって」で、西浦高校の3塁手、田島悠一郎君がプールで三橋廉君の水泳パンツをズルッと下げて「おっとなチンコだぞ!」と言い、周囲がソレを見て驚くという意味がずっとわからなかった。
三橋家の男子は割礼があるという話だった。チームメイトは、三橋君がお風呂で前を執拗に隠すのはそのせいなのか、情けなんかいらねーよ、いっそ自慢してくれりゃいーんだと口々に言う意味もさっぱりわからなかった。
「そーか」
「ムケてる=デカいではないんだ!」
という会話に、高校男子の性知識ってこんな程度なのかと驚きはしたが、じゃあいつムケるのだろうという疑問は残ったままだった。
「三橋ってさチンコでいじめられたことあんのかね」というセリフも気になっていた。
これは年下の彼が「赤ん坊の頃、病院で割礼するか医者に訊かれて、大きくなってからいじめられたら困るからしなかったとかあちゃんから聞いたことがある」と教えてくれたことで、どうやら男の子はムケてるチンコを持っているといじめられることがあると知ったのだ。
私は彼が母親のことを「かあちゃん」と呼ぶのが意外だった。しかし、赤ちゃん時代に割礼することも、子供の頃はいじめの対象になり得ることが高校生になると羨ましがられるなんて私は初めて知りましたよ。
そして年上の彼が「仮性包茎は風呂で見たらすぐわかる」と言ってたことで謎が深まってしまった。私には普通のペニスとどう違うのかわからない。仮性包茎だとどういう不便があるのか、なぜビートたけしさんは手術しないのかを話していたら面会時間が終わり、プロ野球選手名鑑を頼むのを忘れてしまったではないか。 場所をとるからポケット判にしてと言っておいたのにA4判を送ってくるってどういうこと。今の私にはムケてる彼より私のリクエストをちゃんと聞いてくれる人の方がありがたい。切実です。
18日に1階の売店で差し入れてもらった週刊誌がやっと今日届いた。18日の新聞に主婦と生活社が発行している女性週刊誌の広告が載っていた。
「木嶋佳苗被告“獄中片思い”フリー記者が独占激白」
実際の記事の見出しは
「今度はジャーナリストに夢中に!?『会いたいアピール』するも獄中失恋」
あぁ……青木理さんがまた私の心を傷つける発言をしている……。
「興味がないんです」とキッパリ断言。
私が青木さんの書いたものをどれほど真剣に読んでいるか知らないくせに。
「髪の毛がサラサラなんて記述は茶化されているのかな」って言われてるし。
私が青木さんを茶化すと思われていることが悲しい。
この雑誌を買ってくれた彼は面会室に「週刊新潮」を持ってきて、ある頁を開き「佳苗さんのことを褒めてあるよ」と言っていた。
15分の面会でその記事を読むのは勿体ないので「それは差し入れて」と頼んだ新潮が今日届いた。
第138回芥川賞を受賞した女性作家のコラム。
イラストと題字が汚くていつも読み飛ばしていたコラム。
案の定、私の似顔絵らしきイラストもド下手。
そして肝心のコラムは、クラブホステスだったとかミュージシャンという経歴が作品以上に注目されていたこの作家のバイアスのかかり具合が半端じゃない。
なんと毒婦ライターの本を読んで私のことをわかったつもりになっている。芥川賞作家を思考停止させる毒婦ライターの罪は大きいよ。
私は読む人のことを考えて、行書や草書ではなく楷書で書くことにしているのだが、この作家にはものすごくきれいな字を書いている気合しか感じられないらしい。
私は自分の書く字が美しいと思ったことはない。幼い頃からピアノを習っていたおかげで、腕や肩に力を入れず指を動かす訓練をしてきたから、脱力して物凄いスピードで端正な文字を乱れず書くことは得意である。ただそれだけ。
特に綺麗な文字を書けるわけじゃない。 はっきり言って、私はこの作家にけなされたとしか思えないのだが、年上の彼は褒めていたという。
全く褒められてないんですけど。
女性誌で青木さんが私のことを「知的な女性ですよね」って言ってくれてたことには、ムケてる彼らの誰一人気付かない。
一言でも青木さんに褒めてもらえたから、もういいか……。