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第四話 第三章 不思議屋  

著:古樹佳夜
絵:花篠

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■『不思議堂【黒い猫】~阿吽~』 連載詳細について


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◆◆◆◆◆人間の暮らし◆◆◆◆◆

阿行と吽行が名を阿文と吽野に改め、
長屋で暮らし始めてから数ヶ月。
阿文は、長屋の一室で二人の少女に囲まれていた。

梅「阿文さん、今日は私の髪を結綿(ゆいわた)じゃなくて銀杏返し(いちょうがえし)で結ってちょうだい」
阿文「わかりました」

阿文は髪結として働いていた。
少女たちは、うっとりとした表情で
彼が髪結道具を取り出す仕草を見つめている。

この少女たちは桜と梅という。武家屋敷の令嬢たちだ。

梅「ねえ、阿文さんの長屋に押しかけちゃってごめんなさいね。怒ってる?」
阿文「いいですよ。梅さんのお宅には、明日伺う予定でしたし」

本来、阿文は「廻り髪結い」と言って、
客の家に通うのが普通だ。
この部屋は髪結床ではない。
ところがこの二人、美丈夫の阿文を気に入って、
部屋に押しかけてきたのだった。

桜「私のところにはいつ来てくれるの?」
阿文「桜さんのお宅には明後日に。旦那様からお母様の髪結いと一緒にお願いされてますよ」
桜「やった! じゃあ、また二日後も阿文さんに会えるのね」
梅「もう! 桜ったら、ずるい!」

子犬が目の前で喧嘩を始めた。
可愛らしいな、と、阿文は穏やかな気持ちになりつつ、
梅の頭からかんざしを抜き取った。
それから鮮やかな手つきで髪を櫛で梳かした。
最近要領を得たばかりだが、なかなか様になっている。

桜「ねえねえ、阿文さん、あなた怖い話って好き?」
阿文「怖い話ですか?」

少しでも阿文の興味をひきたいと、
桜は話を持ち出した。
連れの髪が結い終わるまで、
桜は手持ちぶさただったのかもしれない。

梅「桜ったら、またあの話をするの?」
桜「いいでしょ別に!」
阿文「いいですよ、聞かせてください」