おいしいね、が世界から忽然と消えた。
 学校からも、レストランからも、酒場からも消えた。公共の場で食べたり飲んだりするときに言葉を発することが禁じられたせいだ。誰かと食事を共にしていても互いに言葉を発することなく黙々と食べる。かつては当たり前のように存在していた「おいしいね」と笑い合う光景はもうそこにはない。子どもの頃には当たり前のように目にしていた空き地や野良犬がいつの間にか消えていたように。