こんにちは。マクガイヤーです。
前回の放送「『ハクソーリッジ』と天才変態監督メル・ギブソン」は如何だったでしょうか?
メル・ギブソンの人生から戦争映画としての文脈まで話せて、充実した放送になったと思います。
メル・ギブソンとは全然関係ありませんが、冒頭にて那瀬さんがプ女子話でテンションが爆上がりするさまも良かったですね。
マクガイヤーチャンネルの今後の予定は以下のようになっております。
○7月29日(土)20時~
「最近のマクガイヤー 2017年7月号」
いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
お題
その他、気になった映画や漫画や時事ネタなどについてお話しする予定です。
8月12日(土)20時~
「しあわせの『ドラゴンクエスト』」
7/29に『ドラゴンクエスト』シリーズ久しぶりのナンバリングタイトルにして非オンラインタイトル『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』が発売されます。
『ドラクエ』といえば「国民的ゲーム」の冠をつけられることが多いですが、『ポケモン』や『妖怪ウォッチ』や『マインクラフト』といったゲームを越えたコンテンツが席巻し、ゲームといえば携帯ゲームである現在、事情は変わりつつあるようです。
そこで、これまでの歴代作品を振り返りつつ、ドラゴンクエストの魅力に迫っていきます。
8月26日(土)20時~
「最近のマクガイヤー 2017年8月号」
いつも通り、最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
詳細未定
○9月2日(土)20時~
「諸星大二郎、その魅力(仮)」
手塚治虫に「きみの絵だけは描けない」と言われ、宮崎駿に「大好きです」とリスペクトされ、エヴァやハルヒやもののけ姫や諸星あたるの元ネタにもなった唯一無二の漫画家、諸星大二郎。
民俗学や考古学からクトゥルフ神話までを自在に扱いこなし、怪奇・SF・ファンタジー漫画の名作を何作も描いてきた諸星大二郎の魅力を、2時間たっぷりと語りつくします!
アシスタントとして、久しぶりに編集者のしまさんが参加してくれます。
みんなぱらいそさいくだ!
さて、今回のブロマガですが、前回のニコ生の補講……というか、メル・ギブソン監督の前作である『アポカリプト』について語らせて下さい。
2017年の今だからこそはっきりしたと思うのですが、この映画、やっぱり傑作だと思うのですよ。
●マヤ語を喋る意味
『アポカリプト』はマヤ文明末期を舞台としたアクション映画ですが、他のハリウッド製アクション映画と異なる点がいくつもあります。
まず、俳優が全員無名なこと、そして全員英語ではなく古代マヤ語を喋っていることが挙げられます。
今、日常会話でマヤ語を喋っている人はメキシコ南部から中央アメリカ北部に居住するおよそ700万人のみであり、彼らが喋っているマヤ語は幾つもの語群に分かれています。そして、ここが重要なのですが、シネコンで映画を観るような人達ではありません。
そこで、観客は常に字幕で内容を把握することを強いられます。細かいニュアンスや表現は伝わりませんし、伝えようともしてません。
つまり、『アポカリプト』は、台詞やナレーションに頼らず、映像で恐怖や興奮やドラマを伝えようとして作られているのです。
アメリカでは、識字率の関係から、字幕の映画は敬遠されがちです。有名スターも出ていない映画は映画館に行くきっかけという点で不利です。にも関わらず、『アポカリプト』は公開1週目で興行収入1位を記録しました。
●シンプルなプロット
更に、『アポカリプト』のプロットは極めてシンプルです。
1、主人公が属する田舎の部族が都会の先進部族の奴隷狩りにあう。
2、都会に引っ立てられると共に、マヤ文明末期の地獄めぐりを体験する。
3、脱走し、追っ手と追跡アクションをしながら故郷の村に帰る。
いわゆる「行きて還りし物語」ですが、ここまでシンプルなのは最近の映画では珍しいです(実際には、主人公の妻と子供が穴の中からどう脱出するか足掻く『火の鳥 黎明編』のようなサブプロットが描かれます)。奇しくもその後に作られた『マッドマックス 怒りのデス・ロード』もプロット・シンプルさ・セリフの少なさが共通していますし、『アポカリプト』には『マッドマックス2』や『3』に出てきたような人体改造ヒャッハー・モヒカン族のような集団が敵(都会の傭兵)として大量に出てきます。イースト・ウッドがドン・シーゲルの映画に出演しつつ、師と仰ぎ、映画作りを学び受け継いだように、メルギブもジョージ・ミラーから映画作りというものを学んだのかもしれません。そして、ジョージ・ミラー自身は「監督としての才能は自分より上」とメルギブを褒めちぎっています。
●ゲロとレイプをきちんと描く映画は良い映画
プロットはシンプルですが、その表現、描かれ方がまさにメルギブです。
映画の1幕目、楽園だった主人公の村が奴隷狩りに襲われるシーンでは、きちんと男はボコボコにされ、女はレイプされます。大人がギャーギャー泣いたり、それまでイキっていたおばちゃんがあまりの事態に茫然自失となったりします。……こういうハードというかきちんとした描写、本当の痛さを感じ取れウソが無い(ように思える)残酷描写を、すっかりデオドラントされたシネコンで観るのは人生における愉しみの一つといえましょう。やっぱり、ゲロとレイプをきちんと描く映画は良い映画ですね!
●末期マヤ文明地獄めぐり
奴隷となった主人公達は、奴隷狩りの本拠地である大都会まで引っ立てられてゆくのですが、道中の地獄描写が実に良いです。
石灰を掘る奴隷が口から血を吐き、伝染病に犯された子供が呪いの予言を吐き、どこから観ても狂人としか思えない老人がしなだれかかります。
マヤ文明のあったメキシコ南部から中央アメリカ北部にかけての地域は石灰岩でできており、雨水がすぐに浸み込んでしまうため、水を貯めることができませんでした。
そこで使われたのが漆喰です。石灰を燃やして作った漆喰でピラミッドも町も貯水池に通じる道も塗り固めることで、大量の水を確保することができたのです。
しかし、漆喰を作るには大量の木々を燃やす必要があります。伐採のために森は消え、土壌が流れ出し、作物が育たなくなっていったことが原因でマヤ文明は衰退していったと考えられています。
このことを台詞やナレーションではなく、石灰まみれの白い身体にケロケロ吐かれる真っ赤な血や、いかにも汚染されてそうな灰色の土と灰色のトウモロコシ畑などで表現するのがメルギブの上手さです。