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【第207号】『銃夢』とサイボーグ壁ドンと哲学的ゾンビ
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【第207号】『銃夢』とサイボーグ壁ドンと哲学的ゾンビ

2019-02-06 07:00
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    マクガイヤーチャンネル 第207号 2019/2/6
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    おはようございます、マクガイヤーです。

    前回の放送

    は如何だったでしょうか?

    1時間延長し、合計3時間の放送になりましたが、話したいことをお話できて、満足しております。



    マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



    ○2月17日(日)19時~「最近のマクガイヤー 2019年2月号」

    詳細未定。

    いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。



    ○3月10日(日)19時~「俺たちも昆活しようぜ! Volume 2」

    昨年の8月、ご好評頂いた昆虫回が帰って参りました。

    今回も昆虫にちょう詳しいお友達のインセクター佐々木さん(https://twitter.com/weaponshouwa)をお呼びして、昆虫の魅力について語り合う予定です。

    漫画に出てくる昆虫……果たしてどんな昆虫話が飛び出すのか?!

    ちなみに前回の放送はこちら




    さて、今回のブロマガですが、『銃夢』の魅力について改めて語らせて下さい。



    ●サイボーグ壁ドンとアクションの魅力

    『銃夢』は1991~95年にビジネスジャンプで連載されました。

    ジャンルは、一言でいえばSFアクション漫画とか格闘漫画とかになるでしょうか。記憶を失ったサイボーグである主人公の少女ガリィが、強敵との戦いを通じて生きる意味や過去の記憶を発見していく……というのが、だいたいのストーリーになると思います。


    『銃夢』は『攻殻機動隊』と並んで90年代を代表するサイバーパンク漫画として語られがちですが、自分が考える『銃夢』最大の魅力は、アクション漫画としての出来の良さです。


    これはアクション映画も同じなのですが、アクション漫画の最大の特徴は、なによりもまずアクションが重視されることの一点につきます。

    キャラクターの心情がアクションで表現され、物語の決着がアクションでつくものが、良いアクション漫画であり優れたアクション映画です。キャラクターの心情がナレーションで語られたり、物語の決着が会話や伝聞でついたりしてはならないのです。


    『銃夢』は旧版だと単行本9巻から成り、バラエティ豊かなエピソードから成りますが、

    ・「マカク編」(1~2巻)

    ・「ユーゴ編」(2巻)

    ・「モーターボール編」(3~4巻)

    ・「ザパン編」(5巻)

    ・「フォギア・ナックルヘッド編」(TUNED編1:6巻)

    ・「電・ケイオス編」(TUNED編7~9巻)

    ……といった感じに分けることができるのは、異論の無いところだと思います。


    自分が『銃夢』を読んだのは高校生から大学生の時分で、「モーターボール編」~「フォギア・ナックルヘッド編」あたりの、それぞれのエピソードがまるで1本の映画のような構成力の高さに惚れ惚れしながら読んでいました。


    正直な話、最初の「マカク編」を読んだ時は、80年代後期によくあった『ブレード・ランナー』の亜流作品がまた出てきたんだなーという印象しかなかったのですよ。ポストアポカリプスでデッドテックな近未来、ハンターウォリアーと呼ばれる賞金稼ぎ、街や酒場をうろつく異形のサイボーグ……どう考えても『ブレラン』です。特に、舞台となるクズ鉄街は、頭上に空中都市ザレムがあることと、中心にスモーキー・マウンテンのようなゴミ捨て場があることを除けば、『ブレラン』で描かれた薄汚れた21世紀のロサンゼルスにそっくりです(……などと思っていたら、ゴミ捨て場は『ブレード・ランナー2049』で出てきましたね)。

    当時、レンタルビデオで視聴しやすくなった『ブレラン』の雰囲気と、日本に紹介されはじめたサイバーパンクSF小説のガジェットだけを組み合わせたような漫画やゲームが、山のようにありました。おそらく編集者は「『ブレラン』みたいなSF漫画」で企画会議を通したのでしょう。


    ですが、続く「ユーゴ編」で明らかにこの漫画は違うと感じました。

    「ユーゴ編」で登場するのは、クズ鉄町で便利屋として生計を立てている少年ユーゴです。ユーゴに恋してしまったガリィが、最強のサイボーグ体を持ちながらも、乙女心からそれを隠すという描写が実に漫画的で、ニヤニヤしながら読んでしまいます。これはSFハードボイルドな『ブレラン』では絶対に出来ない描写です。

    ですが、ユーゴは「ザレムに行く」という夢のために、サイボーグから高価な脊椎パーツを奪う強盗でもありました。ユーゴは賞金首として手配されてしまい、これを知ったガリィがユーゴを探す為に思い悩みながら高速で走っている最中に、うっかりバランスを崩して転倒してしまうのが、困惑が身体の動きとして表現されるべきアクションものとして高ポイントの描写です。


    ガリィは、ユーゴを詰問すると共に、自分がユーゴを愛していることを打ち明け、ユーゴの気持ちを確かめようとします。

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    この時、ガリィはユーゴを壁際に追い詰め、もの凄い勢いで壁に手をつきます。この頃「壁ドン」という言葉はありませんでしたが、最強のサイボーグ体による「壁ドン」により、壁に穴まであきます。場合によってはユーゴを殺して自分も死ぬことまで考えているガリィの葛藤が、痛いほど伝わってくる名シーンです。


    以後、『銃夢』はキャラクターの感情――葛藤・困惑・絶望・愉悦・歓喜……といったものを肉体じゃなかったサイボーグの身体でみせていくことに徹底的に拘っていくのですが、これが『銃夢』を凡百の亜流『ブレラン』や亜流『サイバーパンク』とは異なるものとしつつ、少年漫画として正しすぎる傑作とした、大きな理由の一つでしょう。キャメロンが『銃夢』に注目し、映画化を企画したのも、この点が大きいのではないかとも思ってます。



    ●生き方としての武道というアイデンティティ

    続く「モーターボール編」は誰もが認める名作です。

    ただ、この「モーターボール編」は実質的にスポ根ものです。少年漫画として人気が出るのは分かるのですが、梶原一騎的スポ根と退廃的でデッドテックなサイバーパンクは水と油で、普通は混ざり合わない筈でした。

    これが上手くいったのは、『銃夢』が実存主義的なテーマを持ち、アイデンティティを探す物語であったことが大きいでしょう。

     
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