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【第259号】最近のお薦め本(主に漫画)後編
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【第259号】最近のお薦め本(主に漫画)後編

2020-02-12 07:00
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    マクガイヤーチャンネル 第259号 2020/2/12
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    おはようございます。

    連休を利用して念願の徳之島ホエールウォッチング旅行に出かけたのですが、迂闊にも旅行前に風邪をひいてしまいました。

    風邪のおかげで旅行が楽しめなかった……かどうかは、じつのところこの文章を書いているのは旅行前のため、分かりません。どこかで発表しますね!



    マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



    ○2月17日(月)19時~「つげ義春とぼくとわたし」(いつもと曜日が異なっております。ご注意下さい)

    つげ義春の新しい全集『つげ義春大全』が2020年4月から講談社より刊行開始されます。これまでの全集に収められていた漫画作品だけでなく、貸本劇画や、文章やイラスト、旅写真なども収められた決定版になり、2021年2月までに全22巻が順次発売されるそうです。

    つげ義春は、作品数の少なさにも関わらず、漫画史において絶対的な影響を残したレジェンド漫画家の一人と言って良いでしょう。しかし(実質的な)引退から20年以上経過したこともあり、世間の話題に上ることが少なくなっていた今、このような全集が発売されることはファンの一人として喜びに堪えません。

    そこで、漫画家つげ義春の解説をしつつ、推しつげ作品について紹介するような放送をしたいと思います。

    ゲストとして編集者のしまさん(https://twitter.com/shimashima90pun)をお迎えしてお送り致します。



    ○2月21日(金)20時30分~「『リメンバー・ミ―』生実況」

    今年の元日、山田玲司先生のヤンサンチャンネルで『相棒 元日スペシャル』を行いました。

    実に楽しかったことと、ちょうど金曜ロードショーで『リメンバー・ミ―』が地上波初放送されることもあり、うちのチャンネルでも生実況をやってみようかなと思います。

    ゲストとして山田玲司先生が参加する予定です。



    ○3月8日(日)19時~「最近のマクガイヤー 2020年3月号」

    詳細未定。

    いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。



    ○3月22日(日)19時~「PCエンジンmini発売記念 おれたちのPCエンジン」

    3月19日にPCエンジンminiが発売されます。ファミコンミニやメガドライブミニ、プレイステーション クラシックといった流れのトリを飾る大物復刻版ミニハードです。

    PCエンジン用のソフトだけでなく、本来ならば初代PCエンジンやPCエンジン単体では動作しないはずのスーパーグラフィックスやスーパーCD-ROM2用ソフト、更には北米版PCエンジンであるTurboGrafx-16ソフト、計58本のゲームタイトルが収められており、他の復刻版ミニハードに比べて全く見劣りしない内容となっています。

    しかし、ファミコンに比べて知名度が低かったこと、メガドライブに比べて熱狂的あるいはカルト的なファンが少なかったことから、あまり話題になっておりません。『しくじり先生』『アメトーーク』でPCエンジンがテーマとなることも無いでしょう……

    そこで、PCエンジンの歴史や有名タイトルについて紹介すると共に、PCエンジンの魅力に迫るような放送を行います。

    ゲストとして、お互いに実はメガドライブよりもPCエンジンの方がプレイ時間が多かったことが判明した、お友達のナオトさん(https://twitter.com/Triumph_march)に出演して頂く予定です。



    ○藤子不二雄Ⓐ、藤子・F・不二雄の作品評論・解説本の通販をしています

    当ブロマガの連載をまとめた藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本『本当はFより面白い藤子不二雄Ⓐの話~~童貞と変身と文学青年~~』の通販をしております。

    https://macgyer.base.shop/items/19751109


    また、売り切れになっていた『大長編ドラえもん』解説本『大長編ドラえもん徹底解説〜科学と冒険小説と創世記からよむ藤子・F・不二雄〜』ですが、この度電子書籍としてpdfファイルを販売することになりました。

    https://macgyer.base.shop/items/25929849


    合わせてお楽しみ下さい。



    ○『やれたかも委員会』に取材協力しました。

    『やれたかも委員会』(https://note.mu/yoshidatakashi3/n/na63c34ee5adc)の「童貞からの長い手紙」に取材協力しました。単行本1巻分のエピソードになるそうです。

    ちなみに基になったお話はこちら

    https://ch.nicovideo.jp/macgyer/blomaga/ar1011063





    さて、今回のブロマガですが、前回に引き続き2/2の「最近のマクガイヤー」で紹介しきれなかったお薦め本(主に漫画)について書かせて下さい。



    『戦争は女の顔をしていない』

    独ソ戦に従軍した女性兵士や関係者の女性に取材した同名のオーラルヒストリー、まさかの漫画化です。

    Webで連載が始まった時も少なからぬ反響がありましたが、単行本も売れているようで、無事2巻目分の連載が継続することが決まったそうです。漫画単行本発売直後は原作本もAmazonでプレミアがつきました。

    著者のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチは2015年にノーベル文学賞を受賞しましたが、その時ですらこれほど話題になっていませんでした。スヴェトラーナの処女作にして代表作である本作は、Amazonでプレミア価格などついておらず、すんなり買えたことを覚えています。

    つまり日本では、ノーベル賞受賞よりも漫画化の方が世の中への波及効果が大きいのです。ビバ、漫画の国!


    そもそもオーラルヒストリーとは、歴史研究の手法の一つでした。

    ・文字資料が存在しない歴史にとって全く「未知」のことを知ることができる

    ・文字資料(公式資料)のみでは知りえない情報を得ることができる

    ・話し手の人生、価値観などを体系的に把握することが可能となる

    http://web.sfc.keio.ac.jp/~yuichiro/OralHistory2003.pdf より)

    というのが資料ではなく、実際の人間に合って話を聞くこの手法の特徴になりメリットになります。

    つまり、文字資料では伺い知るのが難しい市井の人々の日常や、日常(生活)における細かいディティールが知れることが特徴になりメリットになります。だから、優れたオーラルヒストリーとは、聞き手による話し手からのエピソードの引き出し力やその後の構成・編集により、それまで伺い知れなかった「未知」のなにがしかを日常のディティールたっぷりに詰め込まれたものになるわけです(この意味で吉田豪は優れたオーラルヒストリーの聞き手だと思います)。


    映画『この世界の片隅に』を観て、日常視点からみた戦争といえばこの題材があるじゃないかと漫画化に動いた編集がデキる男なのは勿論ですが(上坂すみれではなく富野由悠季に単行本の帯文を頼むセンスも最高です。)、原作をある種のドキュメンタリーとみなして漫画化した小梅けいとの手腕も光ります。また、オーラルヒストリーというものが日常のディティールがキモであるジャンルである以上、これを漫画化する場合には、文字作品では必要なかった制服や銃器やメカニックや日常のこまごまとした生活用品のディティールの正確さが求められてしまうわけですが、速水螺旋人が監修を務めることでそこら辺もしっかりしたものになっている(であろう)こともこの漫画を豊かなものにしています。

    この絵柄で、このように漫画家したことで、「物語」を想起させる力が原作よりも強くなっているのも凄いところだと思います。原作本を一つの資料として読んだ人も、漫画版では思わず心を動かされてしまうかもしれません。まさか小梅けいとがこんな漫画を描くなんて、『花粉少女注意報!』でオナニーしてた頃は想像だにしませんでした。


    もっといえば、情報量の多い原作本からまずこの人たちを選び、この7話に仕立てあげた小梅けいとの構成力も賞賛されるべきでしょう。


    スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチは、『戦争は女の顔をしていない』の後、以下のような作品を書きました。


    ・独ソ戦の際にナチスドイツの電撃戦によって占領され、三年あまりも支配下におかれた白ロシア(現ベラルーシ)で、当時子供だった人たちに取材した『ボタン穴から見た戦争――白ロシアの子供たちの証言(1985)』

    ・ソ連にとってのベトナム戦争だった泥沼のアフガニスタン紛争からの帰還兵に取材した『アフガン帰還兵の証言(1991)』

    ・ソ連崩壊による社会システムの激変により、自殺を選んだものの未遂に終わった人たち(その後、実際に自殺した人もいる)に取材した『死に魅入られた人びと―ソ連崩壊と自殺者の記録(1994)』

    ・チェルノブイリ原発事故を経験した様々な人々に取材した『チェルノブイリの祈り――未来の物語(1997)』


    スヴェトラーナの立場は明らかです。つまり彼女は、権力を持った国家や大きな組織や、その国家や組織同士の対立や変革に巻き込まれ、抑圧され翻弄された無名の人々をテーマとしているのです。

    だからスヴェトラーナは、権力や国家側の人々にとってみれば、自国の恥を外国に売ることで富や名声を稼ぐ裏切り者になります。ヨーロッパ最後の独裁者といわれるルカシェンコ大統領の独裁政権誕生以降、十数年間は故郷であるベラルーシを離れてスウェーデンやフランスで作家活動をしていました。


    スヴェトラーナがノーベル文学賞を受賞した理由はここにあります。沢山の人から聞き取り調査を行い、どれをどのようにまとめあげるかという文学性があるのは勿論ですが、テーマの選び方に文学性、そして政治性があるのです。文学賞とはいえスヴェトラーナのノーベル賞の受賞は、スウェーデンをはじめとする北欧の国々が、大国ロシアや東欧独裁政権に向ける不信と無縁ではないでしょう。


    原作『戦争は女の顔をしていない』には、戦友がスターリン批判をしていて通報しようかどうか迷うとか、占領下の白ロシアでゲシュタポとNKVDの間で引き裂かれるとかいった、政治性の強いエピソードもあります。それ故にスヴェトラーナは本作を執筆後二年間出版できず、ペレストロイカが起こってもソ連崩壊まで公開できなかったエピソードもあるわけです。

    しかし、そういった知識や教養が必要な部分は2巻以降に回して、1巻は「女性と戦争」というテーマに絞り込んでいるのが小梅けいとの上手さだと思いました。


    2巻の最初のエピソードであり、原作では著者前書きになる「人間は戦争より大きい」も好評っぽいので、このまま3巻4巻と継続していって欲しいですね!

     
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