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マクガイヤーチャンネル 第268号 2020/4/15
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おはようございます。

映画館が一斉に休館し、寂しい日常を過ごしています。

緊急事態宣言が発令されたので仕方が無いのですが、逆にいうと、スーパーマーケットは営業していて、本・雑誌・DVD等はネットで買うので、映画館さえ休館していなければ、普段の日常とあんまり変わりがありません。

映画館とニコ生放送でしか外出していなかったんだなぁと、今更ながらに思う昨今です。




マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



○4月29日(水)19時~「若者からおじさんまでの『十三機兵防衛圏』」(いつもと曜日が異なりますのでご注意ください)

昨年11月に発売されて以来、熱狂的にヒットしているゲーム『十三機兵防衛圏』。自分もプレイしましたが、死ぬほど面白いです。「いま」作られるべきアドベンチャーゲームとして完成度の高さは勿論のこと、若者にとっては新鮮でおじさんは泣く要素が満載なのがニクいところです。2019年オタク大賞受賞も納得の作品です。

そこで、ゲームクリエイター神谷盛治やヴァニラウェアの歴史を振り返りつつ、アドベンチャーゲームやSFとしての『十三機兵防衛圏』の魅力に迫るような放送を行います。

ゲストとして漫画家の大石浩二さん(https://twitter.com/k_marudashi)と女優・タレントの結さん(https://twitter.com/xxxjyururixxx)に出演して頂く予定です。

全編無料放送になりました!



○5月3日(日) 18時半頃~キネマ麹町『イップマン 継承』生実況

TOKYO MXの「キネマ麹町」で映画イップマンシリーズが三週連続放映されます。

5/8より公開予定の四作目『イップマン 完結』に合わせた放映です。当チャンネルで特集も予定しています。

そこで、シリーズ三作目の中で最も面白い(と自分が考える)『イップマン 継承』の生実況を行います。

ゲストとしてお友達の編集者のしまさん(https://twitter.com/shimashima90pun)をお迎えする予定です。

TOKYO MXが受信できない場合でも、配信やDVD等を用意して頂ければ、実況をお楽しみ頂けると思います。コロナウイルスでおうちに籠もりがちなみんな、テレビの前でぼくらと(心の中で)握手!



○5月10日(日)19時~「『やれたかも委員会 童貞からの長い手紙』完結記念 吉田貴司と童貞賛歌」

取材協力しました『やれたかも委員会』のcase024「童貞からの長い手紙」(https://note.mu/yoshidatakashi3/n/na63c34ee5adc)が完結しました。10話から成る、堂々たる完結でした。単行本4巻はまるごと「童貞からの長い手紙」になるそうです。

これを記念して、著者の吉田貴司先生(https://twitter.com/yoshidatakashi3)をお招きし、執筆の裏話や、やれたかも話、童貞話をお尋ねします。ゲストとしてお友達の編集者のしまさん(https://twitter.com/shimashima90pun)をお迎えしてお送り致します。

ちなみに基になったお話はこちら

https://ch.nicovideo.jp/macgyer/blomaga/ar1011063



○5月18日(月)19時~「『イップ・マン 完結』公開記念 イップマンとドニー・イェン」

ドニー・イェン主演作にして現時点での代表作といっていい『イップ・マン 完結』が5/8より公開されます。中華圏で大ヒットし、イップ・マン・ブームを巻き起こしたシリーズ4作目にして完結編とされています。また、キャラクター同士のやりとりを台詞ではなくアクションでみせる、ウィルソン・イップ監督の最新作でもあります。

これを記念して、アクション俳優ドニー・イェンや監督ウィルソン・イップのフィルモグラフィー、功夫映画やイップマンについて解説する放送を行います。

『イップ・マン 完結』が公開延期となった場合、ひさしぶりのサイエンス回である「PCR特集回」に企画変更となります。



○藤子不二雄Ⓐ、藤子・F・不二雄の作品評論・解説本の通販をしています

当ブロマガの連載をまとめた藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本『本当はFより面白い藤子不二雄Ⓐの話~~童貞と変身と文学青年~~』の通販をしております。

https://macgyer.base.shop/items/19751109


また、売り切れになっていた『大長編ドラえもん』解説本『大長編ドラえもん徹底解説〜科学と冒険小説と創世記からよむ藤子・F・不二雄〜』ですが、この度電子書籍としてpdfファイルを販売することになりました。

https://macgyer.base.shop/items/25929849


合わせてお楽しみ下さい。




さて、今回のブロマガですが、ちょっとウイルスにまつわる言葉の使い方について書かせて下さい。


●「自粛を要請」への違和感

最近、「自粛を要請」という言葉をよく聞くわけですが、当然ながら自分も違和感があるわけですよ。「自粛」とは、「自分から進んで、自分の行いや態度を改めて、つつしむこと」であるはずですが、あくまでも自発的に慎むことを要請できるものなのでしょうか。

これは「自」という漢字の問題なのでしょうか?

たとえば、「辞職を要請する」なら違和感を抱かないのですが、「自殺を要請する」だとぎょっとします。「自粛を要請」という言葉には、我慢強くて同調圧力に弱くて忖度が得意な日本国民に「自粛を要請」と「自己責任」をセットにすれば、他国では当然のようにある法的拘束力や休業補償がなくても新型コロナウイルスの感染防止を実現できるかもしれない……そんな穿った見方をしてしまうのです。


●ウイルスとの勝利・敗北

同様に、「ウイルスに勝つ」「コロナに負けない」「コロナぶっ飛ばす」という表現にもモヤっとしてしまいます。果たして、ウイルスに勝ったり負けたり、ぶっ飛ばしたりできるものなのでしょうか。

「ウイルス感染症との闘い」や「新型コロナウイルス感染症に勝つ」という表現なら、まだ分かります。これを略しての「ウイルスに勝つ」なのでしょうが、いくらなんでも略しすぎだろうと思うのです。


そもそも、我々人類はウイルスについてまだ良く理解していません。


1892年のタバコモザイクウイルスの発見以来、様々なウイルスが発見されています。国際ウイルス分類委員会の分類では約3000種のウイルスが掲げられていますが、その多くはヒト・家畜・農業用作物・ヒトに感染する細菌を宿主とするウイルス――つまり人類の生活や社会的活動に関連するウイルスです。人類が知るウイルスはごくごく一部に過ぎず、地球には未だ未発見のウイルス――人間の健康や産業に影響しないウイルスが数多く存在し、おそらく地球の全ての生物はウイルス感染を受けると考えられています。

今回のCOVID-19を含む新型コロナウイルスや、エボラウイルス、新型インフルエンザウイルスといった、それまで知られていませんでしたが、ここ50年ほどで発見され、公衆衛生上の問題となることが認識されている感染症のことを「新興感染症」と呼びます。人口が増え、人類社会が発展するに従って、それまで誰も立ち入らなかった山や森やジャングルの中に人間が入り込み、野生動物と共生していた未知の細菌やウイルス、寄生虫などに由来する感染症を「発見」してしまうというわけです。


特に、海洋に存在するウイルスについて、人類はほとんど知りません。

沿岸の海水を顕微鏡で調べると、1mL中に約10の8~9乗のウイルス粒子が浮遊しています。ここから計算すると、全海洋には約10の30乗のウイルス粒子が存在していると考えられ、これは海中のバイオマスにおける割合では約5%に相当し、数の上では海中バイオマスの90%以上を占める微生物(細菌やプランクトン等)を粒子数で上回っています。

海洋ウイルスのほとんどは、魚介類ではなく海中のプランクトンや細菌を宿主としますが、藻類を破壊することで赤潮を抑えたり、浅い海域でプランクトンを破壊することで貴重な栄養分が深海に沈みこまないようにすることで、生態系のバランスを調節していると考えられています。


最も衝撃的だったのは、巨大ウイルスの発見です。

2003年、アメーバを宿主とする超巨大ウイルスが発見されました。それまで知られていた「普通の」ウイルスは電子顕微鏡でなければその姿かたちを確認できませんが、巨大ウイルスは光学顕微鏡でみることができます。「細菌を真似している」という意味でミミウイルスと名付けられましたが、このような巨大ウイルスが何種類もみつかり、複雑で巨大な遺伝情報を持っていることも分かりました。ゲノムの約40%は細胞性生物と相動性があるものの、残り60%は既存のデータベースに類縁配列が無い遺伝子(孤児遺伝子と呼ばれることになります)であることから、巨大ウイルスの由来は極めて古いと考えられています。


巨大ウイルスを含む海洋ウイルスの知見は、主に環境中のウイルス調査から生態系におけるウイルスの役割を考察する「ネオウイルス学」と呼ばれる学問分野の研究成果に依るものです。これまで人類は、ヒトや家畜が病気にならなければウイルスの存在を認識していませんでした。しかし、地球上に存在するウイルスの大部分はヒトに感染せず、ヒト以外のさまざまな生物に感染し、生態系に大きな役割を果たしていることが段々と分かってきたのです。

……いや、そもそもヒトが地球の中心にいるのではなく、数でもバイオマスでも天文学的に多いウイルスが大きな役割を果たしているのは当然のことでした。ネオウイルス学はこれを科学的に確認したということなのですが、理屈から考えれば当然予想されたことでした。


このような知見を念頭に置くと、「ウイルスに勝つ」という表現に違和感を抱いてきます。

もしウイルスに対して勝った負けたがあるのなら、敗北しかありません。人類誕生前も、絶滅後もウイルスは存在している/するだろうし、ヒトゲノムの8%弱はレトロウイルス(由来)です。ヒトの一部はウイルスと区別がつかないわけですが、月とか太陽とか山河に対して勝った負けたがありえないように、ウイルスに対して勝った負けたなどありえないような気がしてくるのです。


●ウイルスとの戦争

一方で、新型コロナウイルス――COVID-19が引き起こす感染症への社会的対応を「戦争」と喩えることは、しっくりきます。