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【第403号】『PERFECT DAYS』と桐島聡、逃亡やめるってよ
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【第403号】『PERFECT DAYS』と桐島聡、逃亡やめるってよ

2024-02-21 07:00
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    マクガイヤーチャンネル 第403号 2024/2/21
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    おはようございます。いま一番観なきゃいけない映画は『ナワリヌイ』だと思う、マクガイヤーです。

    自分が大学生の頃は、多チャンネル化で配信するコンテンツが足りなくなるなんてことがいわれていたのですが、(その気になれば)手持ちのスマホと編集ソフトで映像作品を作れる時代になり、全くそんなことはないのでした。



    マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



    〇2月25日(日)19時~「『ウルトラマンブレーザー』の挑戦と限界」

    昨年7月より放送されていた『ウルトラマンブレーザー』が1月に最終回を迎えます。

    「ニュージェネレーション」と呼ばれる一連のシリーズとは映像的にもお話的にも異なることに挑戦しようとした、新しい「ウルトラマン」でした。一方で、いまテレビでウルトラマンをやることの限界がみえてきたような気もします。また、2月23日に映画『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』が公開される予定ですが、同じく田口清隆がメイン監督であった『ウルトラマンZ』の劇場版が公開されなかったこともあり、どのようにテレビとは異なる映画になるのか楽しみでもあります。

    そこでテレビと映画両方の『ウルトラマンブレーザー』について解説するような放送を行います。

    ゲストとして友人のナオトさん(https://twitter.com/Triumph_march)をお迎えしてお送り致します。



    〇3月4日(月)19時~「最近のマクガイヤー 2024年3月号」

    ・時事ネタ

    『落下の解剖学』

    『マダム・ウェブ』

    『フィリピンパブ嬢の社会学』

    『コヴェナント/約束の救出』

    『犯罪都市 NO WAY OUT』

    『ARGYLLE/アーガイル』

    『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』

    『漫才協会 THE MOVIE 舞台の上の懲りない面々』

    『映画 ◯月◯日、区長になる女。』

    『白日青春 生きてこそ』

    その他、いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。



    〇3月17日(日)19時~「『ボーはおそれている』と21世紀ホラー・スリラー映画」

    2月16日よりアリ・アスター監督の新作『ボーはおそれている』が公開されます。『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』に続く、アリ・アスター監督の長編映画第三作です。

    『ミッドサマー』が日本でヒットしたこともあり、『ボーはおそれている』も公開前から話題沸騰中です。また近年、ジョーダン・ピール、ロバートエガース、デヴィッド・ロバート・ミッチェル、タイ・ウェストといった、A24(やブラムハウス)が製作するホラーやスリラー作品が、ジャンルの枠を超えた評価や興行収入を獲得しています。

    そこで、現代のホラー・スリラー映画という観点からアリ・アスターと『ボーはおそれている』を語るようなニコ生を行います。

    ゲストとして声優の那瀬ひとみさん(https://twitter.com/nase1204)をお迎えしてお送り致します。



    〇4月前半(日時未定)「21世紀のオーバリズム勇者! スーパーリアルロボットアニメとしての『勇気爆発バーンブレイバーン』」

    1月11日よりテレビアニメ『勇気爆発バーンブレイバーン』が放送されています。視聴者、というかアニオタの期待やジャンルのクリシェを、斜め上に裏切ったり逆に利用する展開や描写で、SNSでは人気爆発中です。今後、更に視聴者の予想や期待を裏切るような展開や、ホモフォビアを回避するようなブレイバーンの謎が明かされることが期待されます。また、監督の大張正己が過去に手掛けた勇者シリーズやスーパーロボット大戦、シリーズ構成を務める小柳啓伍の過去作品との類似点や相違点なども気になるところです。

    そこで、大張正己や小柳啓伍のフィルモグラフィーを振り返りつつ、『勇気爆発バーンブレイバーン』の魅力に迫るようなニコ生を行います。

    ゲストとしてお友達の虹野ういろうさん(https://twitter.com/Willow2nd)をお迎えしてお送り致します。



    〇4月後半(日時未定)「最近のマクガイヤー 2024年4月号」

    詳細未定。

    いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。



    〇藤子不二雄Ⓐ、藤子・F・不二雄の作品評論・解説本の通販をしています

    当ブロマガの連載をまとめた藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本『本当はFより面白い藤子不二雄Ⓐの話~~童貞と変身と文学青年~~』の通販をしております。

    https://macgyer.base.shop/items/19751109


    また、売り切れになっていた『大長編ドラえもん』解説本『大長編ドラえもん徹底解説〜科学と冒険小説と創世記からよむ藤子・F・不二雄〜』ですが、この度電子書籍としてpdfファイルを販売することになりました。

    https://macgyer.base.shop/items/25929849


    合わせてお楽しみ下さい。





    さて本日のブロマガですが、ニコ生でも触れた『PERFECT DAYS』についてきちんと書かせて下さい。ちょっと複雑な思いがあるのですよ。



    ●『PERFECT DAYS』の悪口言う人

    先日のニコ生ですが、YouTubeにアップしたものに「こんなに『PERFECT DAYS』の悪口言う人初めてみたwww』というコメントがついていて、苦笑してしまいました。

    いや、悪口じゃないんですよ。それなりに批評じみたこと言ってるつもりですし、人によっては悪口に聞こえる可能性があるとしても、少なくとも映画本編への悪口じゃないんですよ。


    ●ヴィム・ヴェンダースの新作として観れば良い映画

    はっきりいって『PERFECT DAYS』は、ヴィム・ヴェンダース作品の新作としては良くできているんですよ。

    ヴィム・ヴェンダースは主にロード・ムービーで80年代に一世を風靡した監督です。

    家族や故郷を捨てて、まるで根なし草のようにドイツ、ヨーロッパ、アメリカ、そして世界を彷徨う主人公は、年齢的には中年や初老であっても、成熟したオトナになることを拒否した青年を意味します。当時56歳のハリー・ディーン・スタントンが演じていたとしても、『パリ、テキサス』の主人公は青年であり、いい年こいてるのに責任を引き受けず、色々なものから逃げ続けている、と同時に反逆し続けている男を意味しているのです。

    この主人公が、クリエイターとして創作活動に熱中するあまり家族に向き合わないヴィム・ヴェンダース自身だったり、第二次大戦の責任に向き合わず国家が東西に分断されたままのドイツ国民だったり、80年代になって完全に途絶えたアメリカン・ニューシネマの国外での継承であったり、構造的に貧富の差や敗者を生み出さざるを得ない資本主義のアンチテーゼだったり……と、それぞれの作品や時代、状況によって、様々な隠喩(場合によっては直喩)ととれるのが最大の魅力であり特徴でした。ロード・ムービー以外のほとんどの作品でも同じテーマと隠喩があり、主人公が旅に出ず、舞台がどこかの一都市に限定されており、主人公や天使や作家や単なる初老の男であっても、「何かから逃げ続けている」という点が共通していました。

    小津安二郎作品へのリスペクトや、ルー・リード、ライ・クーダーをはじめとする60~70年代ロックミュージシャン(というかアート・ロックやニューヨーク・パンク)の楽曲使用や音楽への起用も特徴です。そこには時代や状況への反逆と逃亡、偉大なる繰り返し……という共通性をみることができます。

    ヴィム・ヴェンダースは世界を彷徨う『夢の涯てまでも』や統一してしまったドイツを背景とした『時の翼にのって』以降、一時迷走したようにみえました。しかし、『エンド・オブ・バイオレンス』『ランド・オブ・プレンティ』等での暴力やテロといった時代的なテーマへの接近、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』『ソウル・オブ・マン』といったドキュメンタリーでの非メジャーな音楽を媒介・ローカルな土地での生活からグローバルな世界への照射を経て、70代後半となった今でも定期的に新作を発表する、名実共に映画界での巨匠になってしまったのでした。


    そんなヴィム・ヴェンダースにとって、憧れの小津作品と同じく東京で長編劇映画を撮るというのは、おそらく念願の企画であったでしょうし、人生でやり残しているリスト上位にくる事柄だったのでしょう。自身の集大成的な作品になるのは当たり前のことですし、実際にそうなっているのが本作の素晴らしいところです。

    役所広司が演じる主人公であるところの初老の独身おじさんの名前は「平山」、『東京物語』で笠智衆が演じた役柄と同じ名前です。役所広司は68歳、年齢的には若干の違いはあるものの、『パリ、テキサス』のハリー・ディーン・スタントンや『ベルリン・天使の詩』のブルーノ・ガンツと同じ、世の中の流れから敢えて距離をとって逃げ続けている初老のおじさんです。

    彼が住む東京下町のボロアパートは徹底して低いカメラアングルで撮影され、映画のルックは強く小津を意識しています。また、平山は徹底して口数が少なく、起床から仕事であるトイレ清掃、公園でサンドイッチの昼食、仕事終わりの銭湯、浅草地下街の立ち飲み屋(ホントは焼きそば屋)での夕食、文庫本を読んだ後就寝――という偉大なる繰り返しが描かれます。

    一方で、平山が通勤と移動に使う軽ワゴンで聴くのはルー・リードやパティ・スミスやキンクスであり、これらはヴィム・ヴェンダースがこれまでのフィルモグラフィーで使いまくってきた楽曲のアーティストです。また、読む文庫本の中にパトリシア・ハイスミスの短編集があったことに注目したりもしてしまいました。そういえば『アメリカの友人』は『トム・リプリー』シリーズの第3作目でした。

    東京の下町で人が嫌がる(後述する問題がありますが)トイレ清掃をしつつ、永遠の繰り返しという逃亡を続ける平山のアパートに姪が押しかけてきます。これをきっかけに、平山にもそれなりの過去がありそうなことが示唆されます。これは初期ヴェンダース作品であり「ロード・ムービー3部作」の1作目『都会のアリス』とよく似ています。

    というわけで、『PERFECT DAYS』は巨匠になったヴィム・ヴェンダースが憧れの地である日本の東京を舞台に、原点に戻ったと同時に、新しい一歩を踏み出すような映画でした。

    特に後半、役所広司が心の思いを台詞に頼らず表情だけで表すシーンは圧巻でした。台詞ではなく映像(と音楽)でエモーションを伝えることに成功しているのです。カンヌで主演男優賞をとったり、アカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされるのも納得です。


    ●企画の成り立ちが気になる

    一方で、逃亡者や旅行者ではなく実際に東京というか関東圏に住む者として、いろいろと思うことはあったのです。そして、エンドロールで柳井康治と高崎卓馬の名前が出たのをみて、思いは確信に変わりました。ユニクロ帝国の御曹司の柳井康治と、2020年の東京オリンピック・パラリンピックでクリエイティブ・ディレクターに就任し、「カッコつけてなんとなく反対とか言わないでほしい」と発言し、佐野研二郎のパクリ(疑惑)エンブレムを選出してしまって退任した、あの高崎卓馬です。


    なんでも、本作の企画の成立は、以下のようなものであったそうです。

    https://news.yahoo.co.jp/articles/8b0d0c0b271d7340b3b6d2bb8c1009a2d3161da2


    まず、渋谷区内17か所の公共トイレをオシャレで最先端なトイレに刷新する「THE TOKYO TOILET」というプロジェクトがありました。トイレをデザインするのは世界で活躍する16人の建築家やデザイナーで、デザイナーズマンションならぬデザイナーズトイレというわけです。事業費は21億円で、トイレ一ヶ所あたり8000万円かかっている計算になります。ホームレスを追い出してオシャレに再開発した宮下公園と地続きのプロジェクトなわけです。

    この発案者であり、個人として事業費の一部を出資したのが、ファーストリテイリング現社長の柳井正の次男で同取締役の柳井康治でした。

    この事業を行う際に相談をしたのが電通の高崎卓馬であったわけです。佐野研二郎だけでなく、様々な建築家やデザイナーと繋がりがあったので、当然といえば当然です(ちなみにセブンイレブンでコーヒーを淹れる際にいつも我々を混乱させる佐藤可士和はトイレの一つだけでなくピクトグラムもデザインしています)。

    デザイナーズトイレの建設・メンテナンスをしていくにあたって、PRを目的とした映画が計画され、「二人とも大好き」という理由から、監督はヴィム・ヴェンダースにオファーされることになりました。高崎卓馬は69年生まれの54歳、柳井康治は1977年生まれの46歳、両者が多感な頃に世界をブイブイいわせていた監督なので、当然といえば当然です(「フィクションの存在をドキュメントの方法で撮影する。その両方の道を歩いてきたあなたにしかできない」という「いい意味で断りにくい手紙」を送ったというのは流石です)。


    つまり、本作はユニクロ帝国の御曹司とオリンピックでクリエイティブ・ディレクターの仕事までする電通のエリート社員(どうも「グロースオフィサー」というのは電通における一年毎に契約更新する見習い役員みたいなポジションらしいですが)が組んで立ち上げた企画なわけです。日本の富裕層で支配層といっていい二人が、サブカル大好きなトイレ清掃員の初老のおじさんの2週間を描いた映画をつくる――そこに大いなる欺瞞が生まれない筈がありません。

     
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