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マクガイヤーチャンネル 第423号 2025/2/5
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寒いせいか、布団から出るのが嫌で嫌でたまりません。

休みの日は必ず昼まで寝たいところです。



マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。



〇2月10日(月)19時~「最近のマクガイヤー 2025年2月号」

お題

・時事ネタ

・ハイパーボリア人

・怪獣ヤロウ!

・おんどりの鳴く前に

・室町無頼

・リアル・ペイン〜心の旅〜

・ストップモーション

・ミッシング•チャイルド•ビデオテープ

・アプレンティス ドナルド・トランプの創り方

・トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

・敵

・機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning

・カルキ 2898-AD

・MR.JIMMY ミスター・ジミー レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男

その他、いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。



〇2月23日(日)19時~ 「10周年記念 マクガイヤーチャンネル・ディケイド」

2015年1月末に開設したニコ生マクガイヤーチャンネルですが、早いもので、今年で10周年となりました。

せっかくのディケイドですので、最多出演の編集者のしまさん(https://x.com/shimashima90pun)をお呼びして、この10年間を振り返ろうと思います。

印象に残った放送等がありましたら、是非ともチャンネルまでメッセージをお寄せ下さい。



〇藤子不二雄Ⓐ、藤子・F・不二雄の作品評論・解説本の通販をしています

当ブロマガの連載をまとめた藤子不二雄Ⓐ作品評論・解説本『本当はFより面白い藤子不二雄Ⓐの話~~童貞と変身と文学青年~~』の通販をしております。

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また、売り切れになっていた『大長編ドラえもん』解説本『大長編ドラえもん徹底解説〜科学と冒険小説と創世記からよむ藤子・F・不二雄〜』ですが、この度電子書籍としてpdfファイルを販売することになりました。

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合わせてお楽しみ下さい。





さて、本日のブロマガですが、先日の放送で扱った『劇映画 孤独のグルメ』についてまとめさせて下さい。


●『劇映画 孤独のグルメ』は変な映画

ドラマ『孤独のグルメ』の映画版である『劇映画 孤独のグルメ』、自分は観た日の夜に孤島で内田有紀とデートする夢をみてしまうくらい楽しんだのですが、皆様はどう感じたでしょうか?

しまさんのように「変な映画」と感じてしまう人がいるのも分かります。普通に観たら変な映画でしょうし、原作漫画を読みこんでいればいるほどそう感じる人も多いでしょう。


以下、映画のあらすじに沿って、おかしな点を挙げていきましょう。


パリから始まるのは、別に構わないというか原作リスペクトで凄く良いと思うのですよ。五郎にはパリ在住の別れた恋人「小雪」がいて、原作の最終エピソードはパリのアルジェリア食堂でした。

この後、小雪の娘を演じる杏演じる千秋と合流し、千秋の祖父(おそらく小雪の父)一郎から思い出のメニュー「いっちゃん汁」の食材探しを頼まれるところから「あれ?」と思い始めます。他人の事情に首をつっこんだり、美術商という仕事以外の依頼を受けることの無かった原作漫画の五郎を思い出すと違和感のある展開です。ただドラマ版の五郎は、この前の大晦日スペシャルでも映画のフィルムやカメラを運んだりと、美術商以外の仕事もしていましたので、連続性はあります。

この後、五島列島の奈留島でちゃんぽんを食べるまでは通常通りなのですが、エソの干物を手に入れようと福江島に渡ろうとするシーンから完全におかしくなります。フェリーを逃した五郎は、その日のうちにどうにか福江島に渡ろうと、なんとスタンドアップパドルボード略してSUPで海を渡ろうとするのです。しかも裾をまくったスーツ姿です(一応スーツの上にライフジャケット着用)。


以後、映画のリアリティラインが変わります。まるで白昼夢のような雰囲気で、全て五郎の見た夢だった――夢オチになるのではないかと思ったほどです。

案の定、湾を出たところで波が高くなり、天候も悪くなり、海に落ちて漂流してしまいます。どうみてもグリーンバックで撮影した松重豊を合成して映像を作っていることも、リアリティのおかしさを増幅しています。


漂流した五郎は韓国領の架空の島「南風島」で目を覚まします。これまで実在の場所や店に拘っていた『孤独のグルメ』が、禁断の領域に一歩踏み出した瞬間です。首都圏から日帰り可能な神奈川県の三崎でロケし、CG加工で島にみせています。

腹が減った五郎は、貝やキノコを採集し、たまたま近くに落ちていた鍋とカセットコンロを使って、「海戦キノコ納豆鍋」を作ります。鍋が落ちているのはまだ納得できるとして、ガスが詰まったカセットコンロまで落ちているのは都合が良すぎます。しかし白昼夢のようなリアリティなので、つっこむ人は少ないかもしれません。納豆は冒頭パリへ赴くJAL機内で貰った「ドライなっとう」を使用していますが、プロダクト・プレイスメントのせいなのかもしれません。

また、このシーンはドラマ含めて『孤独のグルメ』史上初の自炊になります。

料理の注文にも慎重さをみせる五郎が、フィールドで採取した――落ちていた食材で自炊するという、あまりにも不用意なことを平気でやってしまうのです。案の定、貝かキノコの毒にあたり、白すぎる泡(メレンゲを使用したそうです)を吹いて意識を失ってしまいます。

その後、五郎は島にある食品研究施設で目を覚ましますが、ダニエルという名の警護員に制圧されてしまいます。得意であったはずの古武術――アームロックを極めるそぶりさえみせません。


●自由に飯を食えない五郎

最も変なシーンはここからです。

内田有紀演じる志穂をはじめとする研究施設に務める女性たちと仲良くなった五郎は、島の食材を使った料理を振舞われます。この時、女性たちと一緒に料理を食べるかと思いきや、衆人環視の中、五郎一人だけで料理を食べることになるのです。全員研究員なので、五郎の感想を聞きたいということなのだと思いますが、まるで『ミッドサマー』のホルガ村の食事シーンのような異様さです。

最も異様なのは、こんな状況なのに、五郎は「期待を軽々と越えてきた。大ご馳走だ」「心をこめて作ってくれたのがよく分かる」「ここは竜宮城だ」と食事を楽しんでしまうことです。

この後、島を離れてからも、旧助羅港でユ・ジェミョン演じる入国審査官を傍で待たせて平気で食事をとるのですが、ファンテヘジャンクを入国審査官が驚くほど美味そうに食べます。


思い返せば、ドラマ『孤独のグルメ』は毎回以下のようなナレーションで始まっていました


「時間や社会に囚われず、幸福に空腹を満たす時、つかの間、彼は自分勝手になり自由になる。誰にも邪魔されず、気を使わず、ものを食べるという孤高の行為。この行為こそが現代人に平等に与えられた、最高の癒しと言えるのである」


これは、原作漫画における五郎の以下のような台詞を受けて作られたものです。客が食事中に店員に説教する店主に文句を言って騒動になり、アームロックをかける前の台詞ですね。


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「誰にも邪魔されず、気を使わず、ものを食べることこそ、孤独であるが孤高の行為」これこそ『孤独のグルメ』のテーマといえるでしょう。


ところが『劇映画 孤独のグルメ』では、五郎はそばに誰かがいるにも関わらず平気でものを食べます。気も使いません。原作漫画の五郎ならありえない行為です。


●変な部分には理由がある

ここで思い出したいのが、本作はタイトルに「劇映画」とついていることです。

元々『孤独のグルメ』はドキュメンタリーとしての映像化が企画されていました(https://web.archive.org/web/20160608202546/https://mainichi.jp/articles/20151229/dyo/00m/200/047000c)。ドラマ化にあたっては原作漫画の(パロディとしての)ハードボイルド要素を引きずり、心の声――モノローグが多用されました。これはバラエティー番組におけるテロップと同様です。 視聴者がそのシーンをどのように受け取るべきかが明確になります。代わりに視聴者は一段階経由した感情を抱くことになります。

また、シーズンを重ねるごとにお話のテンプレートが確立されました。刺激的なシーンもなく、キャラクターが不幸になることもありません。

結果として、原作漫画よりもドラマ性に乏しく落ち着いた展開――アンチドラマ・アンチカタルシスな映像作品となりました。

映画化にあたっては、例年やっている大晦日スペシャルと同じように、アンチドラマ・アンチカタルシスで2時間やるやり方もあったはずです。しかし、作り手は、それではテレビのスペシャル番組になっても映画にはならないと考えたのではないでしょうか。


故に、「他人の思い出を助ける」「他人の恋愛を助ける」という、グルメ漫画ではありがちですが、『美味しんぼ』や『クッキングパパ』のように劇的ではない、さりげないドラマが導入されました。原作漫画はその時点でのうんちく過多で劇的なグルメ漫画へのアンチテーゼとして始まりましたので、ジャンル的には先祖帰りです。ただし、五郎のモノローグはあくまで料理への感想にとどまり、他人の思い出や恋愛を助けるための選択や決断については絶対に言語化しないというさりげなさです。

この結果、これまで他人の人間関係に介入することの無かった五郎が、最後には「よかったんじゃないの」とタメ口で語るまでのキャラクターに変化しました。まぁ、テレビのジャイアンも劇場版ジャイアンも同じジャイアンです。


また、さりげなくもより劇的にするために、五郎にとっての冒険という物語が導入されました。

未知の海への航海に乗り出したり、食あたりで死に近づいたり、死の世界あるいは竜宮城のような非日常世界に囚われ「女神」と遭遇したり、女神から貰った「宝」を持って帰還したりするのは、ジョーゼフ・キャンベルが提唱した「ヒーローズ・ジャーニー」に(ある程度)則っているといって良いでしょう。


●プログラムピクチャーとメタ的要素

本作はテレビ東京60周年を記念して企画され、テレビドラマや大晦日スペシャルと連動しました。興行収入的に成功すれば続編も作られる筈です。現代のプログラムピクチャーといって良いでしょう。

しかし、だからこそ作り手のやむにやまれぬ思いをメタ的な要素として入れ込む必要がある――少なくとも多くの映画で活躍してきた松重豊はそう考えたのではないでしょうか。


そもそも杏がパリに移住したのは東出昌大の女性問題と離婚が原因でした。内田有紀は吉岡秀隆と離婚して以降、(内縁関係にはあっても)法的には独身を貫いています。二人とも「男に愛想をつかした女」であるわけです。

どことなく久住昌之に似ている一郎を演じる塩見三省は、2014年に脳出血で倒れ、現在も左手足などに後遺症が残った状態です。「写真は記憶になる。絵画はそれを思い出に変えてくれる」「もう日本に帰るのは諦めている」等の死を覚悟した台詞には重みがあります。また、彼が求め、冒険の発端となった絵画は、原作の作画を担当した谷口ジローによるものです。

ダニエル八田を演じるマイケル・キダは神奈川県に在住し、俳優業と共に自身の経営する農園で農業を行っています。この農園や小屋が本作で南風島の一部として使用されました。内田有紀がコーヒーを振舞ってくれるあのシーンですね。

松重豊は福岡出身ですが、大学進学に伴い上京し、下北沢の有名中華料理店「珉亭」でバイトを始め、ここで甲本ヒロトと知り合いました。元々映画監督志望だった松重はヒロトを主演に自主制作映画を監督しようとしたが頓挫したこと、本作の主題歌を依頼したことは、本作のプロモーションに伴いあちこちで語っているので有名になりました。おそらく、本作の終盤が架空のラーメン屋が舞台になるのは、「珉亭」でのやむにやまれぬ思いがあるからなのでしょう。


●井之頭五郎の成熟

結果として、原作漫画ともテレビドラマとも異なる変な映画が誕生したわけですが、井之頭五郎が経年により変化した――成熟したと考えれば一貫性や継続性があります。

そもそもドラマ版は当時50代だった松重豊が30~40代にみえる原作五郎よりも年長だったことから、時間軸として原作よりも後年の話と設定されました。松重の髪もすっかり白くなりました。

また、久住昌之の作風も変化しました。

『孤独のグルメ』の原型はデビュー作である『夜行』になります。アラン・ドロンのような恰好をしたハードボイルドな男が、夜行列車で弁当を食べる順番をどう「組み立てるか」に執心したり、周囲からどうみられるかを過剰に気にしたりする、ギャグ漫画でした。これが『月刊PANJA』の編集者のアドバイスで大人向けになったのが『孤独のグルメ』です。沢山ある料理をどう「組み立てるか」に執心するのは同じですが、周囲からどうみられるかはもはやほとんど気にしません。加齢によりオトナになったわけです。

『夜行』が収められた短編集『かっこいいスキヤキ』には、タイトルの元となった『最後の晩餐』という短編が収録されています。体育会系のサークルで行われたスキヤキ食事会で、どうすれば肉を沢山食べられるかに執心するギャグ漫画です。後に久住が書いた『かっこ悪いスキヤキ』は、加齢した久住がスキヤキ店に行き、「中居さんの肉野菜投入速度にペースを乱される」とか「野郎四、五人と鍋を囲み、茶碗酒をぐいぐい飲みながら食べるのが一番」とかいったようなエッセイですが、加齢に伴うセルフアンサーのような内容になっています。


こう考えると、原作発表から約30年、ドラマ開始から13年が経ち、井之頭五郎というキャラクターが加齢により変化していってると捉えるのも自然になります。『男はつらいよ』の寅さん像が、約30年の経年と渥美清の加齢により変化したのと同様のことが、リアルタイムで起こっているわけです。


井之頭五郎は、自分で決めたルール以外のなにものにも囚われず一人で食事をすることを幸福としていました。これを実現するための経済力も社会的地位(個人貿易商)もトラブルに巻き込まれた際の暴力(古武術)も備えていました。

しかし加齢により、まず体力が落ちました。仕事を斡旋してくれる滝山との仲も深まり、別れた恋人の娘である千秋との関係性もできました。他人の事情にある程度首をつっこみ、人間関係を作ることが、本当の自由であると気づいたのかもしれません。




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