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【再掲】遺言 その2
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【再掲】遺言 その2

2015-11-09 07:00

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    遺言 その2 2015/10/19
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    パスワードの起源は印章にあります。

    誰と誰にこの情報を伝えるか、誰ならこの知識に触れてもいいか――情報へのアクセス可能性を決める力は一つの権力です。そして、印章があれば、自分がいないところでも自分の意思や権力が発揮されます。

    権力の持ち主がいないのに権力が発現される。古代の人からみれば、呪術的・超自然的な力が印章に宿っているようにみえたことでしょう。現代でも、判子を粗末に扱うことが戒められたりするのはその名残です。


    問題は、持ち主が死んでしまった時です。


    ブラウザのキャッシュに保存されていたパスワードはまったく通用しませんでした。おそらく、入院した時に使っていたスマホからパスワードを変えたのでしょう。祖父のスマホは手元にありますが、こちらのキャッシュにパスワードは保存されていませんでした。そこで、SNSにパスワード再発行の入力をしました。アカウントは自分も知っている祖父のメールアドレスだったのですが、今度はメールのパスワードが分からず、新しいパスワードを受信できません。

    完全に手詰まりです。


    こういう時に頼りになるのは兄……兄貴です。

    祖父を嫌っていた兄貴はイギリスへの留学という名目で家を出ました。当時、高校生で留学というのは珍しい部類に入りましたが、兄貴の成績なら余裕でした。

    帰国後、兄貴は湘南にある某一流大学の情報学部に進学します。ちょうど、理系的分野と文型分野を融合した複合領域でのリベラルアーツ教育の重要性が叫ばれ始めた頃でした。

    優秀な成績を収めつつ、英語もペラペラだった兄貴は、ウェブ版を始めようとしていた全国紙の新聞社に就職し、記者として十数年を過ごし、今に至ります。おそらく、年収は1000万円を下らないでしょう。

    そして、兄貴は幼少の頃からオタクでした。オタクとして人生を生きるかどうかの最初の分岐点として、「中学になっても小学生用の半ズボンを穿くかどうか」というものがあります。コロコロ・駄菓子・特撮で生きてきて「女は敵」という価値観しか持っていなかった小学生男子も、中学に進学すると色欲が出始めます。「モテ」を意識するようになるわけです。そこで長ズボンを穿き、世間的な価値観に迎合するか、それまでの価値観を固持するかが、その後オタクとして生きるかどうかの分水嶺になる、というわけです。

    兄貴はその時、半ズボン着用を選んだ男でした。ゲームと深夜アニメに熱中し、パソコンを何台も自作してベンチマークソフトが叩き出す数値に熱狂し、「レンズ沼に嵌った」と苦笑しては高価な一眼デジカメと周辺機器を買い揃え、モーニング娘。のコンサートに通ってオタ芸をしているファンを腕組みしながら冷ややかな目でみる――大学卒業から社会人数年目までは、そんな青春時代を送っていたそうです。

    コンサートの間、腕組みしながら仁王立ちでステージをじっとみつめ音楽に聞き入ることを「タイガー」と呼ぶ――そんな無駄知識も兄貴から教えてもらったものでした。今も、三ヶ月に一度の番組改変期には新作アニメをエクセルで表にし、どれを視聴しどれを視聴しないかを決めているそうです。


    一方で、自分は兄貴が抱えている「秘密」に薄々気づいてもいます。兄貴は現在40代半ばなのですが、十中八九童貞です。


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