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遺言 その1 2015/10/12
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さて、今回のブロマガですが、ちょっと家族の話をさせて下さい。
『ちびまる子ちゃん』という、アニメ化もされたマンガがありますよね。今や、日本人で知らない人はいないマンガです。
『ちびまる子ちゃん』に出てくる主人公の女の子のおじいちゃん――さくら友蔵は、ある意味、日本の理想のおじいちゃんです。孫に優しくて、性格は穏やかで、ちょっと痴呆症のケがあるけれども、誰からも愛されている。まさに好々爺という感じです。
ところが実際の作者の祖父は、あんな良いおじいちゃんじゃなかったそうですね。性格はまるきり正反対で、意地悪で冷たくて、家族の誰からも嫌われていたらしい。そんなことが原作マンガの単行本にオマケで掲載されていたエッセイに記されていました。ほんのちょこっとですけれど。
なんでそんなことが記憶に残っているかというと、わたしの祖父も好々爺とは正反対の人物だったからです。
祖父は複雑な男でした。家族以外の人――仕事で初めて会う人間や、ちょっとした知り合いには愛想の良い男だったのですが、家族には自分の内面の葛藤をそのままぶつけました。
口を開けば過去にした仕事の自慢ばかり。嫌いな人間がミスすれば誰よりも激しく糾弾し、好きな人間のミスには鷹揚でした。当然、自分のミスは何かと理屈をつけて正当化しました。
自分への悪口には特に敏感で、批判や批評や悪口は一片たりとも見逃せないようでした。それらについても、理屈をつけて、反論するのです。家族はたまったものではありません。
それでも、祖父が生前に書いた数点の著作はそれなりに売れ、ラジオやテレビに出演することもありました――いわゆるプチ文化人ですね。メディアでしか祖父のことを知らない人の何割かは、祖父のことを尊敬しているようでしたし、祖父自身、表に出る自分の姿、キャラクターをコントロールすることに余念がないようでした。
つまり、「外面のいい男」だったのです。常に他人から自分がどうみられるかを気にし、行動していました。
だから、自分の信奉者――信者のようなファンたちは、祖父の理屈を有難がりました。祖母が嫌がったので自宅に呼ぶことはありませんでしたが、近くの喫茶店や小料理屋みたいな場所を利用して、定期的に集まりを開いていたようです。
いつしか祖父は、家族と過ごす時間よりもそういったファンたちと過ごす時間を優先するようになり、そして……祖父は家族を捨てました。祖母と離婚し、家を出て行ったのです。普通なら祖母が出て行くところですが、あの家は祖母が両親から受け継いだ家だったのと、兄も私も祖母との同居を望んだので、そういう形になりました。
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