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【再掲】遺言 その1
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【再掲】遺言 その1

2015-11-09 07:00

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    遺言 その1 2015/10/12
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    さて、今回のブロマガですが、ちょっと家族の話をさせて下さい。



    『ちびまる子ちゃん』という、アニメ化もされたマンガがありますよね。今や、日本人で知らない人はいないマンガです。

    『ちびまる子ちゃん』に出てくる主人公の女の子のおじいちゃん――さくら友蔵は、ある意味、日本の理想のおじいちゃんです。孫に優しくて、性格は穏やかで、ちょっと痴呆症のケがあるけれども、誰からも愛されている。まさに好々爺という感じです。

    ところが実際の作者の祖父は、あんな良いおじいちゃんじゃなかったそうですね。性格はまるきり正反対で、意地悪で冷たくて、家族の誰からも嫌われていたらしい。そんなことが原作マンガの単行本にオマケで掲載されていたエッセイに記されていました。ほんのちょこっとですけれど。


    なんでそんなことが記憶に残っているかというと、わたしの祖父も好々爺とは正反対の人物だったからです。

    祖父は複雑な男でした。家族以外の人――仕事で初めて会う人間や、ちょっとした知り合いには愛想の良い男だったのですが、家族には自分の内面の葛藤をそのままぶつけました。

    口を開けば過去にした仕事の自慢ばかり。嫌いな人間がミスすれば誰よりも激しく糾弾し、好きな人間のミスには鷹揚でした。当然、自分のミスは何かと理屈をつけて正当化しました。

    自分への悪口には特に敏感で、批判や批評や悪口は一片たりとも見逃せないようでした。それらについても、理屈をつけて、反論するのです。家族はたまったものではありません。


    それでも、祖父が生前に書いた数点の著作はそれなりに売れ、ラジオやテレビに出演することもありました――いわゆるプチ文化人ですね。メディアでしか祖父のことを知らない人の何割かは、祖父のことを尊敬しているようでしたし、祖父自身、表に出る自分の姿、キャラクターをコントロールすることに余念がないようでした。

    つまり、「外面のいい男」だったのです。常に他人から自分がどうみられるかを気にし、行動していました。

    だから、自分の信奉者――信者のようなファンたちは、祖父の理屈を有難がりました。祖母が嫌がったので自宅に呼ぶことはありませんでしたが、近くの喫茶店や小料理屋みたいな場所を利用して、定期的に集まりを開いていたようです。

    いつしか祖父は、家族と過ごす時間よりもそういったファンたちと過ごす時間を優先するようになり、そして……祖父は家族を捨てました。祖母と離婚し、家を出て行ったのです。普通なら祖母が出て行くところですが、あの家は祖母が両親から受け継いだ家だったのと、兄も私も祖母との同居を望んだので、そういう形になりました。



    そんなわけで、祖父の病気が判明した際、家族――元家族の皆が悲観にくれたといえば嘘になるでしょう。兄などは、やっとあの糞爺がうんぬんかんぬんと、公然と喜びの言葉を口にしたものでした。当然、わたしも似たようなもので、あの時の心境は同じような人間が家族にいた者にしか分からないでしょう。

    もともと祖父は数年前から身体と精神の不調を訴えてはいたのです。ですが生来の医者嫌いから、祖母や父がいくら請うても病院にいくことはありませんでした。いま考えれば、あれは医者嫌いというよりも、内心で恐れていたものが「病気」とか「検査データ」とか「専門医の診断」とかいった否定できない形で、はっきりと眼前につきつけられるのが嫌だったからでしょう。

    祖父は、どんな訴えも、価値観も、世界観も、祖父の気に入らないものは全て、祖父なりの理屈で否定してきました。しかし、医者や臨床検査技師といった専門家がはっきりと数値で示してきたものを、祖父の理屈で否定することは難しい。誰がどうみても分かる数値や、それから導き出される結論を否定する理屈は、誰がどうみても屁理屈になってしまうからです。



    だから、祖父の葬式に列席するのも、当初はあまり気が進みませんでした。家族に連絡をとり、皆で散々悩み、話し合いましたが、どうも祖父はその後再婚せず、家庭を持たなかったようです。

    父も母も数年前に亡くなっています。結局、喪主は兄が嫌々ながら務めることになりました。


    葬式に列席して驚いたのは、参列者の多さです。

    わたしも母も、当然兄も知らない人物です。それも、祖父と同年代の老人から、どうみても学生といった顔立ちまでの、幅広い年齢層でした。一人だけで参列してると思しき若い女性も何人かいて、その女性の外見がどれも似通っていることに、なんだか心がざわついたりもしました。「問題ばかり起こすお祖父ちゃん」としての祖父の他は、「昔、ちょっとだけ売れていた文化人」としての祖父しか知らなかったので、意外でした。自分の葬式に、あれほどの人数が参列するかどうかを想像すれば、異常な人数でした。如何に外面の良かった祖父とはいえ、そんなにも人望があったのでしょうか?


    焼骨の間、初めて会う祖父の知り合いと話したり、知り合い同士の会話に聞き耳を立てていて分かったのですが、どうも祖父はSNSを通じて自分のファンと深い交流を持っていたようでした。それも、ただの交流というよりも、コミュニティのようなものを作り、なにかしようとしていたようです。祖父の知り合いは「愛人10人(笑)」とか「新しい家族」とかいった単語を、会話の合間に冗談交じりで口にしており、興味が湧いたのも事実です。


    そこで、祖父の遺産に思い至りました。

    祖父は死ぬ前の十数年間、ほとんど仕事をしていませんでした。著作も増刷された気配はなく、現金収入はほとんど無かったはずです。

    ですから、現金はほとんどなく、不動産や証券の類もありませんでした。借金を相続しなかっただけましというものです。その現金も、未払いだった入院費の支払いや、祖父が一人暮らしするために借りていた部屋の未払い家賃、葬式を出す費用で綺麗さっぱり無くなりました。

    祖父が住んでいた部屋の片づけをした後、母や兄と形見分けをしたのですが、そこで持ち替えた品々の中に、一台のノートパソコンがありました。


    帰宅後、ノートパソコンを開いてみると、やはり思ったとおりでした。ブラウザの履歴に、祖父がアクセスしていたSNSのURLが残っていたのです。

    そこには祖父と10人の愛人の秘密がある――そう考えていました。

    (次回へ続く)




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