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遺言 その4 2015/11/9
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ヒトが属する分類群である哺乳綱霊長目の動物――霊長類は、一夫多妻制もしくは多夫多妻制をとっている動物が多いです。たとえばゴリラは一夫多妻制、チンパンジーは多夫多妻制、オランウータンは緩やかな多夫多妻制をとっています。テナガザルのように一夫一妻制をとる霊長類は、どちらかといえばマイナーな部類に属します
一夫多妻制と一夫一妻制をとる動物の違いとして真っ先に挙げられるのはオスとメスの体格差です。
昆虫の多くがそうであるように、本来、子供を産む性であるメスの方が、体格が大きくなり易い性質があります。しかし、卵生にしろ胎生にしろ、メスの方が卵子の形成や出産に時間やエネルギーをかける必要があります。なにしろ、卵子は精子の何十倍も大きいのですから。
つまり、メスは卵子や胎児の育成に忙しく、オスはそうでもない。すると、オスの方が繁殖にあぶれ易くなります。
あぶれたオスは何をするか――メスを巡って競争します。この競争が物理的肉体的な闘争、すなわちケンカとして現れた場合、体が大きく力の強いオスが競争に勝ち、体が大きく力の強い形質が子孫に受け継がれ、体が大きく力の強いオスがどんどん増えることになります。結果として、メスよりもオスの方が体格が大きくなります。ライオン、オットセイ、ゾウアザラシ……これらはどれも一夫多妻制をとり、オスの方が体格の大きい動物です。
メスを巡る競争が物理的なケンカではなく、見た目で行われる場合もあります。クジャクの尾羽、シカの角、セミの鳴き声、ホタルの発光、ガや酵母菌が出すフェロモン……これらはその動物が自然界でサバイブするために重要な要素ではなく、むしろ生存率を下げる場合すらありますが、メスにアピールし、同種のオスとの競争に勝ち、子孫を残すという意味では重要な要素です。そして、クジャクやシカは一夫多妻制であり、繁殖期にハーレムを作ります。
ゾウアザラシのオスはメスの約4倍、ゴリラは約2倍の体格差があります。一方、ヒトのオスとメスの体格差は1.2倍程度です。また、ヒトはオスとメスに顕著な外形的な違いはありません。オスの方が見目麗しい尾羽を持っていたり、角が大きかったり……というのはないわけです。
それでも、ヒトは時に一夫多妻制をとる場合があります。
たとえば、集団内でオスの数が著しく減るような場合です。イスラム社会では、古代から戦争が相次ぎ、戦争未亡人が多くなりがちでした。そこで、寡婦や孤児を社会に溢れさせないため、一夫多妻制がとられたと考えられています。
また、社会的階層の上位で一夫多妻制がとられる場合もありました。貴族や王族の側室制度、権力者の愛人……ヒトが動物の一種族である以上、できるだけ多くのコピーを次世代に残したいという欲求からは逃れられないのです。
結局のところ、メッセージを送ってきたユーザーは十数人いました。
全員と同じ場所で会うのは考え物です。私以外の皆はそれなりに面識があり、私のことは誰も知らない状態にあります。皆、私の話を聞きたがるでしょう。
私は私の話をしたいのではなく、皆から皆の話――皆と祖父の関係性についての話を聞きたいのです。
そこで、プロフィール欄や「日記」をよく読み、その中の数人と個別に、一対一で会うことにしました。
街中で、思わず視線で追ってしまう女性。話す時に、思わず声が上ずってしまう女性。そして、祖父が一人暮らししていた部屋に残されていたエロ本やエロDVD……祖父の女性の好みは良く分かっていました。
まず会うことにしたのは、プロフィール画像のルックスから、最も祖父好みであると判断した女性です。
更に、年齢は20代後半、独身です。職業が占い師という点のみ少し気になりましたが、最初に会って話を聞く人物としては最も適当でしょう。
仮に、名前をA子さんとしましょう。
「祖父の話をする」そんな名目で、新宿の喫茶店で待ち合わせをし、話を訊くことにしました。
実際にお会いしたA子さんは、プロフィール画像とほとんど変わりの無い美人でした。意外です。これまで何度か、それまでネット上でしか付き合いの無かった人物とオフ会した経験があるのですが、女性は皆SNSの画像よりブサイクというのが定番でした。
色々と話を訊いていきます。こういう時のコツは、相手に尋ねるだけでなく、タイミングよく自分の話もすることです。「そうなんだ、私はね……」と、競うように自分の話をするような流れに自然と持っていくことができれば大成功です。
A子さんが祖父に興味を持ったのは、著作を読んだことがきっかけとのことでした。そういえば後年の祖父は自己啓発的な著作を何冊も書いていました。占い師は基本的にフリーランスで個人事業主だそうです。会社組織に属さず、個人事業主としてやり続けていくためには自己管理が重要です。面白かった自己啓発本の著者に会い、著者が運営しているコミュニティを私塾のようなものと勘違いして参加する……というのは自然な流れです。
あるいは、本当に私塾だったのかもしれません。A子さんの口からは盛んに「色々なことを教わった」だの「勉強になった」だのといった言葉が出てきました。
それなりに話も盛り上がり、時も過ぎ去り、夕方になります。こういう時、新宿は便利です。街の雰囲気から、近くの居酒屋に行くことになりました。
アルコールが入ったせいか、それとも占い師という職業を褒めまくったせいか、もしくは私が初めて異性に告白して失敗した話を楽しんでくれたのか、それとも兄弟でお互いの部屋から裏AVを盗みあった話が大ウケしたせいか、機嫌の良くなったA子さんが聞き逃せない一言を漏らしました。
「実は、先生から告白されたことがあって……」
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