今年、3年ぶりの最高位に返り咲いた近藤誠一。ただタイトルを奪還しただけではなく、誰に聞いても「近藤は強い」と絶賛される勝ち方だった。直前インタビューでも、そのコメントから最強位奪取への自信に満ち溢れている。その近藤は江崎文郎・魚谷侑未・片山まさゆきを相手にどのように戦っていたか?
重たい展開で始まった東場。近藤も東3局までアガリを決めることができずにいた。だが、東3局では最初にテンパイを入れる。
ここで近藤は打でリーチをかけた。待ちはのカン待ちである。
「近藤さんからみては0枚、は2枚見えている状況で、を選んだ理由を教えてください。たとえば、でアガったとき、あるいは流局時にそのテンパイ形を相手に見せることの効果もリーチの意図にあったのでしょうか?」
近藤「自分の手牌を含めての見え具合、およびの出具合(他家から捨てられているので、手中にが持たれている可能性がある)で、よりが優位と判断しました。直前にが一枚切られたのは少し痛いとは思いました。見せる効果は、多少は笑い話になると思った程度で、特にありません」
たしかにがそれぞれ3枚見え、かつが2枚出ならが固められていることはないのでカン待ちのリーチは理に適っているように思う。だが、最強戦ファイナルでこの形のリーチを躊躇いなく放てる打ち手はなかなかいない。この部分が近藤の言う感性で打つことなのだろうか。この待ちがチャンス手の親の江崎から出て5200のアガリとなる。が、点数以上に衝撃を受けるアガリだった。
ただ、近藤もそこからなかなか3者を突き放すことができない。東ラスでは待ちでリーチをかけるも魚谷に引き負け、また南2局1本場では江崎に安目とはいえ3900の放銃で親を落としている。
「この放銃によって、親なしの残り2局でトップとは10100点差。この状況で焦りはなかったですか?」
近藤「少し辛い状況になりましたが、受け入れるほかに道はなく、焦りはありません。いつか捲れると思っていました」
そして迎えた南3局。近藤の手はドラもなく、手牌の形も重かった。4巡目、チートイツが見える手牌になったところで近藤はに手をかける。
「ここで打とした理由を教えてください」
近藤「ここでトイツ手に決めるべきと判断し、重なり期待の低い順に選択しました。結果的にの出アガリに僅かながら影響したようですが、意図はなく期待もしていません」
「次巡、を重ねてチートイツのイーシャンテン。ではなくドラ表示牌のだったのはやはり重なりにくさを意識したからでしょうか?」
近藤「あくまで、重なり期待の低い順です」
「この直後が出てポンしましたが、すぐにチートイツのテンパイが入れば即リーチをかけていましたか?」
近藤「チートイツのテンパイが入った場合、待ち牌が悪くなっていなければ、リーチです」
近藤はポンの後、ポンからの明槓、の暗槓で満貫のテンパイを果たす。これを魚谷からアガってトップ目でオーラスを迎えた。
だが、そのオーラス。近藤の手牌には役牌の暗刻があったものの、それ以外はバラバラ。しかも魚谷に早いテンパイが入った後、親の片山からリーチ。それに対してドラを捨てて勝負する魚谷。さらにリーチ棒のおかげで、アガリ条件のできた江崎も仕掛けを入れて応戦している。近藤1人が追いつけない状況だった。
「全員がアガりに向かっていて、しかもこの局で即決着がつく可能性も十分高い局面で、近藤さんはを落としてオリました。このときの心境を教えてください」
近藤「堪え難きを堪え、忍び難きを忍んで、オリました。 配牌が、南の勢揃い以外はなんとも辛いもので、その時から、このイメージはありました。 ダメならこれもまた天命と受け入れ、流局を待ちました。 あくまで感覚的な話ですが、自分がアガリに向かった方が終わってしまうと思いました」
親と一騎打ちの状況ならまだしも、全員にトップの可能性がありかつ全員が攻めている状況で我慢できるものだろうか? 多くの打ち手がダメ元で突っ込んでしまうような気がする。だが、近藤は耐えて流局を祈った。その祈りが通じたのか、この局では決着がつかずもう1局となる。近藤はトップ目を譲ったものの、ひとアガリでまくれる位置を維持。そして取った配牌には役牌のがトイツで入っていた。だが、何から捨てるかが難しい。近藤はここから切りを選んだ。
「第一打は結構難しいと思います。近藤さんが、打を選択した理由を教えてください」
近藤「リャンカンは手牌の場所をとりすぎるので、とりあえずを切り、場合によってはと切るつもりでした。チートイツは望んでいませんが、トイツはポン出来る飛び道具として、とりあえず残しました」
すぐにカンを引き入れた近藤は、4巡目に江崎からをポンしてテンパイ。相手にテンパイを組ませる時間を与えず、あっという間にアガり切って決勝進出の切符を手にした。
決して楽な勝ち方ではなかった。が、自信に満ちた近藤の強さを十分に見せつけた半荘だったといえるのではないだろうか。