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【第1章】おかざき真里×橋本麻里 『空海』を語り尽くす!トークイベント完全レポート【全6章】
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【第1章】おかざき真里×橋本麻里 『空海』を語り尽くす!トークイベント完全レポート【全6章】

2021-12-17 12:00

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    2021年10月13日(水)から 12月25日(土)まで、ミュージアムシアター(東京国立博物館内)と、ミュージアムシアターチャンネルで上演中のVR作品『空海 祈りの形』。
    2019年初演時には漫画家・おかざき真里、美術ライター・橋本麻里による記念トークイベント「『阿・吽』ミュージアムシアターコラボ おかざき真里と橋本麻里の「空海」徹底放談会!」が開催され、チケットは即日完売。その大好評イベントの内容を、全6章にわたってまるごとおとどけします!
    第1章となる本記事では、これまで女性の心情を細やかに描き人気を博してきたおかざき真里が、漫画『阿・吽』で空海と最澄の生涯を描くこととなった、そのきっかけと秘話に触れていきます。

    ※この記事の内容は、2019年トークイベント開催当時のものです。


    <登壇者プロフィール>

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    おかざき真里 漫画家 
    博報堂在職中の1994年に『ぶ~け』(集英社)でデビュー。2000年に博報堂を退社後、広告代理店を舞台にした『サプリ』(祥伝社)がドラマ化もされるなど大ヒット。現在は「FEEL YOUNG」で『かしましめし』を連載中。2021年5月「月刊!スピリッツ」連載の『阿・吽』(小学館/監修・協力:阿吽社)が完結。

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    橋本麻里 日本美術ライター/永青文庫 副館長 
    日本美術を主な領域とするライター、エディター。永青文庫副館長。新聞、雑誌への寄稿のほか、NHK・Eテレの美術番組を中心に、日本美術を楽しく、わかりやすく解説。近著に『かざる日本』(岩波書店)、ほか
    『美術でたどる日本の歴史』全3巻(汐文社)、『SHUNGART』(小学館)、『京都で日本美術をみる[京都国立博物館]』(集英社クリエイティブ)ほか多数。


    空海へとつながる、2人の「マリ」の出会い

    おかざき真里(以下:おかざき):漫画家のおかざき真里です。本来なら私が一番、参加者側で勉強しなければいけない立場なのですが、今回は登壇者側にて失礼します。また、お大師様と本来呼ばなければならないところを、漫画に倣いまして「空海」と呼ばせていただきますことをお許しくださいませ。

    橋本麻里(以下:橋本):美術ライターの橋本麻里です。今日はおかざき真里さんとマリマリ2人で対談させていただきます。そしてここに、漫画家のヤマザキマリさんがいれば3マリになった、と。

    おかざき:あ、そうですね。キャンディーズでしたね。

    橋本:これぞ昭和ネタ(笑)。打ち合わせからずっとおかざきさんと昭和ネタを話していて、これは通じないだろうと言っていたのですが、今日は昭和からさらに遡りまして、平安の時代のお話をしたいと思います。

    今日は、おかざきさんが連載されている作品『阿・吽』(2019年当時。2021年5月完結)にことよせて空海の生涯を紹介していくわけなんですが、『阿・吽』ファンには本当に見逃せない、凸版印刷担当者渾身の編集写真や映像がものすごいボリュームで出てくるようですね。

    おかざき:そうですね。凸版印刷さんですべての単行本を印刷していただいているのですが、その印刷元データから起こした画像になっています。トークイベント第1部でみなさんに見ていただく画は、おそらく原画展よりも原画ですね。

    それと今日のお土産に入っている、私がちょっと落書きした絵と、人物相関図も凸版印刷さんの元データから作っていただいておりますので、こちらもほぼ原画に近いような絵になります。

    橋本:このA4の1枚とA3の1枚ですね。おかざきさんの画を使いまくったうえに、新たに制作したとのこと。すごいです。

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    おかざき:
    いやいやいや、そんなにすごくないです。

    橋本:こちらを見ながら、ぜひこのあとのお話をお聞きいただきたいと思います。では、どうぞよろしくお願いします。

    おかざき:よろしくお願いします。

    橋本:さて、おかざきさんと私が、こうしたトークイベントをご一緒するのは2回目です。最初は何がテーマだったかというと、空海ではなく、なんと「春画」。『マリマリの春画deナイト!』というイベントをさせていただきました。

    おかざき:そうですね、最も遠い、遠いというか、近いというか、そんなテーマでしたね。場所は下北沢の本屋B&Bで。

    橋本:そもそも私たちの関係は、何がきっかけでしたっけ?

    おかざき:たしか小学館の雑誌『和樂』さんのご紹介で。そのときに初めてお会いしました。

    橋本:そんなきっかけでしたね。その後もいろいろ、お付き合いがあって、お正月には元日からおうちに遊びに行かせていただいたり。

    おかざき:そうだそうだ。去年のお正月、麻里さんが私の家におせちを食べにきてくれましたね。

    橋本:そうそうそうそう。

    おかざき:「ちょっと麻里さん、きてきて!」と言って。床に『阿・吽』の原稿を広げて。

    橋本:そうそうそうそう。

    おかざき:そして「これ、ちょっと、このセリフどう思う?」と聞いたり。お正月早々、考証をお願いしていました(笑)。

    橋本:そのときにおかざきさんが何を迷っていたか、というと……ちょうど9巻、8巻のあたりに収録されたお話です。

    おかざき:いや。えぇと、8巻か……7巻ですね、はい。

    橋本:ということで、この迷ったというエピソードも含めて、普通は表に出ないようなお話を、いろいろとしていければと思います。

    繊細な恋愛漫画から一転して、空海と最澄、2人の天才の物語を描くことになるまで

    橋本:では、どんどん話を進めていきましょう。おかざきさんが『阿・吽』の連載を始められたのは、いつでしたか?

    おかざき:実は、覚えていないんですよね。担当さん、いつですか?……2013年か2012年の10月だったと思うのですが。

    橋本:では、まだ10年経っていない。

    おかざき:いっていないですよ。たぶん1年に2冊出ているので、今まだ4年目か5年目ぐらいですね。

    橋本:え、今2019年ですよ。4年ということはないですよ。

    おかざき:あれ?あ、本当だ。じゃあもうちょっとあとですね。でも、こんな感じで書いています(笑)。

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    橋本:
    私はというと、2011年に東京国立博物館で空海の展覧会(「空海と密教美術」展、2011年)が開催され、そのタイミングに合わせて『芸術新潮』で「空海 花ひらく密教宇宙」という特集を作っていました。当時はまだ『阿・吽』の連載前だったので、おかざきさんはこの展覧会を、ご覧になっていないですよね?

    おかざき:そうですね。まだ連載前でしたね。たぶん。

    橋本:その頃のおかざきさんの代表作といえば、やっぱり『サプリ』。働く女性の仕事や恋愛模様を描いた作品は、月9のドラマにもなり。

    おかざき:なり。お家を建て。

    橋本:お家を建て(笑)。という漫画家さんとしてのイメージが当然、私も含めてありました。それが突然、歴史漫画に飛びこまれた。

    おかざき:はい。

    橋本:しかも空海。

    おかざき:はい。

    橋本:最澄。

    おかざき:はい。

    橋本:というので、連載を始められた当時は、多くのファンが驚きと共に受け止められたかと思うんです。何で、こんなことになったんですか?

    おかざき:私も「何で?」と思いながら漫画描いていますけれども。いやぶっちゃけて言いますと、先ほどちらりと声が出ました担当さんが、監修者さんとお知り合いになって、空海を漫画にしたらおもしろいのではないかという話になり。

    そうしたら、「一番こういったところから遠い人間に描かせるとおもしろいんじゃないかな?」ということになり、私にお声がかかったという次第です。最初は、全然、自分のことだと思わずに、2時間ぐらいお話を聞いていて、「あぁ、なんか、大変そうですねぇ。」なんて言いながら、もぐもぐご飯食べていました(笑)。

    そうしたら担当さんが帰り際に、コートに手を通しながら、「おかざきさんが描くとおもしろいと思うんだよねぇ。」と言って、そのまま帰ったんですよ。そして次の日の朝起きたら、「空海が描きたいですぅ。」とメールを打っていました(笑)。

    それまでは本当に歴史も何も知らないし、もう、宗教のことも何もよくわかっていなかったんです。でも、何でしょうね、感情や感覚の沸点が低いほうが、いろいろなものが出やすいといいますか。「あ、これはこうなんだ!」と、もう本当に何を見ても発見、発見、発見だらけなんですよね。あらかじめ知っていることが何もないので(笑)。

    だからそれまで、平安時代は「雅~!」の世界だと思っていましたが、「全然違うじゃん!」というところから始まって。まぁ、本当にそのまま漫画になっている感じです。

    橋本:歴史漫画は、おかざきさんがそれまで描いてこられた、自分と地続きの世界と全然違うと思うんです。

    おかざき:はい。全然違いますね。

    橋本:文化も風俗も、調べなければいけないことがたくさんある。だから現代を舞台にした普通の漫画より経費がかかり、時間もかかる。しかも、ベストセラーになるのはなかなか難しい……漫画の世界ではハードルの高い領域です。そこは障害にならなかったですか?

    おかざき:私の作品を読んでいただいたとある方に「いや、もうアホやな!空海描こうなんてアホやないとできひんで!」と言われたことがありました。そのとき「あ、なんか私はアホだったからできたんだな。」と思いましたね(笑)。

    あと、調べものに関しては、前職が広告代理店に勤めていたので、そこでコマーシャルを作っていまして。広告論になってしまいますが、世の中に商品が出ることって、本当に奇跡的なことなんですよね。

    そして、その最後の最後の段階でバトンを受けて、広告にして、お客様に伝えるという仕事をずーっとやっていたのですが、その中で唯一、最後の最後に汗水たらしたバトンを受けとる資格というのは、やっぱり取材なんですよ。

    例えば、車を担当したら車の歴史から、各自動車メーカーのさまざまな車種を全部調べるんですね。だから、調べることに関しては、まず描くに当たって真摯でいよう、というプライドだけはついていました。そんな感じなので毎回、調べものだらけでしたね。 

    タイトル『阿・吽』に隠された意味とは

    橋本:なるほど。その調べものの成果も含めて、非常に魅力的な物語になっているというわけですが、ではその『阿・吽』という作品の中身の方へ、入っていきたいと思います。

    第1部は、「『阿・吽』で見る天才空海の生き様」。いま9巻ですが、空海はどのあたりまできていますか?物語でいうと何合目とか、そういう目安はあるのでしょうか。


    おかざき:案外もう8合目、9合目じゃないかなと思います。

    橋本:あら。

    おかざき:わからないです。どうかなぁ(笑)。

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    おかざき:この「生れ生れ生れ生れて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥し。」というのは、空海が『秘蔵宝鑰(ひぞうほうやく)』という書物の中で書いたもので、密教とは何か、ということを書いた言葉なんですね。

    これの前段が、「三界の狂人は狂わせることを知らず。四生の盲者は盲なることを識らず。生れ生れ」と続くわけですけれど、要するに「お前らアホやから、今、おかしいことをわかってへんねんで!」という言葉なんです。そして空海のすごいところは、この『秘蔵宝鑰』は、本当にもう、言葉がかっこいいのはもちろんのことですが、これを天皇に提出したというのがまたすごいところで。当時は淳和天皇でしたね。

    橋本:淳和天皇、ということは嵯峨天皇の次。『阿・吽』9巻時点では、まだ登場していないですね。

    おかざき:出ていないです。はい。

    橋本:ほとんど影も形もないですね。

    おかざき:一瞬出ましたが、まだ、出ていないかな。最近では実は、嵯峨天皇よりも淳和天皇にとても空海は厚く庇護されていたのではないかといわれているのですが……またそれはそれで。

    橋本:この「生れ生れ生れ生れて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥し。」が物語の冒頭、第1巻の最初のページに描かれています。これはどんな理由からなのでしょう。

    おかざき:これ、どうして一番最初に持ってきたかというと、要するに「生れ生れ生れ」とは、これは世の中の一番最初のことで、サンスクリット語に当てはめると「阿」になります。そして「死の終わり」というのが「吽」です。そこから『阿・吽』というタイトルをつけたのですが、というのも連載前に私自身が「こりゃわからないな!」と思いまして(笑)。「最初から最後までいっても何もわからないぜ!」という意味で、これを冒頭に持ってきました。

    よく、神社で狛犬が結界を張る役割として、阿像と吽像がいますよね。あれも要するに、世界の始まりと世界の終わりで結界を張る、という意味があります。阿吽にはそういう意味があるんですね。

    橋本:それを、まさに物語の冒頭に持ってきたというわけですね。

    おかざき:そうです。「すみません、私、何もわかっていませんけれども。」という、冒頭です(笑)。

    橋本:次、いきましょう。さて、非常に手の込んだ年表を作っていただきました。それぞれのターニングポイントで、「今、ここまできています!」とお見せしますが、全体としてはこういった流れになっています。もちろん全部覚えていなくても大丈夫ですが、ネタバレもなにもありません。空海は何年に生まれたか、いつ亡くなったか、ちゃんとわかっていますから。

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    おかざき:あの、でもね、歴史のネタバレも知りたくない方は、ちょっと薄目をしてください(笑)。時々そういう方、いらっしゃいますので。

    橋本:ざっとご覧いただいて、いま到達しているのは、814年。『阿・吽』9巻ですね。この点線の入った時点まで話が進んでいます。

    おかざき:そうですね。

    橋本:意外とその後は少ないんですね。

    おかざき:少ないんです。もうここまできましたね、はい。

    橋本:では、次に行きましょう。

     >>>【第2章】へ続く 






    東寺講堂 立体曼荼羅を詳細な解説とともに鑑賞できる、
    VR作品『空海 祈りの形』
    本編配信は終了しました。(2021年10月13日~12月25日)

    弘法大師 空海が、言葉では表現できない究極の教えを伝えるために作り上げた「祈りの形」とは。
    804年、空海は留学僧として唐に渡り、密教の正統な後継者となります。
    そして、人々を救う真の教えを日本に持ち帰りました。
    823年に東寺を帝より託された空海は、密教の教えの中心となる建物を講堂と位置づけ、その建築に取りかかります。
    講堂内部に空海が作り上げたものとは、言葉では表現できない究極の教えを伝えるための世界。

    密教彫刻の傑作とされている東寺講堂 立体曼荼羅の魅力をVRで解き明かしてゆきます。

    監修:東京国立博物館、真言宗総本山教王護国寺(東寺) 制作:凸版印刷株式会社

     

    二人の天才の旅路、奇跡のクライマックス!2021年5月遂に完結!
    おかざき真里『阿・吽』(小学館/監修・協力:阿吽社)全14巻が発売中!

    https://www.shogakukan.co.jp/books/09186712
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    「この世ならざるもの」を招き寄せ、日常を聖化する〈かざり〉の営み。その術式を闡明する。
    橋本麻里の新著『かざる日本』(岩波書店)が、2021年12月より発売中!

    https://www.iwanami.co.jp/book/b596548.html
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