春に観光案内冊子を作った東京都杉並区では、夏にいくつかのお祭りが催されます。そのひとつが「阿佐谷七夕まつり」。まだ戦後の混乱が残る昭和29年から続く歴史あるお祭りで、阿佐谷パールセンター商店街のアーケードの屋根を、大小華やかなハリボテ人形が飾ります。その人形は、商店主や近所に住まう一般参加者が作った地域の人たちによるもの。

「今年はどんなモチーフが多いかな?」上を向いて歩きながら、くまモンや妖怪ウォッチなどその年の流行りを垣間見たり、ディズニーキャラクターやアンパンマンなど揺るぎない人気のヒーローたちを見てはしゃぐ子どもたちの姿が微笑ましかったり。冊子執筆のため取材したある店では「七夕まつりの時期が一年で一番忙しいよ」と、目を細めて話す店主の顔が実にいい顔でした。

しかしながら5日間のお祭りが始まると、当然ながら商店街は人、人、人。パタパタと団扇で風をおこしながら歩いてみたものの、じんわりにじむ汗に涼める店へと駆け込みました

入口には「阿佐谷の歴史」と題がついた、屏風ほどに大きな町の案内板が。この町で大正14年に和菓子店を始めたこと。当初の屋号は「虎屋」で、その後、初代の屋号を付して「とらや椿山」と店の名を改めたことなども丁寧に書いてありました。

「とらや椿山」でメニューとにらめっこ

店の奥に設えた喫茶用のテーブル席に座り、メニューとにらめっこ。汗ばむ体は「氷」を欲しながら、3時を伝えるかのごとくグーとなるお腹は「ホットケーキ」の文字をぎゅっと脳に押し付ける。しばらく迷ってみたものの、氷とホットケーキの勝負はつかず、結局どちらも注文することに。同行者と分け合いながら、ホカホカとヒヤヒヤを交互に口に運びました。

ホットケーキとかき氷。どちらも至極、素朴な味わい。正統をそれず、何十年変わらず初心を貫きます! とそれぞれが訴えかけるような、オーソドックスで懐かしい美味しさ。すっかり汗もひいたあと、再び七夕飾りの下を歩いて買って帰ったのは、お祭りらしいものでなく、ホットケーキミックスでした。家でもあの素朴な味を、再現したいと思って。

[阿佐谷七夕まつり,とらや椿山]

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