食文化については、やはり香辛料・スパイスがたくさん使われるというのが大きな特徴です。アラブ人が伝えたものですね。今回紹介するメッシーナ生まれのピパレッリも、スパイスをふんだんに使用した食べ物のひとつ。一見するとトスカーナ地方に伝わるビスコッティに似ているのですが、違いのひとつとして香りが挙げられます。シナモン、クローブ(丁字)、バニラ、オレンジピール......。隠し味でなくスパイスが主役だというくらいしっかり効かせます。そしてこの香り高さが最大の魅力なのです。
レシピによっては黒コショウやナツメグ、ココア、サフランなども使われ、ピパレッリという名前は「ピパレッディ(赤唐辛子のように辛い)」という方言からきているという説も。(実際はまったく辛くはないです)
もうひとつの説は、煙が満ちたパイプ(pipe)のような薪ストーブで最後の焼き上げを行ったからというもの。一度焼いたあとに薄ーく切って、もう一度焼きしめることでカリカリ、サクサクに仕上がるのもピパレッリの特徴であり、これこそがつい次々と食べてしまうヒミツなのです。昔からあるお菓子なので、その方が長持ちするからというのもあるでしょう。
このピパレッリはこのあたりのお菓子屋さんには欠かせない商品で一年中買うことができますが、特に冬にはこの独特の強いスパイシーな香りが恋しくなります。そのまま食べるのももちろんおいしいですし、「ヴィン・サント」や「マルヴァシア」といった甘いデザートワインに浸す大人っぽい食べ方もおしゃれです。
ピパレッリ(60~70枚分)【材料】
菓子用小麦粉(薄力粉) 500g
きび糖(または砂糖) 150g
ソイバター(またはバター、水素無添加マーガリン) 100g
アーモンド 200g
はちみつ 150g
卵 1個
重曹 ティースプーン2杯分
<スパイス>
オレンジの皮(おろしたもの) 1個分
シナモン ティースプーン1~2杯分
クローブ ティースプーン1~2杯分
バニラビーンズ 2さや
【作り方】
1. 小麦粉、きび糖、重曹をふるいにかける。スパイス、はちみつ、少量(大さじ1くらい)の水を加えてよく混ぜ合わせ、全体がまとまったら、少しずつソイバターを加えていく。最後に卵を加え、よくこねる。パンこね機などを利用するとラクです。
2. 生地がなめらかにまとまったらアーモンド加え、2~3分割にしてそれぞれをバゲット(長いパン)をちょっと上から押したような形にする。だいたい幅が7~8cm、高さ3cmくらいが目安です。
3. ベーキングシートを敷いた天板に乗せ、180℃のオーブンで30分ほど焼く(表面がしっかり固くなるまで)。
4. オーブンから取り出して粗熱がとれたら、できるだけ薄く、1cm以下の薄さに切る。0.5cmが目標ですが、実際には薄く切ろうとすると崩れてしまいます。
5. 切った断面を上にして天板に並べ、160℃のオーブンで20分ほど焼く。薄く切ったものは焦げてしまいやすいので、様子を見ながら適宜取り出してください。必要であれば裏返して両面まんべんなく焼き色をつけるのが好ましいです。しっかり焼くとかなり濃い茶色になりますがそれで正解です(焦がしてはいけません)。
南欧~アフリカ、中東の世界地図と歴史を体現するようなお菓子、ピパレッリ。見た目は素朴ながら、意外にも洗練された香りと味わいにみなさん驚かれるかもしれません。