サウナ室が木でできているワケ。フィンランド流のととのい方
湖の多いフィンランドでは、サウナ小屋は湖畔に建てるのが習わし。サウナでカラダを温め汗を流し、外に出て、風に当たったり湖に飛び込んだりして、火照ったカラダをゆっくりと冷ます。それを何度か繰り返していくと、やがて恍惚感が訪れます。自然と人間の距離を縮めてくれるもの、それがフィンランドのサウナだとタナカカツキさんは話します。
撮影/タナカカツキさんフィンランドのサウナでは、白樺の若葉を束ねたヴィヒタを用意し、体を叩くようにして使用します。そうすることで、血行促進、殺菌、肌の引き締めが期待できる上に、白樺のよい香りがサウナ室を満たします。さらに、自らロウリュをして湿度を上げ、体に感じる温度を自分好みに調整。蒸気とヴィヒタから放たれる森の香りのなかで、やがて深い瞑想状態に......。五感が回復し、浮遊するような感覚で、やみつきになるのだそう。
「香りは、ととのった状態を作るのにすごく効果があります。要はなぜ、サウナ室という“木の中”に入るのか。あれは木の香りのなかに入るということなんです。植物は、ちゃんとそこに水分があって、湿度があって、熱があるとすごく香るんですよね。その自然の状態を、サウナは再現しているわけです」(タナカカツキさん)
サウナは日本の居間みたいなもの。自宅にサウナも
フィンランドでも都市型の施設では“湖畔に建てる”というわけにはいきませんが、水をサウナストーンにかけて、蒸気を充満させるロウリュを行います。そして、日本のサウナ事情と大きく違うのはその「数」。地方でも都市でも3~4人にひとりは自宅にサウナを持っています。
「フィンランドのサウナは、日本の居間みたいなもの。実家に帰ると必ず居間がある、あんな感じです。ハレとケでいうとハレの場で、神聖なイメージもある。居間におひな様を飾ったりするような感覚で、ヴィヒタで邪気を払ったり、ちょっとお祈りしたり……メンタル面の役割が強いんです」(タナカカツキさん)
撮影/タナカカツキさん日本のサウナ室にはよくテレビがありますが、フィンランドでは小さな明かり取りの小窓があるだけ。まぶしすぎる照明もなく、ただ静かな時間を愉しみます。リラクゼーションでもあり、メディテーションでもある、それがフィンランドのサウナなのです。
最近は日本でも、こうした“サウナの本質”を取り入れた施設が増えてきたそう。日本ではなかなか手に入らないヴィヒタが置いてあるところは、サウナ愛あふれる優良施設である可能性が大。ヴィヒタはなくても、アロマ水のロウリュで自然の香りを演出してくれる施設もあります。
水温0℃の湖に入って……強烈だったフィンランドサウナ初体験
サウナエッセイ『サ道』を出版したことがきっかけで、2013年に「日本サウナ・スパ協会」からサウナ大使に任命されたタナカカツキさん。最初の大きなミッションは、フィンランド北部ラップランドへの出張でした。記念すべき本場のサウナ初体験は、じつは「つらいの一言」だったそう。
撮影/タナカカツキさん「水温0℃の湖に入って、マイナス20℃のなかで外気浴をしましたからね。ほんと、何かあったらどうしようかと思って。水風呂の素晴らしさをあんなに説いているのに、サウナ大使が本場のサウナで命を……なんて大問題じゃないですか」(タナカカツキさん)
サウナの水風呂といえば、日本では18℃~14℃あたりが一般的。それが水温0℃なんて、想像しただけで凍えそうです。
「でもこれが、意外と入れるんですよ。カラダもサウナで温まっているし。で、入っちゃうとちょっと余裕が生まれて。あと、ここまでやれたという安堵と達成感で、ちょっともうととのいだすんですよ。それで『大使こっち向いて』なんて写真も撮られるから、調子にのってイエーイってやってたら、水がやっぱり0℃なので……上がろうとしたらカラダが動かないんですよね。筋肉がもう、膠着。自分の体重を支えられないんですよ、重力がすごくて。で、どんどんドキドキしてきて、怖くて怖くて、階段の手すりをガシッと握ったらそこが凍って、手がくっついて、もうビリビリって。ホント最悪ですよね。二度とやりたくない、そんな感じでしたね」(タナカカツキさん)
日本はサウナ先進国。欧米でも流行の兆し
過酷な体験のあとは、世界のサウナ界のトップが集う懇親会に参加。生演奏に合わせて社交ダンスが自然にはじまったり、セレブな雰囲気に驚いたそうです。
サウナ大使の仕事としては、このほか毎年開かれる国際サウナ会議への出席もあります。フィンランドの国際サウナ協会が主催する会議で、自国のサウナの現状や、サウナの健康効果についての大学や研究機関の発表が行われるとのこと。
「サウナは健康にいいといわれますが、まだ分からないことだらけなので、いろいろな研究がなされているんですよ。会議には世界中から人が集まります。ヨーロッパ諸国はもちろん、最近ではニューヨークとロンドンの都市部でサウナが流行りだしています。本場フィンランドでも若者を中心におしゃれなサウナが流行っています。日本もサウナ先進国といっていいと思いますね」(タナカカツキさん)
日本のサウナも日々進化中!
image via shutterstockサウナ会議は日本国内でも開催されており、外国人観光客が増えているなかで、ファッションタトゥーをしている人をどう受け入れるか、といった問題が議論されているそう。男性専用の施設が多く、女性が入れる場所が限られるなど、議論される話題はたくさんあります。
「もっとみんなが手軽に、気楽にサウナに入れるようになったらいいですよね。おっさん、汗、ガマンみたいなイメージを払しょくして、サウナ=女性が美しくなれる場所と思ってもらえたら。サウナのことを知れば知るほど、女性が好きになる要素が多いんですよ。ヨーロッパでは『水と熱だけのオーガニックコスメ』と言われているくらいです」(タナカカツキさん)
老舗の大磯プリンスホテルに「THERMAL SPA S.WAVE」というスパ施設ができたり、スパ・ラクーアが大改装し、新たに本格的フィンランド式サウナが登場するなど、日本のサウナブームの証左はあちこちに。
2015年から毎年、長野県でおこなわれる「日本サウナ祭り」は、2016年にはじめて一般参加を募ったところ、あっという間にチケットが完売。テントの中でストーブを焚き、屋外で楽しむテントサウナも、キャンプの新しい楽しみ方として注目を集めています。
「サウナで仕事」が流行る?
image via shutterstockタナカカツキさんは、サウナで仕事する“ワーキングスタイル”がもっと広まると予測しているとのこと。
「私の行きつけのスカイスパYOKOHAMAも、この秋ワークスペースを充実させる方向にリニューアルするんですよ。私自身、だいたい昼からサウナ施設にいて、オフィスのように使っています。今日もこうしてスカイスパYOKOHAMAでお話していますが、これで取材2本目。1日3本くらい、楽しくおしゃべりさせていただくことが多いですね。ここはフリーWi-Fiですし電源もすぐにとれますから、仕事をするにはぴったり。こういう使い方をする人はどんどん増えていくと思います」(タナカカツキさん)
リラックスできて、きれいになれて、仕事まではかどるなんて! 日本のサウナの目覚ましい進歩から、ますます目が離せなくなりそうです。
※サウナに入るときは、くれぐれも無理なく安全に。
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タナカカツキさん(マンガ家)
1966年大阪うまれ。1985年大学在学中にマンガ家としてデビュー。著書には『オッス!トン子ちゃん』、天久聖一との共著『バカドリル』などがある。 その他、映像作品も多数手がけ、アーティストとして幅広いジャンルで活躍。サウナを題材にしたマンガ&エッセイ『サ道』でサウナブームの火付け役となる。日本サウナ・スパ協会が公式に任命した、サウナ・水風呂の素晴らしさを世に知らしめる広報大使「サウナ大使」としても活躍中。最新作は『はじめてのサウナ』(リトルモア)。
撮影(タナカカツキさん)/中山実華、取材・文/田邉愛理、企画・構成/寺田佳織(マイロハス編集部)