年末の忘年会、お正月、冠婚葬祭、新年会……日本人の文化にアルコールは広く深く根づいています。しかし、アルコールは強力な依存性をもつ薬物。習慣的に使用していれば、誰でも「アルコール依存症」になるリスクがあるのです。
アルコール依存症の専門医である倉持 穣先生にうかがう、アルコール依存症の基礎知識。依存症度のチェック方法をお伝えした前編に続き、後編ではアルコール依存症になりやすい性格の特徴や、女性の依存症患者が増えている理由についてお聞きしていきます。
アルコール依存症になりやすい性格がある
images via shutterstockかつて「アル中」という蔑称で呼ばれたように、アルコール依存症には特有のイメージがあります。しかし現代において、アルコール依存症は多様化の一途をたどっていると倉持先生は話します。
倉持穣 :
暴力をふるったり借金をしたりする「暴れん坊タイプ」はいまや少数派。内科・外科疾患が表に出る人たちや、うつ病などの精神疾患を合併する人など、「おとなしいアルコール依存症患者」が増えています。性格的には、下記のようなタイプはアルコール依存症になりやすいといえます。
アルコール依存症になりやすい性格
ストレスをためこみやすい人 他者に対して、弱音や愚痴を言えない人 他者に気を遣いすぎる人 他者に対して「いい顔」をしてしまう人 他者に対して「No」と言えない人 他者から嫌われることを怖れる人 環境に対して「過剰適応」傾向の人 几帳面で、完全主義の人 仕事を「いい加減に終わらす」ということができない人 不安が強く、心配性の人 物事を悲観的に考えやすい人(ネガティブ思考) 「こうしなければならない」と考えやすい人(すべき思考) 物事にのめり込みやすい人(過集中傾向/熱中性) リラックスすることやのんびりすることが下手な人 せっかちな人 眠るのが下手な人「いい子」神話に縛られている
images via shutterstock女性のライフスタイルの変化にともない、女性のアルコール依存症患者が急増していることも見逃せません。
倉持穣 :
2003年に行われた厚労省の全国調査によると、女性の患者数は8万人でしたが、10年後の2013年には13万人と、約1.6倍に増えています。増加率は男性を上回っており、将来的には女性が男性を上回る可能性もあります。
女性の社会進出は進んでいますが、社会的サポート体制は充分ではなく、仕事、家事、子育て、介護と、負担が集中しやすい状況にあります。こうしたストレスが、過剰な飲酒の背景にあるのでしょう。
倉持先生いわく、女性のアルコール依存症患者は「いい子」「いい人」であろうと努力してきた人が多いそう。
倉持 穣 :
親の期待に応えられる「優秀な娘」、「いい子」でなければならない。社会から認められる「有能な人」でなければならない。みんなから好かれる「いい人」でなければならない。しっかり者の「いい妻」「いい嫁」「いい母親」でなければならない……。こうした「いい子」神話に縛られているのかもしれません。
アルコール依存症にならないためには、ストレスをためこまず、他者に相談できるようになることが大切。「ときには嫌われても仕方ない」と思えるように、いい意味で「いい加減さ」「適当さ」を持てるようになるといいですね。
「減酒外来」に通う患者が増えている
images via shutterstock倉持先生によると、女性は男性とくらべて、より少量の飲酒量でアルコール依存症や肝硬変、慢性膵炎になりやすいとのこと。また男性の場合、長い期間をかけてアルコール依存症になる人が多いのに対し、女性はライフイベント上の変化をきっかけとして、短期間(1年~5年)でアルコール依存症を発症する傾向があるといいます。
倉持 穣 :
もしも「自分はアルコール依存症かもしれない」と感じたら、ぜひ医師に相談してください。アルコール依存症は性格的な問題であり、治らないという先入観がある人が多いのですが、アルコール依存症は回復可能な疾患です。
断酒したいけれど入院は難しいという人は、外来で治療することもできます。また、断酒ではなく「減酒外来」という形で、アルコール摂取量を減らしながら治療する人も増えています。
現在、倉持先生のクリニックでは通院患者の3分の1が「減酒外来」で治療をしているそう。アルコール依存症を正しく理解し、減酒日記やアプリを利用するだけでも、病状が改善することがあると話します。
倉持 穣 :
2019年3月には、日本初のアルコール依存症に対する飲酒量低減薬・セリンクロ(一般名:ナルメフェン)が発売されました。アルコール依存症患者に対して、医療ができることはたくさんあります。治療により回復していく患者が数多くいることを、ひとりでも多くの方に知ってほしいと願っています。
アルコール依存症にならないために
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倉持穣(くらもち じょう)先生
さくらの木クリニック秋葉原 院長。茨城県水戸市出身。精神科医。1988年、東北大学医学部卒業。東京医科歯科大学精神科、東京都立広尾病院神経科、東京都教職員互助会三楽病院精神神経科(医長)、柏水会初石病院(医局長)などに勤務。2014年、さくらの木クリニック秋葉原を開院。同院院長。精神保健指定医、精神科専門医、精神科指導医、日本医師会認定産業医。専門は、一般臨床精神医学、アルコール精神医学。著書に『クリニックで診るアルコール依存症 減酒外来・断酒外来』(星和書店)がある。