──ライフハッカー[日本版]より転載
筆者はポートランド南東部のオフィスで働いています。窓の外を見ると、レンガ造りのビルと緑豊かな森、その上には灰色の空が広がっています。
そう、米国西海岸北部は、11月ごろから4月ごろの約半年は雨季なのです。幸い私は、カンフーとヨガさえできれば雨も寒さも好きなので、この季節が嫌いではありません。ストライプのセーターを着て、サイダーを飲むのが大好きです。
世の多くの人は、太陽が降り注ぐ春を待ちわびています。でも、その季節が来ると私の気分は急降下。
まぶしさに目がくらみ、人混みに圧倒され、気がつくと意味もなく泣いていることがあるほどです。寝つきも悪くなり、基本的な生活すら危うくなります。
ファーマーズマーケットとか、屋外で映画とか、本当に勘弁。ひたすら地下室にこもって、お気に入りのドラマを見てやり過ごすしかありません。
特定の季節に気持ちが落ち込むのはなぜ?
image via shutterstock私の心に、いったい何が起きているのでしょう? この悲しみや落ち込みが冬に訪れるなら、SAD(季節性情動障害)と自己診断もできるでしょう。
精神科医で、Mindful Medicineの創業者でもあるMichael Barness医学博士はこう言います。
一部の人は、特定の季節に悲しみを繰り返すような大うつ病性障害を示すことがわかっています。興味深いことに、アラスカに住む人の9から10%がSADの影響を受けるのに対し、赤道が近づくとその割合は1%ほどに下がります。
精神科医のバイブルとされるDSM(精神疾患の分類と診断の手引き)の最新版では、SADが大うつ病性障害のひとつに分類されています。
うつに苦しむ人の中には、毎年決まった季節に悲しみが増す傾向がある人がいるということです。
SAD(冬の悲しみ・うつ)の症状
image via shutterstock冒頭に記したポートランドの空の描写を読んで疲労や不安を感じた人は、昔ながらのSADの可能性があります。コロンビア大学で教鞭をとる神経心理学者のSanam Hafeez博士はこう言います。
冬のSADを持つ人は、冬の間中よく眠りよく食べる傾向があります。彼らは事実上、「冬眠」していると言えるでしょう。
その他の症状としては、常に悲しい・集中できない・体重が増える・疲労が抜けない・意欲がわかないなどがあります。この種の気分障害はメディアで大きく取り上げられており、Barness医師は、対症療法のほかにトークセラピーや薬物療法を併用して治療に当たっているといいます。
逆SAD(夏の悲しみ・うつ)の症状
image via shutterstockでは、夏の悲しみやうつ、つまり「逆SAD」の場合はどうでしょう? Hafeez博士曰く、逆SADの症状は、SADのそれとは反対であることが多いそうです。
夏のSADを持つ人は、不眠、食欲低下、減量の傾向があります。不活性というよりは、活発になることが多いのです。自殺願望も高まります。
不眠の影響で、洗濯や皿洗いといった日常のシンプルなタスクすらこなすことが困難になるケースもあります。中には、明るすぎるせいで自分の睡眠時間が奪われているという感覚に襲われる人もいます。
つまり、夏のSADが興奮状態をもたらす一方で、冬のSADはエネルギー低下をもたらすと考えられています。Hafeez博士によると、SAD患者の3分の2に大うつ病性障害を持つ親戚がいることがわかっており、遺伝性が指摘されているそうです。
SADの原因は?
image via shutterstockBarness医師によると、まだ研究段階ではあるものの、神経伝達物質セロトニンの量のバランスが崩れた結果ではないかと考えられています。
セロトニンの量を増やすと、うつや不安が軽減することがわかっています。
メラトニンシステムも、うつにおける重要な役割を果たしているとBarness医師は述べています。松果体(※)で分泌されるメラトニンは、身体の概日リズムを調整しています。Hafeez医師はこう解説します。
季節の変化に伴い、脳の生理機能は冬モードから温かい春の気候に順応しようとします。SADのある人は、その季節の移行時に問題が起こりやすいのです。
おもしろいことに、夏のSADも冬のSADも、夏が比較的暖かいエリアで起こりやすいと言われています。つまり、米国南部に住む人は、北部に住む人よりも夏のSADになりやすく、その逆もしかりということです。※松果体:脳にある内分泌器。セロトニン、メラトニンを分泌する。
医師に診てもらうタイミング・自分でできる対処法は?
image via Shutterstock「もしかしてSADかも」と思ったら、迷わずお医者さんに相談しましょう。SADは恥ずかしいことではありません。
他の気分障害と同様、専門家の支援で大幅な改善が可能です。いつだって、すぐに専門家に診てもらうことがベストなのです。
軽度(かつ衰弱性でない)SADだと思われる場合で、すぐに受診が難しいのであれば、根底にあるうつ症状への対処を心がけましょう。
秋・冬のSADへの対処法
image via shutterstock秋や冬のSADなら、概日リズムを整えてよく眠るために、メラトニンを調節する光への定期的な暴露が、一般的によいとされています。Barness医師は、まず患者の睡眠パターンを整えてから、食事や運動について尋ねることにしているそうです。
食事と運動は、直感的なものです。何を食べているのか? 酒を飲みすぎていないか? その他、何かが起こっていないか?
あまりにも自明すぎて気づかないこともあります。毎日のワイン2本が、季節性うつにとっていいはずがありません。
落ち込みがちな秋から冬にかけて生活の質を向上させるには、定期的な運動、健康的な食生活、十分な睡眠、スクリーンタイムの抑制、他者との活発な交流がすべてなのです。
夏のSADへの対処法
image via Shutterstock一方、夏の間の生活の質を向上させるには、暑い時間帯は家にいる、シャワー・水泳・エアコンなどでクールダウンする、昼寝をする、敢えて忙しくするなどの方法があるとHafeez医師は言います。夏、とりわけ週末は「FOMO」(自分だけ取り残される恐怖)を経験する人が多く、これが不安やうつを強める原因となります。冬と同じように、孤独にならないように気をつけ、自分にやさしくすることが大切です。
職場では居心地のよい環境づくりを
image via shutterstock職場でSADに対処しなければならないのも、厳しい状況でしょう。上で紹介した対策を実施したうえで、居心地のよい環境づくりに努めてください。
窓の近くの席で太陽がまぶしいなら、ブラインドを下ろしましょう。夏は明るさを抑える、冬は明るくすることが原則です。
うつが最も強まる季節には医師に薬物療法を相談し、季節の終わりには徐々に減らしてゆくようにしてください。暑さが苦手なのであれば、小型の扇風機を持ち歩きましょう。時間とお金が許すなら、休みを取って悪影響の少ない土地に旅立つことをおすすめします。
夏の明るい青空が苦手な人はあなただけではありません。SADは年間を通して起こりうるのです。筆者もサングラスを用意して、次の夏を乗り切ろうと思います。
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