梅仕事ブームを牽引した名著がリニューアル
著者の飛田和緒さん初版が2008年に発売され、梅仕事ブームの先鞭をつけた『保存食手帖』。その後、2016年に読者からの質問を細かく反映した「新版」が登場し、さらに5年を経て「大幅改訂版」としてリニューアルされたのが本書です。
今、コロナ禍により家で過ごす時間が増えたことで、「保存食を作ってみよう」と考える人が増えているとのこと。しかし本書で「手をかけただけ、おいしさがやってくる」と飛田さんが語る通り、保存食を上手に作るためには経験が必要です。
この時季、ぜひ挑戦したい梅仕事。初版を刊行した飛田さんのもとには、「梅を塩で漬けたけれど、なかなか天気にならずに干せないので困っている」「梅に穴をあけるとあるが、いくつくらいあければいいのか」など、読者からのさまざまな問い合わせが寄せられたといいます。
この本を手に取り、レシピとにらめっこしながら梅に向き合ったけれど、どうも本のとおりにいかず、困り果てての問い合わせだったと思います。なかには今すぐ返事をもらわないと困るという切羽詰まったものもありました。お答えできたときには、あきらめて梅を捨ててしまった方もいて、もう少し早く答えられればと何度ため息をついたことか。
(『季節を味わう 保存食手帖』157ページより引用)
そこで飛田さんは、レシピを見直し、質問があったところはさらにわかりやすく、ためてきた小さな工夫を盛り込んで「新版」を刊行。
本書ではさらなる試行錯が盛り込まれ、「うなってしまうほどの圧巻の味」というアンチョビーをはじめとする新たな保存食や、保存食を使ったアレンジレシピのページを充実させた決定版となっています。
長年の経験と「読者からの質問」が作り上げた一冊
本書では「あんずジャム」のほか、「らっきょう漬け」「いくらのしょうゆ漬け」「みそ」などの保存食も紹介されている。本書を読んでまず驚いたのは、保存食作りのファーストステップである「煮沸」や「脱気」についての解説のくわしさです。
手作りジャムを作ったのはいいけれど、意外とすぐに傷んでしまい、がっかりしたことがある私。いつも「これでいのかな」と不安になりつつ作業をしていたのですが、今までのモヤモヤが解消されてすっきりしました。
煮沸消毒したビンにできたての熱いジャムを入れておこなう「脱気」は、ビンから中の空気を追い出すことで、保存食の長期保存を可能にする方法です。ビンを鍋に入れ、ふたの2cm下くらいまで水を注いで沸騰させ、弱火で15分ほど煮ることで、ビンの中の空気を抜いていきます。
脱気がうまくいったか見分ける方法はふたの真ん中あたり。ここがペコリと凹んでいたら、空気が抜けた証拠です。逆に保存中にふたがふくらむことがあれば、空気が入った可能性がありますので、すぐに開けて確認を。
(『季節を味わう 保存食手帖』10ページより引用)
ビンを煮沸したあとはふたがゆるむので、やけどしないようにふきんなどを使い、熱いうちにふたを締め直して・・・・・・等々、「転ばぬ先の杖」とばかりに失敗しやすいポイントが網羅されています。本書が保存食レシピの名著といわれるのは、保存食を作り続けて25年という飛田さんの経験と、初版から13年間寄せられ続けた「読者からの質問」がひとつになった本だから。美しい写真のおかげで食材の変化の様子もよくわかるので、不安にならずに完成までの時間を楽しめそうです。
素材の旬を追い、つくり続けることで見えるもの
青梅を使った「梅酒」や「梅シロップ」の作り方も紹介。毎年旬を追って季節の野菜や果物で保存食をつくり続けていると、でき上がった姿はそう変わらないのに、私のなかでは常に新しい発見があるのです。私自身もこの本をとても頼りにしていて、まず本を開いて昨年のメモを読み返したりしながら、素材の入荷状況を確認したり、注文したりして、作業に入ります。いつもそばにいてくれるわけではないけれど、素材が旬を迎える、そのときどきにすっと寄り添ってくれる本になりました。
(『季節を味わう 保存食手帖』158ページより引用)
飛田さんの言葉通り、レシピの横に罫線が引かれた「メモ」のスペースがあり、自分で書き込めるというのも本書の工夫。ちょっと失敗したり、予想以上にうまくできたりしたときの覚え書きを書き留めながら、ずっと手元で大切にしていきたいと思っています。
日常を豊かにする手仕事
約40分で仕込める。買うよりおいしいと話題の「手作り味噌」を作ってみた
1,650円
写真/『季節を味わう 保存食手帖』より(扶桑社提供)、Photo by Getty Images(1枚目)