前編では若井さんにフローリストになった経緯や、私らしく気持ちよく生きるために心がけていることについて聞きました。
独立の道を開いてくれたフラワーショップとの出合い
若井さんは20代半ばまで、地元・北海道でフリーターをしていたと言います。
「アルバイトをいくつか掛け持ちしていて、花屋はそのひとつでした。地元にいるころ、お花の専門誌を見ては、都内の花屋さんに憧れていました。そんな気持ちで、職場も決まっていなかったのに友人を頼ってとりあえず上京。大事なことを決めるときは、いつもそんな感じです(笑)」
と、はにかみながら答える若井さん。上京後、最初に勤めたのは支店を数店展開する、中規模のフラワーショップでした。
「当時は仕事うんぬんよりも、東京に慣れるのが苦痛で……(笑)。環境に馴染むことと、仕事をこなすことで、本当にいっぱいいっぱいでした」
若井さんは、仕事をしながらも「自分はどうなりたいのか」を模索する日々を過ごします。そんなとき、「ここで働きたい」という店との出合いがありました。
「中目黒の『farver(ファーバー)』というお店です。月に一度、店を手伝いながら求人が出るのを待ち、その後、約3年勤めました。オーナーは熱い人で、私たち従業員が独立できるように、学ぶ機会をしっかり与えてくれた恩人です。あの店で働いてなければ、今のわたしはいないと思います」
可愛がってくれる人に、お花を届けたい
その後、「farver」で学んだノウハウを活かして、念願の自店「duft」を立ち上げます。
「今思うと、若さゆえの『自分にも何かができる』という気持ちを、ずっと持ち続けていたのだと思います。理由なく、自分の店を持ちたいという気持ちで開業しました」
「duft」をどういう店にしたいか、自分はどうなりたいかが分からず、「1年目は、迷走していた」と、若井さんは振り返ります。
「お客さまに対しては、“こう接したい”という理想がありました。でも、『うちのお店の強みってなんだろう』と“duftらしさ”をずっと考えていて……。あのころは、自分で自分を追い詰めていたような気もしています」
現在、独立して6年目。心境に変化はあったのでしょうか?
「『カッコいい言葉で“duftらしさ”を掲げなくちゃ』と思っていたけれど、花屋として大切にしている“当たり前のこと”をお店のコンセプトにすればいいのかなと思えるようになりました。今は、ご自身のためにお花を買う方が増えることを願って、日々、お花の提案やセレクトをしています。可愛がってくれる人に、お花を届けたい。それが、いちばんの希望ですね」
大自然と温泉で自分を解放
「自分の心に正直に、私らしく、気持ちよく生きること」コツは?と聞くと、若井さんは、こんなふうに答えてくれました。
「私の気持ちよく生きる秘訣は、自然豊かな場所や温泉に行くこと。北海道にいたころは自然のありがたさに気づけなかったんですが、都内に出てきたら、自然と欲するようになりました。緑生い茂る場所で深呼吸をするだけで、気分がよくなります。温泉は箱根の『かよい湯治 一休』がお気に入り。大自然を眺めながら広いお風呂に浸かると、疲れが吹き飛びます」
また、若井さんは自分らしくいるために、自らに言い聞かせている“言葉”があるのだそう。
「人に任せるのが苦手なので、頑張りすぎてしまうんです。そうすると、眠れなくなったり、体調を崩したりしてしまう。だから、『頑張らない』と自分に言い聞かせています。お店のこと、自分のこと、バランスを取るのは難しいですが、できることだけやろう。そう決めてから、少し楽になれたような気がします」
*後編は6月27日公開予定。日々のリラックス方法や、お花を長持ちさせるコツについて伺います。
あの人の、気持ちのよい生き方って?
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若井ちえみ(わかい・ちえみ)
フローリスト。2016年5月、東京世田谷区、松陰神社前にフラワーショップ「duft」(ドゥフト)をオープン。店舗やイベントのディスプレイや撮影のスタイリングなどでも活躍する一方、店舗に訪れるお客様と一人ひとりと真摯に向き合い、丁寧なお花のある暮らしを提案している。ブーケ、アレンジメントの配送も好評(https://duft.jp/information/)。
撮影/小禄慎一郎