周りの人をがっかりさせないように、つい「大丈夫なふり」をしてしまう──そんな人に宛てた手紙のような一冊が、韓国で、そして日本で重版を繰り返しています。
『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(ダイヤモンド社)は、あの韓国の人気音楽グループ「BTS」おすすめの作家としても話題のクルベウさんの初の日本語翻訳本。自分のペースで健やかに生きるヒントがつまった本書から、ひとりでつらいときや、やる気が出ないときの支えとなる言葉をご紹介します。
「大丈夫なふり」をしたことがあるすべての人へ
「痛みを認めることは、痛みと向き合うベストな方法だ。」(本書61ページより)1988年に韓国で生まれ、高校生までテコンドーの選手を目指していたというクルベウさん。椎間板ヘルニアが原因で夢を断念し、20代はファッションECサイトを運営するも事業に失敗。自分を癒やすためにSNSに投稿していた言葉が多くの人の目に止まり、SNSの投稿をまとめた著書『心配しないで』(日本語未翻訳)で作家デビューしました。
誰もが悩みながらも人には言えない、ぼんやりとした不安を言語化してくれるのが著者の魅力。「つらくても声に出せないあなたへ」と題された本書の冒頭では、「大丈夫なふり」をしてしまう人への言葉が綴られています。
心のよりどころがない人はよく大丈夫なふりをする。
自分が倒れても、
抱き起こしてくれる人なんていないと思うから。つらくてもつらくないかのように。
悲しくても悲しくないかのように。
大変でも大変じゃないかのように。
そして自分で自分を苦しめる。(『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』4~5ページより引用)
大丈夫なふりをしてしまう人には、「支えとなる場所」が必要だと語る著者。韓国は日本以上の競争社会と言われますが、「BTS」や“国民の妹”と呼ばれるアーティストの「IU」など芸能界のトップランナーに著者のファンが多いのは、著者の言葉に現代の「生きづらさ」を癒やす力があるからなのかもしれません。
無気力になるのは「無意味な時間」じゃない
「これからも颯爽と進み続けてください。明るく輝くその日に向かって。」(本書140ページより)クルベウさんは2017年から、リュックを背負って韓国全土を回り、人々の悩みを聞く「セボム・プロジェクト」を行っているそう。本書も公務員試験予備校の講師、娘の悩みを聞く母親、一代で財をなした人など、さまざまな立場の人が自分の人生経験を語るような構成になっていて、抑制された言葉の陰に、体を張った取材の臨場感を感じます。
「やる気がどうしても出ないとき」と題されたエッセイは、母親が娘に話しかけるというスタイルで書かれたエピソード。やる気を失ってしまった娘に、母親は「人生は長いから、今日1日くらい無気力でも大丈夫」と語りかけます。
毎日を生きる中で無気力になったのだとしたら、
それはたぶんあなたが持てる力のすべてを使ったということよ。たとえば何かに必死で挑戦したのにうまくいかなかったり、
努力しても恋が実らなかったり、
一生懸命悩んでも解決しなかったり。
そんなふうにありったけの力を使ったあとは
新しい力を出すための時間が必要だから、
立ち止まって考えることができるように無気力さがやってくるの。(『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』24ページより引用)
うまくやらなければ、という気持ちにとらわれると、多くのことを一気に解決しようとしてしまう。そんなときは目標を減らして、うまくやろうと思わずに肩の力を抜くと、できることが見えてくる……と母親は言葉を続けます。
自分のスピードを見つけてほしい。
やる気が出ないなら、
今はちょっとスピードを落とせばいいの。
心配しすぎたり、不安になったりしなくていい。
今日は無気力でも大丈夫。(『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』26ページより引用)
見知らぬ誰かの話を読んでいるのに、「この人は私の本心を知っている」と思わせてくれる心地よさ。『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』というタイトルを見て「これは私のことだ」と感じた人は、ぜひ本書を手にとってみてください。
1,430円
イラスト/福田利之