料理家・松本日奈さんが、台所を中心にまわる日常や「おいしい」に関わるモノやコト、台所仕事の負担を軽くして楽しいものにかえる“ひと工夫”をつづる連載「テーブルに ひと工夫」。

今回は、日奈さんが自身の“台所作り”について語ってくれました。

毎日の小さな“おいしい”が生まれる場所

蒸籠や鍋などが並ぶ造作棚。連載4回目でお気に入りの調理道具として紹介した「STAUB ラ ココット de GOHAN」もここに。

私は家にいるとき、そのほとんどを台所で過ごします。

台所は、毎日の小さな“おいしい”が生まれる場所。その日の疲れを癒やし、次の日のエネルギーになるような穏やかな食事は、居心地よい台所から生まれると思っています。

そんな台所で呼吸をするようにリズミカルに、おもしろがりながら食事を作るのが私の理想です。

道具や調味料の“スタメン”は、それぞれに定位置を決めて、使いたいときは意識せずとも手が伸びるような仕組みづくりを。

よく「うちの台所は狭いから……」などという声を聞くことがありますが、台所の快適さは広さに比例しないと思っています。

私にとって心地よい台所とは、手の延長のような台所。使いやすいお気に入りの道具や調味料が、手を伸ばせば届くところにあり、意識せずに元の場所に戻せて、料理の音や香り、味のことだけ気にかけていられるような空間です。

生活リズムに沿って、日々料理をする

作業がひとつ済んだら汚れや水気を拭き、鍋の様子を見ながらコンロまわりを拭き……。生徒さんに「いつもふきんで拭いてますよね」と言われて、無意識にやっていることに気づきました(笑)。

毎日の献立は、まず自分が食べたいと思うものを考えます。そして「どんなふうに切ると食べやすいかな」「今日は暑かったからいつもよりあっさりの味付けがいいかな」などと食べる人を思い、そのときの素材の状態をよく見て、使い慣れた道具で支度して、テーブルに並べます。

「ああ、今日もおいしかった」「こういうのが食べたい気分だったんだよね」と、私の料理に飽きずにつきあってくれる家族の声が、自分を受け入れてくれたような気分にもしてくれて、心で「よしっ」とガッツポーズをするのです。

3月のお料理教室にて。「さっそく夕食に作ってみた」という生徒さんもいて、小さな“おいしい”の広がりをうれしく感じました。

長かった次女の受験のあれこれが落ち着き、次女も私たち家族も互いを労い、ほっとひと息ついています。

これまで家事の手伝いをほとんどしなかった次女は、余裕ができたのか、みずから淡々と朝ごはんの支度をしてくれるようになりました。何だかうれしい。

自分と家族の生活リズムに沿って日々料理をする。それは懐が深く、いきいきと命を育てる行為。どうか毎日のごはんが穏やかに続きますように。

松本日奈(まつもと・ひな)
料理家。北イタリア留学中に現地の料理人やマンマから料理を学ぶ。オリーブオイルや白バルサミコなどの調味料を使い、シンプルで素材を生かした家庭料理を提案。レシピ開発やケータリング、ひな弁と活動の幅を広げる。自宅などで開催する料理教室は毎回キャンセル待ちになるほどの人気ぶり。目黒区鷹番にある食材店「ラ・プティット・エピスリー」を営む夫、ふたりの娘、愛犬と暮らす。インスタグラム

写真・文/松本日奈

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