仕事からその人が見つけた大切なモノを探る「大和撫子の生き方クローゼット」第4回。
好きなこと、やりたいことを仕事に、というのは憧れの働き方のひとつ。でも、本当にやりたいことを見つけることも、それを実際に行動に起こすことも簡単ではありません。
29歳でエシカルジュエリーブランド「EARTHRISE(アースライズ)」を立ち上げた小幡星子(おばた しょうこ)さん(31)は、その行動を起こしたひとり。「早く自分の道を見つけたかった」と話す小幡さんも、現在の仕事にたどり着くまでには、少し時間がかかったようです。
人の役に立つ人生を歩みたい
「原点は幼い頃、お年玉の半分を寄付し始めたところにあったように思います。『あなたが苦労せずにもらったお金で、同じくらいの歳の子どもたちが命をつなぎ、学校に通えるんだよ』との母の言葉に、子供ならではの純粋な気持ちで寄付を始めました。両親は、どうやったらお金の使い方や、思いやりの精神を教えられるかを、いろいろ考えてくれていたのだと思います。」
寄付やボランティアを身近に感じて育った小幡さん。では、将来の夢を意識するようになったのは、いつ頃でしたか?
「小学校高学年の頃、国連で活躍している緒方貞子さんの姿をテレビで見て、人の役に立つ人生を歩めたら楽しいだろうなと、子供ながらに思うようになりました。大学を選ぶ際、国連や外務省といった大きな組織に入れば、世界の平和のために働けるのではないかと思い、国際関係の学部を専攻しました」
学べば学ぶほどわからなくなった大学時代
大学での勉強は、有意義なものでしたか?
「学ぶことはとても面白かったのですが、勉強すればするほど、ひとりでは何もできないと感じてしまって。すごく大変な思いをして生きている人もいるのに、何をしたらいいかわからず、先生に何度も相談しました。
『まずは身近なことからやってみればいい、友達と話し合うのも大事』という先生の言葉で少し気が楽になったのを覚えています」
ボランティアで出会った途上国の友人から言われた言葉に、小幡さんはハッとしたと言います。
「『先進国の人は、なぜモノをくれたり、お金をくれたりするの? 私たちはそんなものは欲しくない。同じ人間なのに。私たちは公平なビジネスチャンスがほしい』その言葉で、自分が今までしてきた寄付などの行為は、自尊心を満たしていただけではないかと恥ずかしくなりました」
興味の赴くままに動いてたどり着いた「対等な関係」
大学卒業後、さまざまなことを学びたかった小幡さんは、一般企業へ就職し、空いている時間でインテリアやカラーコーディネート、建築関係など、好奇心の赴くままに学んだそう。
「でも、何かが違うと感じていました。あるとき、ジャズライブを観に行くと、ミュージシャンは観に来ている人たちの反応を見ながら楽しさを提供し、観客はそれを楽しみ、喜んでお金を払う光景に出会いました。これが対等な関係が生み出すプラスのスパイラルだと感じたんです。
帰り道、わたしにとって楽しみながら幸せな気持ちにもなれるものはなんだろうと考えて......やっぱりジュエリーだと確信しました」
祖母の形見で感じたジュエリーの深さ
やっぱり、というと、以前にもジュエリーに携わりたいと思ったことがあったのですか?
「はい。中学生の頃、祖母が亡くなったときに、形見の婚約指輪を受け継いだのですが、ダイヤモンドは輝いていないし、傷だらけで、心が弾まなかったんです。でも、祖母が死ぬまでつけていた、と聞いたときに、ジュエリーは輝くだけじゃなくて、その人の人生を語っているのだと感じました。
祖母を知る術は、指輪と写真くらいしかなかったのですが、そのエピソードだけで人となりが伝わってくる。ジュエリーってすごく深いなと思いました。
絵を描くのも好きだったし、デザインしたものが形になるのっていいなとも思っていたので、ジュエリーデザイナーになりたいな、と思っていたんです」
そこでジュエリーデザイナーを目指さなかったのはなぜですか?
「当時母にそのことを話したところ、『ばっかじゃないの?』と一蹴されました(笑)。デザイナーは特別な才能のある人じゃないとやっていけない仕事。現実を見なさいと。
改めてジュエリーデザイナーを目指すと決めた時も最初は反対されましたが、覚悟を決めて、わたしは一生やりたいものを見つけたんだと説明し、スタートさせました。それでも、当初は甘えていないで現実を見なさい、と言われていましたね」
無駄に思えることも振り返ればすべてが一本につながる
いまでは、スリランカ、ミャンマー、パキスタンなど10か国以上の国々とのつながりを持ち、エシカルジュエリーを生み出している小幡さん。
ストレス解消法を訪ねた際も「好きなことをやっているので、大変なことがあっても気持ちが切り替わります。いいものに囲まれていると嫌な気持ちにならないんです」との答えが。
アースライズのジュエリー
左)SHO 晶・シャンデリア ピアス
右)ラブ&ハート ハートフル・ピンクフレッシュウォーターパール ネックレス
小幡さんのように打ち込めるものを探しているけれど、見つからない人もたくさんいると思います。そのような方々にメッセージをいただけますか。
「わたしも打ち込めるものを見つけ、それ一本にがんばっている人がうらやましく、早く見つけたいと思っていました。道が見つかったいま、これまでやってきたことに無駄なことはなく、すべてが一本につながっていると感じています。
しっくりくるものは、絶対にあるはず! それを見つけるためには、自分の心に従って動くこと。自分を信じて、違うと思えば他のものにどんどん手を出してもいいと思うんです。興味を持ったら、まずやる。触れて、感じてみる。流されてもいいから動いてみることは大事だなと思います」
お話を伺ったときに、目標だとお話ししていた路面店が、9月に表参道でオープン予定。自分自身で決めた道を一歩一歩進む小幡さん、そしてアースライズから目が離せません。
(渡部えみ)