【政局メルマガ(102)】

「私の東京地検特捜部体験(3)ー私の携帯とパソコンを狙った特捜部(2)」

 新しい年を迎え、しかも日本が大きな災害と事故に見舞われているタイミングで、暴走する東京地検特捜部の闇に関する連載が令和6年の最初の配信に相応しいか逡巡しましたが、一旦始めた連載を中途半端に終わらせるわけにはいかないので、「私の東京地検特捜部体験(3)」をお送りします。

 しかしある意味では、この記事は新年に相応しいとも言えます。総理大臣を含む日本の全ての政治家が震え上がる東京地検特捜部の正体に迫る事は、日本の戦後の闇を暴き、かけがえのない日本という国を隠然とした闇の支配から解放するためには避けて通れない作業だからです。

 なお、今回は書いていて「ですます調」(敬体表記)だとしっくりこないので、「だ・である調」(常体表記)とさせていただきます。

⭕️特捜部はどういう基準で着手する事件を選んでいるのか

 2017年9月、東京地検特捜部は新しい部長を迎えた。森本宏だ。
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 この人物は東京・霞ヶ関の赤レンガの建物で知られる法務省の「法務官僚」としての顔と、東京地検特捜部で犯罪捜査に携わる「現場の検事」という2つの顔を持つことで知られていた。

 2つの職種の違いは、語弊を恐れずに言えば防衛省の「背広組」と「制服組」の違いにも似ている。現場で汗をかく兵隊(検事)と、組織をマネージメントする大本営(法務官僚)の違いだ。

 プロ野球で言えばフィールドで結果を出す事が求められる選手と、ビジネスとして球団を経営するフロントだ。そのくらい求められる職能と技術が異なるため、法務省に勤める者は得意不得意の観点から「赤レンガ派(法務官僚系)」と「現場派(特捜部系)」に大別される。

 赤レンガ派は中央省庁としての法務省の省益を増大させるため、時には国会議員に頭を下げる事もある。これに対して特捜部は逮捕・起訴という絶対権限を持って永田町を睥睨し政党や政治家を恫喝する組織なのであって、「赤レンガ派」と「現場派」の仕事は本質的に相反し、ある意味では正反対だと言ってもいい。

 しかし森本宏は、2002年に小泉政権下で官邸で官房副長官秘書官を務めるなど法務官僚としての顔と、特捜部に何度も在籍して犯罪捜査に携わった「摘発者としての検事」の顔を、その時々によって使い分ける器用さ、狡猾さを持ち合わせている事で知られていた。

⭕️極めて歪だったリニア談合事件

 特捜部長に就任した森本が最初に大ナタを振るったのが、JR東海のリニア中央新幹線の建設工事をめぐるゼネコン大手4社の談合事件、いわゆる「リニア談合事件」だ。

 JR東海が建設を進めているリニア中央新幹線の品川駅と名古屋駅の新設工事で、スーパーゼネコン4社(大成建設・鹿島と大林組・清水建設)が談合して事前に工事の受注者を決めるなどしたというのである。

 しかし、これは「被害者なき談合」と呼ばれた極めて歪な事件だった。 

 そもそも世界初のリニア新幹線の駅は、これまでの新幹線や在来線の駅とは根本的に異なる。世界最先端の超伝導技術を駆使して最高時速時速500kmのリニアの巨大を安全に制御しなければならないのだ。

 このためJR東海は、最先端技術の扱いに定評のある大林組に工事の概要を決め正式に発注する前に事前調査を委託した。

 そして正式に建設会社を選定するにあたり、JR東海は透明性を高めるために「指名競争見積方式」を選んだ。これは新駅建設工事をいくつかの工区に分けた上で各社の技術などを勘案してJR側が複数社を指名し価格などを交渉するやり方で、事前調査を行った大林の他に、大成建設・鹿島・清水建設の3社も入札することになった。

 このため大林が事前調査で得た情報を3社が共有した上で4社間で請け負う予定の工区を配分したという。

 この「調整」は事前調査から正式受注へという過程でどうみても必要な作業である、これによって不利益を被った者は全くいないと言っても過言ではない。

 本来は安価で建設可能な公共工事を建設会社が秘密裏に結託して価格を釣り上げるのが犯罪としての談合だ。この場合の被害者は一義的には国や地方公共団体などの発注者で、最終的に不利益を被るのは納税者たる国民・市民だ。

 ところがこの事件ではJR東海側は被害者という意識を全く持っていなかった。大林組にタダで事前調査をさせて、その後工区ごとに4社を競争させたのだから、発注者の強みを大いに活かして建設費の圧縮に成功したのであって、そのJR東海に被害者意識などあるはずもなかった。

⭕️結果としてリニア完成を大幅に遅らせた特捜部

 そもそもリニア中央新幹線は純粋な公共事業ではない。9兆円に上る建設費は基本的にJR東海が自力で調達する。民間企業単体の事業としては内容的もコスト総額的にも前代未聞の大事業であり、前代未聞のチャレンジといっても過言ではない。

 これは、リニア中央新幹線を長年にわたって牽引し今年亡くなったJR東海の葛西敬之(かさい・よしゆき)名誉会長の心意気によって精密に設計された、壮大かつ戦略的なチャレンジだった。

 この「国家的民間プロジェクト」に敬意を表して、政府からの支援を決めたのが第2次政権の時の安倍晋三元首相だ。

 日本の近未来のインフラ輸出の主力となるべきリニア開業を早めるため、政府の財政投融資を活用して建設資金を貸し付ける事とし、2016年度第2次補正予算案の「未来への投資を実現する経済対策」の目玉として財政投融資を利用した1兆5000億円の貸し付けが盛り込まれたのだ。

 総額3兆円の財投融資はあくまで貸し付けであって、この意味においてもリニア中央新幹線は国費の負担はゼロ、あるいは極めて小さい。

 しかも「リニア談合」については森本が部長に就任する以前、特捜部内で検討した結果、「犯罪性が低く公判維持も難しいため着手しない」という結論が出ていた。

 しかし森本宏が特捜部長に就任した2017年9月に急転直下、本格捜査に向けた内偵が始まった。この森本新部長の異例の判断には、「純粋な犯罪摘発」という観点だけでは到底説明しつくせない、ある種の政治性があることは火を見るより明らかだった。

 安倍晋三氏と葛西敬之氏は安倍氏が父・晋太郎の跡を継いで政治家になって間もないころから、国会議員と民間企業の経営トップとという垣根を越えて深く付き合ってきた。最初の縁を紡いだのは葛西氏と東大の同級生で、第一次安倍内閣で最後の官房長官をごく短期務めた与謝野馨氏である。この経緯については拙著「総理」(幻冬舎)で詳述している。

 私は何回となく安倍氏と葛西氏との会食や会合の末席を汚す機会に恵まれたが、この二人は日本古来の伝統文化を守り日本の真の独立国に近づけなければならないという使命感を共有する特別な関係、ある種の盟友・戦友のように見えた。

[2014年 出版社パーティで談笑する葛西氏と安倍氏]
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 リニア新駅を巡って必要不可欠で避けて通れなかった「企業間の調整」は、森本新部長によって「リニア談合事件」という犯罪に仕立て上げられた。結果として最も割を食ったのが被害者であるはずのJR東海だった。最大のダメージはリニア中央新幹線の開業延期だ。

 超電導技術を使ったリニアは日本が世界の先頭を走り続けてきたが、中国、ドイツ、フランスなどが類似のスーパー超特急の開発でしのぎを削っている。世界最初の開業・営業運転を実現すれば、インフラ輸出の世界で日本の最強のカードの一つとなることは間違いない。

 葛西敬之が手塩にかけて育て、盟友の安倍晋三が国会を代表して支援したのが夢のリニア計画。被害者のいない企業間の調整を犯罪に仕立て上げてまで、リニアの開業を大幅に送られせた森本の本当の狙いはどこにあったのだろうか?

⭕️森本宏元特捜部長が安倍晋三元首相に抱く深い怨恨

 偉大な作家の処女作はたとえ駄作だったとしても、その作家のその後の「手法」と「体質」「情念」がはっきりと刻印されるという。森本宏が特捜部長就任後最初に取り組んだリニア談合事件も、特捜検事としての森本宏の「手法」と「情念」を雄弁に物語っている。

 1/7に現職国会議員議員の逮捕(安倍派:伊藤佳隆:いとう・よしたか)にまで発展した自民党派閥パーティ券事件を指揮しているのは去年4月特捜部長に就任した伊藤文規(いとう・ふみのり)だ。伊藤は2017年9月~20年7月の森本宏特捜部長時代に、特捜部に3人いる副部長の一人として森本を支えた。

[伊藤文規 現東京地検 特捜部長]
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 森本特捜部長退任の5か月前の2020年の2月頃、法務・検察当局は世間の逆風にさらされていた。安倍内閣が検察官の定年延長を閣議決定をしたことで、検察ナンバー2の東京高検検事長だった黒川弘務氏が検事総長に就任することが物理的に可能になったことを受け、様々なサボタージュや妨害活動が露呈していた。。

[黒川弘務 元東京高検検事長]
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 当時左翼メディアは「安倍氏と関係の深い黒川氏を検事総長にしようとしている」などと揣摩臆測を記事にしたが、当の安倍氏は黒川氏とはほとんど面識がなかった。安倍氏は当時私に対して、「黒川さんと言われても、ほとんど会ったことがないんだよね。法務省の人事はこれも含めて全て役所が上げてきた人事を追認しただけなんだよ」と述べていた。

 当時の法務省内部を知る複数の情報ソースによれば、法務省の中には黒川氏の検事総長就任を歓迎するグループと、「何とか阻止したい」と考えている特捜部を中心とするグループが激しく対立していたという。

 検察人事が荒れに荒れていた20年3月、ある現職政治家、しかも法務大臣経験者が公職選挙法違反(買収)の容疑で逮捕される。第2次安倍政権で安倍元首相の総理補佐官を務めた河井克之である。この事件は「森本特捜部長による安倍首相に対する宣戦布告」と永田町では受け止められた。

 さらに、森本特捜部が河井夫妻の捜査を続けていた20年5月、今度は検事総長就任目前と言われていた黒川氏に突然「賭けマージャン疑惑」という文春砲が炸裂して、5/20に黒川氏は東京高検検事長を辞任、表舞台から去った。

 この時、「反黒川グループの特捜部が文春に書かせた」という情報が盛んに流布された。こうした経緯から、その内実は別として、「東京地検特捜部が安倍晋三首相と安倍派に深い怨恨を持っている証拠」「森本特捜部長は私怨をエネルギーに恣意的な捜査を行っているのであって、前代未聞の検察ファシズムだ」と批判された。

 この「安倍政権vs森本特捜部」全面戦争の期間中、副部長として一貫して森本を支え続けたのが現特捜部長の伊藤文規なのだ。

 現在の特捜部の捜査が、自民党派閥の中でも安倍派を集中的にターゲットとしていることについては、こうした経緯を知る者の間では「森本-伊藤ラインによる恣意的な捜査であり特捜部の暴走」と受け止める声が少なくない。

 昨年7月に最高検察庁刑事部長に就任した森本氏は、愛弟子である伊藤特捜部に強い影響力を維持している。今回のパー券事件を巡っても、捜査やメディアコントロールの随所に「森本イズム」が露呈している。

 森本特捜部長の処女作「リニア談合事件」の「手法と情念」。「手法」として引き継がれてパー券事件で最大限生かされているのが、例えば「被疑者の恫喝と分断」という捜査手法だ。そして最大の問題「森本イズム」の「情念」は、今回のパー券事件にどう滲んでいるのか。これについては別のメルマガで詳述する。

⭕️前代未聞の「大型案件同時着手」

 しかし森本宏特捜部長が安倍政権に対してはっきりと牙を剝いたのは20年3月の河井克之事件が最初だ。2017年段階では森本特捜部長が安倍晋三本人あるいは安倍政権や安倍派に特別の怨恨を抱いているという情報はなかった。

 しかし今にして思えば、森本氏は特捜部長になった段階で、あるいはその遥か以前から、安倍氏ないし自民党の保守系政治家など特定の政治家グループに対して特別な敵意を抱いていた事は間違いない。

 なぜそう断言できるか。それはリニア談合事件と同じ時期に本格捜査が始まった「スパコン助成金詐欺事件」の関係者の一人として、捜査の経緯と詳細を知ることになったからである。

 スパコン開発会社「ペジー・グループ」の「スパコン助成金事件」で齊藤元章氏が逮捕され関係先10数か所に家宅捜索が入ったのが2017/12/5。

[2017/12/5 ペジーグループ家宅捜索]
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「リニア談合事件」でゼネコン4社の関係先数十か所に家宅捜索に入ったのが2017/12/8。

[2017/12/8 大林組家宅捜索]

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 一つの事件で押収される証拠品の段ポール箱は数百個に上る。検察官や検察事務官数十人が数か月もかけて分析しなければならない。特捜部も人員が限られているから大きな案件は特別な事情がない限り一つづつ片づけていく。

 ところが「スパコン助成金事件」で数百箱の段ボール箱を押収したわずか3日後に、特捜部は「リニア談合事件」の家宅捜索を強行したのである。この異例の判断の理由にこそ、東京地検特捜部という組織の本質を見抜く、極めて重要なヒントが隠されている。

(続く)