【政局メルマガ(103)】

「私の東京地検特捜部体験(4)ー私の携帯とパソコンを狙った特捜部(3)」

 まず、前回のメルマガの誤記を訂正させて下さい。「パー券事件で逮捕されたのは伊藤佳隆ではなく池田佳隆」「2017年に公選法違反で逮捕されたのは河井克之ではなく河井克行元法務大臣」訂正してお詫びします。 それでは前回1/8に配信した「政局メルマガ(102)」の続編(103)をお送りします。

⭕️特捜部は何を急いだのか

 特捜部がいったん組織として事件化を見送る決定をしていた「リニア談合」は、2017年9月に森本宏が特捜部長に就任すると突然事件として捜査するよう方針が180度変更され、すぐに総力をあげた捜査が始まった。

 内偵に2ヶ月以上をかけて強制捜査の対象を絞り込んだ後、12/8にゼネコン4社と関係会社に加えて、被害者であるはずのJR東海の関係先にも何故か家宅捜索を実施した。

 特捜部には50人からの捜査検事と彼らを補佐する検察事務官、さらにデジタル情報を抽出し分析するフォレンシック部などが一大捜査体制を引いているから、いくつかの案件を同時に捜査する事も可能といえば可能だ。

 しかし日本最強の捜査機関と言われる特捜部にとっても家宅捜索によって押収した膨大な資料を分析する特捜部の人的資源は限られているから、大きな事件を扱っている場合にはほかの案件は着手の時期を遅らせることが多い。

 こうした芸当は警察にはできない。いかなる事件も時期や場所を選んでくれないから、警察は捜査着手の時期を自分で選択することはできない。ところが時効に追われ犯人検挙に汲々としている警察と違って、特捜部には「着手の自由」とでもいうべき恐るべき特権がある。

 通常の犯罪は各都道府県の警察本部が担当する。だ特捜部が担当するのは基本的に

・国会議員など政治家の犯罪と、

・被害額が1億円を超える知能犯事案(詐欺や横領など)とされている。

 基本的に全ての犯罪は、まずは全国の都道府県警とその他の省庁に所属する警察組織(厚労省の麻薬取締や海上保安庁の海上犯罪など)が引き受ける。殺人のようにまず犯罪が行われてから捜査が始まるものもあるし、詐欺や横領などの知能犯・経済犯については事前調査や告発などで犯罪行為を察知した警察側が内偵の後に立件することもある。

 これに対して特捜部は、どの案件を、いつ、どのように捜査するか、勝手に・独断で・恣意的に捜査対象を決めて自分の都合のいいタイミングで捜査に着手する事が出来る。

 この仕組みこそ特捜部を闇の捜査機関たらしめる入り口である。すなわち、治安維持のために必要な犯罪捜査は各都道府県警にやらせておいて、特捜部は抹殺したい政治家や政治勢力を自在に選んで強制力をもって追い詰める事ができるのである。

 こうした背景を考えれば、2017年9月段階の森本宏新部長は、先達が避けていた「リニア談合」の事件化をほぼ独断で決定した以上、「関係者の逮捕→起訴→有罪判決」という形に確実に落とし込むため、特捜の捜査リソースの全てを注入しようと考えたに違いない。

 ところがその「リニア談合」を巡る渾身の家宅捜索が大規模に実施されるわずか3日前に、森本特捜部長は捜査リソースを自ら分断するような異例・異常な判断に出る。それこそが私が関係者として関与させられた「スパコン補助金不正事件」である。

⭕️全く急ぐ必要がなかったスパコン事件

 スパコン事件は、簡単に言えば「2015年の政府補助金を適切に使用していたか」という事案である。

 そして関係者への事情聴取は2017年10月下旬に始まり、齊藤元章代表をはじめとするペジーグループ側は従順に任意捜査に応じていた。

 犯人逃亡のリスクも、事案としての緊急性も全くない補助金不正なのだから、普通に考えれば「リニア談合」の捜査・起訴を優先し、一段落した所でスパコン事件の強制捜査に着手しても何の問題もなかった。

 ところが森本宏新特捜部長は、威信をかけて取り組んでいた「リニア談合」の家宅捜索のわずか3日前になぜかペジーグループへの家宅捜索と齊藤元章代表の逮捕を強行する。

 この異常な判断こそ、特捜部が何を目的に活動してるのかを鮮やかに浮き彫りにした。ペジーグループは、社運をかけた非常に重要な大型投資案件の正式契約を翌週に控えていたのだ。もちろんこの契約は補助金不正とは全く無関係なものだった。

 他の意欲的な技術系ベンチャーの例に漏れず、ペジーグループも研究開発資金の調達には長年苦労していた。しかし特捜部の家宅捜索が入った6日後の12/11、グループにとって非常に重要な資金調達に関する契約を控えていた。

 詳細は現段階では公表できないが、誰もが知る大企業からペジーグループに対して長期間に渡って巨額の研究開発資金を継続的に提供する提案があり、12/11に正式に契約する事が決まっていたのだ。

 長年資金調達で苦労してきた齊藤氏にとっては、投資先を探すという作業から解放され名実共に世界一のスパコンを作り上げる(後述)というゴールに集中できる体制が確立される日が次週に迫っていた。それは、ペジーグループが世界最高のスパコンを横浜に完成させ、さらに日本が世界のスパコン・人工知能開発競争で圧倒的優位に立つ可能性が一気に高まるものと期待されていた。

 全ての準備が整い調印を待つだけとなっていた大型投資契約は齊藤氏の逮捕・勾留によって不成立となった。もし特捜部の強制捜査が契約書調印後の12/12以降であれば、たとえ齊藤氏が補助金不正で逮捕されたとしても、ペジーグループの技術陣が研究開発を続けることができた。要するに、特捜部が12/11よりも前に齊藤氏の逮捕を強行したことによって、全てが水泡に帰したのである。

⭕️日本が頂点に立っていた可能性

 当時齊藤氏が最優先で取り組んでいた事業のひとつが、世界一の性能を持つ圧倒的なスーパーコンピュータを日本に設置する壮大な計画だった。その根幹を支えていたのが齊藤と仲間たちが完成させていた液浸冷却スパコンだった(詳細はこのメルマガの後半に)。

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着想当初は壮大な夢と思われていたプロジェクトは長年の研究と各方面との交渉を経て、2016年から具体的な像を結び始め、2017年春には世界一のスパコンを神奈川県に完成する具体的な計画が出来上がっていた。

 その計画とは、神奈川県横浜市の海洋研究開発機構(JAMSTEC)のコンピュータ関連施設にペジー社の液浸冷却コンピュータを80台連結して設置し、世界一の計算性能と世界一の消費電力性能を持つスパコンを完成させることが決まり、JAMSTEC側の承認を得て設置工事が始まっていたのだ。

 JAMSTECには、かつて世界一の性能を誇ったスパコン「ちきゅうシミュレーター」が設置されていた巨大な建物がある。しかし技術革新で「ちきゅうシミュレーター」に必要な性能はごく小型のスパコンに差し替えられ、その施設は巨大な体育館のような「がらんどう」になっていた。
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 そこはスパコンの重量を支えるだけの十分な強度を備え、電源供給、巨大スパコンの運用に不可欠なオペレーションシステムやメモリ機能などを即座に設置できる理想的な空間だった。

 当時はアメリカと中国がスパコン世界一の座を巡って鎬を削っていた。しかしJAMSTECにペジーグループのスパコンが完成すれば、アメリカや中国も数年は追いつけないような圧倒的な性能のスパコンとなっていた。

 さらに、スパコンの世界では一定の性能を超えると従来出来なかった計算が一気に可能になるという、ある種の「閾値(しきい値)」がある。

 JAMSTECのスパコンが完成すれば、その計算能力は100ペタFlops を越す事が確実だった。2017年当時の世界一のスパコンはアメリカの「」で、計算性能は20ペタFlopsだったから、JAMSTEC版は5倍の性能という事になる。

 これは単純に計算が5倍早いというだけではない。20ペタでは扱えない複雑な事象を、100ペタならば完璧にシミュレーションする事が出来るのだ。

 ペジーのJAMSTECスパコンが完成した暁に、最も期待されたのが、「常温核融合」と「超伝導」に関するシミュレーションだ。

 常温核融合は海水に大量に含まれている を原材料に放射線被曝のリスクなく効率的に発電が出来る技術で、実現すれば世界のエネルギー問題は一気に解決するものと見られているため、世界各国の研究機関と巨大企業が研究開発に鎬を削っている。

 日本でも何度か常温核融合に関する研究が国家的プロジェクトとして実施された。

 2015年にはじまった国立研究開発法人NEDOの「エネルギー・環境新技術先導プログラム」では、日産自動車など民間企業も参画して産学官一体で16回行い、エネルギー源となるための前提となる過剰熱の発生と実験再現性を確認するに至った。

 欧米各国でも、巨費を投じて実用化に向けた意欲的な研究が続けられている。

 本格開発に名乗りを挙げているアメリカ、フランス、EUなど各国政府は、それぞれの国の中のトップ研究所に巨費を与えて研究させている。 例えばアメリカではインターネットやGPSを開発した事で知られるDARPA(国防高等研究計画局)が、表向き発表しているだけで2011年からの3年間で338万9500ドル(50億ドル)の予算を常温核融合関係に計上しているほか、海軍研究所やNASAも何年にもわたって巨費を投じている。

 またスタンフォード大学を中心とするアメリカの複数の大学も連携しながら理論研究を担っています(なお、このスタンフォード大学という組織がいつどのように生まれて、どういう機能を果たしている組織なのか私達は深く知る必要があります。これについてもおいおい説明します)。

 理論的には完成する事がわかっていて過剰熱の発生も確認されているのに、世界中の叡智を結集して今なお未だに商用化が実現しないのは、「どの元素同士をどのようなスタイルで融合させればよいか」というシミュレーションが現段階での人類の能力を超えているからだ。

 しかし、100ペタを超すスパコンと人工知能を駆使すれば、常温核融合のベストなシステムを確立する可能性が格段に高まるものと見られていた。

 もしJAMSTECのペジースパコンが完成していたら、日本が常温核融合の世界初の商用化に成功していた可能性がある。

 それはすなわち、アメリカを始めEU各国や中国がこれまで投じてきた兆単位の研究開発への投資が水疱に帰す事をも意味した。

 なお、森本新体制が最初のターゲットとして選んだJR東海のリニア中央新幹線の基幹技術である超伝導についても、100ペタクラスのスパコンで大きな技術的ブレイクスルーが期待されていた。これについては別途説明する。

⭕️特捜部が着手日を12/5に選んだワケ

 齊藤元章氏はある種の異能者、ある種の天才で、さらに東大医学部からスパコン開発に転じた変わり種だった事もあって通常のスパコン開発者が常識と考えている事を平気で飛び越えていく無鉄砲さを持っていた。

 だから、彼の開発するスパコンには従来のスパコンにはない様々な「異常な特徴」があった。

 一番有名なのはその冷却方法だ。我々の使っているパソコンと同じくスパコンも使い続けると加熱して性能が落ちるので、いかに効率的に冷却するかが技術開発の要点の一つである。

 これまでのスパコンは、簡単に言えばスパコンを並べた部屋にエアコンを設置するという原始的な「空冷方式」とその発展系である「液冷方式」の2種類しかなかった。液冷とは、スパコンの周囲に冷却した液体を循環させる金属パイプを張り巡らせてスパコンを冷やすシステムだ。

 ところが齊藤氏は、全く違う方法を編み出して実現した。それが「液浸冷却」だ。

 これはスパコンを丸ごとフロリナートという液体に浸け込んでしまい、その液体を循環させる事でスパコンを超効率的に冷やすという齊藤氏ならではの型破りの革新的なシステムだ。

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 ペジーグループのスパコンが消費電力性能のコンテスト「Green500」で繰り返し世界一を獲得したのは液浸冷却技術に追う所が大きい。

 齊藤氏はこの技術で複数の国際特許を取得しており、逮捕された2017年段階で国際的に強力なアドバンテージを獲得していた。

 他にもそれまで2次元的に設計されていた半導体チップを磁界結合という最先端技術を用いて3次元化する事に成功し、「超小型・超メニーコアチップ」の開発にも成功していた。

 そして、12/11の契約で長期的巨額資金調達体制を固めていたら、向かう所敵なしという状況が確立されていた。

 森本宏特捜部長が超大型案件「リニア談合」の捜査上の最大のハイライトである12/8の家宅捜索の直前に、敢えて齊藤氏を逮捕しペジーグループの関係先への家宅捜索を強行したのは、「犯罪捜査」という捜査機関の本来の目的よりも、「ペジーグループの解体」に主眼を置いていた動かぬ証拠だと私は見ている。

 その後の特捜部による齊藤氏への取り調べ内容や再逮捕を繰り返して齊藤氏を5ヶ月以上にわたって勾留した経緯を見れば、「ペジーグループの解体」が特捜部の狙いだった事がはっきりする

(続く)