岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/02/27

おはよう! 岡田斗司夫です。

今回は、2019/02/10配信「『ラ・ラ・ランド』オープニング5分間の感動を「見える化」、『ファーストマン』予習編と『ミスター・ガラス』の見どころ」の内容をご紹介します。
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2019/02/10の内容一覧


交通渋滞は、「人生の渋滞」のメタファー

(映画『ラ・ラ・ランド』のオープニングについて)
 そして、「お金は全然ないけども、グレイハウンドバスに乗って飛び出した」と歌うところで、周りから男性がどんどん出てきて、コーラスが4人くらいに増えていきます。
 なぜ、ここで他の人達も一斉に車から出てきて、同じ歌を歌うのかというと、「彼らはみんな同じ夢を持っているから」なんですね。
 「故郷も仲間も捨てて、なぜハリウッドに出てきたのかというと、映画俳優になるためだ!」と。この渋滞中の車に乗っている人達は全員、同じ夢を持っているんですよ。

 そもそも、この渋滞というのは、単に見ず知らずの人達が高速道路の渋滞に巻き込まれたんじゃないんですよ。
 この人達というのは、それぞれが別の音楽を聞いていた。つまり、別のことを考えていたんですけども。
 でも、実は全員、同じような夢を持ってハリウッドにやって来たというのが、ここでハッキリわかるんですね。
 なぜ、渋滞で車が止まっているのかというと、「そうやって夢を追いかけてハリウッドにやって来たのに、何も進んでいないじゃないか!」みたいに、彼らの人生そのものが渋滞していることのメタファーなんですね。
 このメタファーを、この画面だけで一発で見せてくれるので、この辺りから、僕はゾクゾクするのを止められなくなるんです。

 これね、日本のマンガではよくやるんですよ。
 日本のマンガでは、自分の脳内シーンとして「せっかく東京に出てきたのに、俺は何してるんだろう? ずーっとエレベーターの順番を待ってるみたいじゃないか」っていう描写がよくありますよね?
 そういうものを絵として見せることについて、日本ではマンガが優れていて、アメリカは映画表現が優れているっていうことなんです。

 これは本当に、計算で作ってるんですよ。
 なんで、これだけのシーンにドキドキワクワクするのかというと、たぶん、僕らが日本のマンガを読んだ時に感じるように、心の中で、これが何を意味しているのかがちょっとわかるから。だから、こんななんでもないシーンでワクワクするんです。
 これ、本当に、カメラの動きだけでいったら、ただ単に「カメラが車の列を捉えて、その内の車1つがアップになって、中からお姉さんが出てきて、ちょっとカッコいい歌を歌いながらダンスして、カメラが後ろに下がって行く」というだけのシーンだから、本当はゾクゾクするような要素なんかないんですよね。
 でも、僕らがこれを見たときに、なんかゾクゾクとくるのはなぜかというと、心の中で、こういったサインを感知してるからですね。
 つまり、マンガを読んで訓練されているように、映画を見ている僕らも、ちょっと訓練されているわけです。

 こういった「みんなが夢を持ってこの街にやって来た」という世界観というか、この世界の成り立ちそのものを絵だけで見せてしまえるというところが、このオープニングのシーンのすごいところですね。
 僕はもう、この辺りからゾクゾクするのが止まらなくなってくるんですけども。

 ここから先はサビですね。
(パネルを見せる)
 どんどん人数が増えてきて「今、私は頂きを目指す」と歌うシーンです。
 「Climb these hills.I’m reaching for the heights.Climb these hills.I’m reaching for the heights. And chasing all the lights that shine~♪(今、私は頂きを目指す 輝く光を追い求めて)」と歌い上げながら、周りの車からも一斉に人が飛び出して来るんですね。

 同じ車線のすべての車から、一斉に人が飛び出してきて、サビの部分を歌い出すんですよ。
 つまり、これは「ここにいる全員、夢を諦めかけていたり、押し殺していたりしたところから、我慢できずに本音を語り出す」というシーンなんですね。
 それを、「主人公の演説セリフでみんなが感動して~」という形ではなく、ミュージカルの中で、「動き」としてやっちゃってるところが、演出としてはすごいところなんですよ。
 「ミュージカルって、なんでいきなり歌い出すんだよ?」とか、「なんで見ず知らずの人間が、同じ歌を歌うんだよ?」っていう、よくあるツッコミを逆に利用して、「それは「ハリウッド」という場所に集まっている若者だからですよ」と説明してるんです。

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