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書評:種の起源(下)
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書評:種の起源(下)

2018-03-14 12:49


    書評:種の起源(下)
    チャールズ・ダーウィン 箸、光文社文庫
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    ●人間の脳は最近ほとんど進化していない

     下巻では進化(種)の中間的存在の生物が、化石として見つかるケースが少ないという批判に対して、<地層堆積の膨大な時間の中で生物が化石として保存されるケース(可能性)が少ない>ことなどを、地質学の深い知識から論じています。
     当時はまだ大陸移動説(ドイツの気象学者アルフレート・ヴェーゲナーが1912年に提唱した説がはじめとされる)は登場していませんでしたが、地形の変化によって生物の分布や化石の見つかる範囲が大きく変わるということにはすでに気付いていました。

     この議論の中で感じるのは、生物の進化というのは数百万年、数千万年、数億年、数十億年(ダーウィンの時代にわかっていたのは4億年~5億年前のシルル紀のあたりまでです)の悠久の時間を味方にしているということです。

     ですから生物の進化にはかなりの時間がかかるということです。確かに家畜や農作物の品種改良というものは短期間で行えますが、見た目の違いはかなりあっても(多様な犬の祖先はすべて同じ一種類のオオカミの種と考えられている)、遺伝的な特質は実のところそれほど変わっていません。

     現生人類がチンパンジーと分岐して他のサルから完全に独立した存在になったのが約700万年前だと考えられています(念のため、「サルが進化して人になった」という考えは全く間違いで、あくまで祖先が同じであるだけです。ダーウィンもそのような話は一切していないのですが、進化論を攻撃するキリスト教関係者などが話を捏造しました)。

     実は、このことが現代の経済や投資における人間の行動を解き明かすために極めて重要なのです。

     例えば、タイムマシンで古代エジプト文明成立以前に飛び、1万年前の生後間もない赤ん坊を連れ去ってくるとします。その赤ん坊を現代社会で育てれば、何ら現代人と変わらず、場合によってはアインシュタインのような天才になるかもしれません。

     つまり、人間の脳そのものはここ1万年ほどほとんど進化していないのです。

     ところが、1万年前よりも新しい古代エジプト文明でさえ、自動車やコンピュータなど思いも及びませんでした。

     実際、産業革命以降、「人間社会」は驚くほど「進化」します。交通網の発達によって、世界中の誰とでも会えるようになりましたし、通信網は伝書鳩、電信・電話を経て、インターネット、携帯電話(スマホ)の時代に突入しています。

     現代社会は古代人が思いもつかないような、複雑かつ高度に「進化」した文明社会に生きていますが、その脳が1万年前から進化していないことが色々な問題を引き起こしています。

     そのギャップを埋める研究を行うのが「人間経済科学」や「行動経済学」ですが、特に人間の脳が苦手とするのが、現代のビジネスや投資に不可欠な「確率」や「統計」に基づく判断です。統計や確率の正しい答えは、大概人間の直感に反するので、経営者や投資家がほぼいつも、経営や投資の判断を間違えるのは、自分自身の脳のせいであると言えるかもしれません(人間が「確率」や「統計」においてどのように判断を間違えるのかは、「確率」や「統計」に関する書籍のコメントで今後解説していきます)。


    ●自然淘汰は何と闘った結果なのか

     自然淘汰は<環境の変化に適応できたものが生き残り、そうでは無かったものが滅びる>と解説されます。ただ「環境」というものが誤解されがちです。

     例えば太陽光線の強い地域に住む人々は肌の色が黒くなり、北極のような寒冷地に住むペンギンのような生物は皮下脂肪が厚くなります。そのように環境に適応した生物は生き残る確率が高く、そうではない生物は消え去っていく傾向にあるのは事実です。

     しかし、ダーウィンが主張するのは「環境」の最大の要因は、「他の生物、特に自分と同じ種か、近い種」であるということです。

     つまり、自分の周りにいる仲間の生物が最大の敵であり、その仲間内の闘争に勝ったものが、生き残るというのが「自然淘汰」の最大の原因なのです。

     確かに、よく考えてみれば全くその通りです。例えばライオンなどの肉食獣は同じ仲間の中では常に縄張り争いをしていますが、カラスとサメが生存において競い合うことはありません。

     これを人間社会に置き換えると非常に興味深いことがわかります。もちろん、大型で凶暴な哺乳類の頂点にいる人類に勝てる生物はいませんから、人類の最大の敵は同じ人類です。

     人間が戦争をいつも行っている理由もはっきりとわかります。それは「自然淘汰」であり、仲間内との競争に敗れた人類(民族)は絶滅します。

     さらに、強力な敵は同じ組織に所属する同僚たちです。自分が成功するためには、他者と闘い追い落としていくことが必要です。これは会社(企業)、キリスト教会のような宗教団体、公益法人、病院、共産党等々すべての組織に共通してみられます。

     したがって、このような組織の頂点に立つ人々は、「仲間との闘争に勝利した自然淘汰の勝者」です。念のため申し添えれば、人気の闘争においては「親切」「寛容」「人気」も大きな武器になり、人間同士の闘争の勝者はたいていこのような要素も保有しています。

     そして、もうひとつ付け加えたいのが「痕跡器官」。例えば、人間を含む雄の哺乳類の乳首は現在無用の長物ですが存在し続けています。つまり、無用になっても進化的に残される場合もあるということです。

     人間組織にも同じような「痕跡器官」がよく見られます。無用になってもその存在を消さない部署(組織の一部)の取り扱いはなかなか難しい問題の一つです。その組織の中の個体(人間)は、自身の生存をかけて「痕跡器官」を何とか残そうと「自然淘汰」の中で懸命に闘うからです。


    (大原浩)

    *2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」(JKK)を設立します。HPはこちら https://j-kk.org/


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    (情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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