8月のマーケットには、「真夏の悪夢」と喩えられる出来事があると言われて来ましたが、今年はトルコ・リラ・ショックでしょうか。
8月10日(金)週末から13日の月曜日にかけて、トルコリラが一日の動きとしては歴史的とも言える急落となりました。
トルコが拘束した米国人牧師の取り扱いについての米国とトルコ間の交渉行き詰まりから両国の関係悪化が表面化するなか、10日のトルコ・リラ対円では、19円97銭から始まった相場が、英国フィナンシャルタイムズ紙の「欧州金融当局がスペイン、フランス、イタリアが持つトルコへの債権リスクを懸念」の報道をきっかけに、まずユーロが売られ、その後、トルコ・リラが安値17円台まで売られました。
次に追い打ちをかけたのが、トランプ大統領です。
トルコから米国への鉄鋼・アルミへの関税を2倍にするとツイートしたことから安値16円11銭2.5厘まで売り込まれました。
週が明けると、トルコのエルドアン大統領から「利上げ否定」への強いメッセージが出されたことから、15円46銭3.1厘という更なる安値をつけるという「トルコ・リラ・ショック」となりました。この短期間のうちに、高値対安値はマイナス22.9%と大きな下落でした。
きっかけになった米国人牧師が解放へと向かうなら、米・トルコ問題から生じた『トルコ危機』は表面上は解決ということになるでしょう。
また、ユーロ売りも伴う背景になったスペインをはじめとする欧州諸国の金融機関が持つトルコ向け債権も割合から見ると、金融危機を発生させるほどの規模ではなさそうです。
では、ショックは一段落したとして、トルコ・リラは下げの修正以外に、本格的な上昇に転じて行くとも考えにくいのも事実です。
過去10年のトルコ・リラ対円相場を見てみると、高値92.8184、安値は先週8月13日の15.4631。現在、政策金利が17.75%という高金利通貨ですが、金利も含めたトータル・リターンでも、この10年間でマイナス21%以上の下落が続く長期下落通貨です。
このところのドル高新興国通貨安のトレンドの中で、トルコ・リラも例外ではないと言うか通貨安の先頭を走ってきました。
その背景に挙げられるのが、高インフレです。インフレは通貨の価値を下げます。政策金利は17.75%ですが、直近7月の消費者物価は前年比で15.8%。実質金利はプラスではありますが、インフレが進む中では期待インフレ率は上昇しますので、今後の投資に前向きにはなりづらいです。
対外債務の多さも問題です。経常収支は5月が62億ドル、6月は30億米ドルと赤字体質が続いています。加えて、政治の独裁体制が続き、エルドアン大統領がすべての実権を握り、中央銀行が独立性を完全に持っていないことも問題です。
一方で、トルコはこれまでも地政学的に東西を結ぶ地政学的に重要な場所であり、軍事的にも重要視されてきました。
経済面でみると、GDP成長率は直近では7.4%と概して伸びてきていますし、人口構成も若年層が多いこと、観光産業には適したリソースがあること等を考えると、今後のトルコ情勢の変化を長い目で観察しておく必要があるように思います。
因みに、今週、トルコは21日から24日まで犠牲祭という祝日でお休みなので、トルコ側の動きは来週を待つことになります。
トルコ・リラ・ショックで、リスクオフのドル高・円高の動きになった後、トランプ大統領および一部FRB要人発言で米国の利上げへのこれまでの見方(年内2回)が1回になる可能性が浮上。ドル高修正の動きとなって、今週を迎えました。
為替操作しているのでは?とトランプ大統領から名指しされたユーロと中国人民元はここ数日値を戻しています。
今後の米国の金融政策について参考情報が欲しいところですが、ちょうど今日(日本時間では23日未明)FOMC議事録(7月31日~8月1日分)が公開になり、24日にはジャクソンホールでFRB議長パウエル氏の講演があるので、このあたりが参考になると思います。
10日後は9月。米国では、11月に行われる議会の中間選挙も動き出す頃です。また、日本では自民党の総裁選(9月20日予定)です。現職の安倍氏一人勝ちと言われ、主な二人の戦いも面白くなさそうですが、注目はしていこうと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
※8月22日東京時間14時執筆
本号の情報は8月21日のニューヨーク市場終値ベースを参照しています。
なお、記載内容および筆者見解は参考情報として記しています。
式町 みどり拝
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)