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前回ご紹介したアジア開発銀行研究所所長の吉野直行さんのメッセージです。
⇒前回コラム http://okuchika.net/?eid=8057
第1回目は、トランプ大統領の貿易政策についてです。
トランプ氏は今年に入り、鉄鋼・アルミニウムなどで関税を賦課したり、中国からの輸入品に対して関税を賦課したり、貿易赤字の解消が、自国の産業保護や雇用の保護のために米国経済に必要だという主張の元にこれまでのアメリカの貿易政策を大きく転換しています。
これに対して、日本はどのような行動を取ればよいのでしょうか?
それには、なぜこれまでのアメリカが自由貿易を選択し、それが世界経済にとって有効に機能してきたのかを考えてみます。
国際貿易の利点は、一番古典的な理論ではデヴィッド・リカードの比較優位論がわかりやすい説明になっています。(Wikipedia比較優位参照)
英国とポルトガルの2国で毛織物とワインの2つを生産して貿易することを考えてみましょう。
具体的には
1単位時間分だけ働いた場合の生産量を
毛織物 ワイン
英国 36 30
ポルトガル 40 45
ポルトガルは、ワインと毛織物の双方に関して、英国に対し両方とも生産量が大きいので絶対優位です。
しかし、毛織物に関してはワインよりも生産効率が良いという意味で英国の方が比較優位であり、ワインに関してはポルトガルの方が生産効率が良いという意味で比較優位です。
つまり、英国の絶対優位性と比較優位性とは異なるということになります。
この英国とポルトガル双方が貿易から利益を得られるとはどういうことなのでしょうか?
これも例として、
各国の労働力人口と労働投入係数が、簡略化の為に、失業者が居ない場合を想定している場合を考えましょう。
下記のようにそれぞれの国が労働力を持つとします。
労働力 毛織物 ワイン
英国 220 100 120
ポルトガル170 90 80
そうすると各国の生産量は
毛織物 ワイン
英国 100×36=3600 120×30=3600
ポルトガル 90×40=3600 80×45=3600
両国の生産量合計 7200 7200
となります。
極端ですが、これを比較優位のある産業に偏らせて
労働力 毛織物 ワイン
英国 220 220 0
ポルトガル170 0 170
とすると各国の生産量は
毛織物 ワイン
英国 220×36=7920 0
ポルトガル 0 170×45=7650
両国の生産量 7920 7650
となり、先程の両国合計の生産量を上回ります。
これは、各国の国際分業によって全体的な労働生産性が増大することを示し、さらに、自由貿易を前提とした場合には両国が共に消費を増大させられることを示しています。
すなわち、比較優位にある財を輸出すると共に比較劣位にある財を輸入すれば、絶対優位に関係なく貿易で利益を享受できるということを意味するのです。
単純に言えば、このような理屈で、各国が得意な産業に生産を傾斜し、自由貿易を進めていくのが世界全体の生産性の意味では良くなるということで、貿易が振興されてきました。
一方でトランプ大統領が取ろうとしている保護主義的な政策は主に
・海外からの輸入の拡大は国内生産者の利益を損ねる
・海外からの輸入の増加によって、国内の製品が売れなくなり、雇用が悪化する
・海外から安価な商品の大量流入によって国内の生産の縮小→国内企業の工場の海外移転→国内産業の空洞化が生じる
といった国内の生産や雇用の問題から発生しています。
こうした、保護主義的な政策は、一時的にアメリカだけのことを考えると有効なのかもしれませんが、先程の自由貿易の理論からすると米国以外の世界的には効率が悪くなり、経済成長の阻害要因になります。
なので、実際に政策を検討するためには、この自国の産業と世界経済の2つの方程式を連立で検討しなければならないのです。
しかし、現在のトランプ政権は、まるで自国の一つの方程式しか見ていないように見受けられます。
日本としては、こうした米国の保護主義的な政策についてWTO(世界貿易機関)などの国際機関を通じて、自由貿易の正当性を訴えていくのが一番の筋道だと思っています。
自由貿易のメリットという正論を国際機関の中で主張していけば、日本以外の主要国の賛同も得られると思いますし、米国も正論を受け入れざるを得ない場面が出てくるはずです。
次回は、国有財産の売却や埋蔵金活用の議論についてです。
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