執筆者の小屋氏が、テレビ東京のワールドビジネスサテライトの「特集 株で”税金ゼロ”日本版ISAとは」に出演されてます。ぜひご覧下さい。

http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/wbs/feature/post_38123/

 前回は、英国でISA制度に対して金融機関や個人投資家がどのように対応しているのか現地の報告を中心にご報告してきました。
 今日は、その英国での状況を踏まえたうえで、いよいよ来年から始まる日本でのISA制度について考えてみたいと思います。


1.ISA(アイサ)のネーミングについて

 実は、日本版ISA制度は以前から予定はされていたものの、実際に国会を通過して法案化されたのは先月3月29日のことです。
 その後「日本版ISA推進・連絡協議会」(主に証券業界、銀行業界、投資信託業界など金融業界の集まり)で現在日本版ISAの愛称を公募をしているところです。(4月1日~19日まで募集、4月30日に発表)

 私なんかは日本版ISA(アイサ)そのままで良いのではないかと思いますが、実際には色々な思惑があるようです。

 一つの大きな思惑は、「マル優」を復活させたいという思惑です。過去1987年までは、個人では預金に対して「マル優」を利用することで預金・貯金に対する利息を非課税にすることが可能でした。

 こうした「マル優」は過去、広く国民に利用されてたことから、この愛称を復活させて広めようという思惑です。

 一方で、私を含めて40代ぐらいまでの世代では「マル優」という制度は、ほとんど利用経験が無いために特に親近感があるわけでもありません。そのために 「マル優」という愛称が採用されてしまうと、結局制度を利用するのは高齢者ばかりになってしまい、本来長期投資が必要である資産形成層(20代~50代) の利用率が高まらないのではないかという懸念も指摘されています。

 公募された愛称の中から委員(主に証券・銀行業界の重鎮)が選考したうえでの発表という運びのようですので、30日は注目して良い日になると思います。


2.日本版ISA制度の問題点

 日本版ISA制度が英国ISAと大きく異なって、批判されているのはその非課税期間の短さです。英国ではISA口座で投資した商品の非課税期間が一生涯であるのに比較すると日本版ISAでは非課税期間が5年と大幅に短縮化されています。

 したがって本来であれば投資や資産運用は長期で保有することを推奨すべきであるにもかかわらず、税制のインセンティブとしては5年以内で売却を勧める形になっており、長期投資を妨げる原因となりかねません。

 また、ISA制度も10年間の時限立法となっており、英国ISAが恒久的な制度であることも大きな違いになっています。

 この制度の運用に関しては、英国でも制度開始当初は時限立法であったのが、国民の利用が広がるにつれて恒久化されて利用しやすくなったという経緯もあり ますので来年以降の国民の利用状況によって、制度の恒久化や非課税期間の延長という措置が取られることを強く希望しています。

 こちらも法案の成立経緯を細かく聞いていますと、どうやら制度設計主体である金融庁の役人の方は「恒久化」などに対して積極的であったものの政治家側の 方がこうした株式税制の変更は「金持ち優遇制度」と批判されるのを恐れて、このような中途半端な制度設計に落ち着いたようです。

 株式投資を「金持ち」しか行わないという発想自体が古いものですし、「貯蓄」から「投資」へというスローガンを掲げているのであれば、こうした制度を推進して行くことこそ政治家に求められる行動だと思います。


3.実際のISA利用について

 日本でも英国でも、こうした株式投資の非課税制度としてはISA以外にも確定拠出年金(401K)の利用が考えられます。日本でも2001年から導入されてすでに10年以上経過していますので、その普及率や認知度も高まりつつあります。

 確定拠出年金制度の場合には、拠出する金額に制限はありますが、その拠出額が所得控除として扱われますので、所得税や住民税課税に対する効果は決して少なくありません。(皆さん、きちんと利用されているでしょうか?)

 英国でもこうした制度は同様です。では、ISAと確定拠出年金をどのように使い分けることができるのでしょうか?

 これはヒアリングしたところ、投資資金の仕様使途によって使い分けているという回答が一番多いものでした。つまり確定拠出年金は「年金」という目的であるがゆえに60歳前に拠出した(積み立てた)資金を引き出して利用することができません。

 それゆえ、例えば子供の教育資金であるとか、住宅取得資金など本人が割合近い年内(1年~30年程度)に利用する目的の資金は確定拠出年金ではなくISAを利用しているという答えが多く聞かれました。

 つまり、日本の場合には財形(財産形成貯蓄)制度が広く普及していますが、現在の金利状況下では利息に対して課税されないという特典はほとんど意味があ りません。それでも多くの人が、住宅資金形成目的や仕様使途の決まっていない資金を一般財形などで貯金している様子を見かけます。

 こうした現在ではあまり効果のない財形に代わってISAを利用するというケースが一番効果があり、そして実際に行われることになるのではないでしょうか。

 その意味では、日本の企業内で「財形」制度について説明があるのと同様に、ISA制度についても説明してもらえれば、普及に弾みがつくと思いますが各企業の人事担当者様如何でしょうか?


株式会社マネーライフプランニング
代表取締役 小屋 洋一

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