産業新潮
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5月号連載記事
■その12 自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ
●自分が成長する
リクルートの社訓(旧)「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」は、1968年に、創業者・江副浩正氏によって制定されたスローガンだ。
実は私は学生時代、リクルートのA職というアルバイトをしていた。アルバイトと言ってもスーツにネクタイ姿で、アタッシュケース(当時の営業マンの必須アイテムであった)を抱えながら、営業先を回るというものである。勤務時間は9時~5時どころか、残業が月70~100時間になることも珍しくないという、猛烈な仕事内容であった。
学生アルバイトなのだから、いつ辞めても良かったわけだが、喜んで働いていたのは、学生としては破格のアルバイト料(後に短資会社に就職した時には、残業が無くなったせいもあるが、月給が三分の一から二分の一程度に下がった)以外に魅了するものがあったからだ。
その最も重要なものが「仕事をすることによって自分が成長している」という感覚である。まだ青二才の学生であったこともあるが、毎日の仕事で学ぶことが新鮮で、胸が高鳴っていたことを覚えている。
学ぶと言っても決して堅苦しいことでは無い。さすがに現在のリクルートは、大企業色が強くなっているが、40年ほど前には、まだまだベンチャー企業であり、「きちんと売り上げをあげれば、何をやっても良い」という自由な気風にあふれていた。実際、諸先輩からは、「四半期の売り上げ目標を達成した後は、残りの2か月間、出社せずに朝から晩まで繁華街で豪遊し、その合間に仕事をしていた」という武勇伝を聞かされたりした。
当時私は、「ス―ツにネクタイで拘束されたうえ、満員電車で通勤する奴隷なんかには絶対なりたくない」と思っていて、就職活動をしていなかったのだが、リクルートでビジネスに魅了され、慌てて活動を始めた。ある意味、このリクルートでの体験が私の人生を大きく変えたし、同じような若者がたくさんいるのでは無いだろうか?
●現代の労働者は生産財を自分で保有している
ピーター・F・ドラッカーは、これから知識社会がやってくると繰り返し述べている。「知識」とは、ゼロと一の数字(コンピュータ・デジタル)で表現できる「情報」とは全く異なるものである。人間の脳でしか取り扱うことができないアナログ情報でもある。
農奴制の社会では、地主(農園主)が農地という生産財を保有し、工業化社会では資本家が、機械・工場などの設備を独占した。農民や労働者は生産財を所有しないから、地主や資本家の言いなりにならざるを得ないというわけである。
地主や資本家がすべて悪いという考えにくみするわけでは無いが、力関係において地主・資本家が農民・労働者よりも強い立場にあったのは否定できない。
しかし、現在の主要産業は、ドラッカーのいうところの知識で成り立っている。例えば農園では、牛や馬と競争していた人間の労働力の代わりに、耕運機・トラクターなどの農機具が活躍している。工場でも人間の肉体を駆使する仕事は大幅に減少した。農民や労働者は自らの肉体を酷使するのではなく、機械の管理をするようになったのだ。したがって、それら機械に関するものや、運用などの「知識」が生産の核心となり、労働者の頭の中に保管される。
さらに、いわゆるサービ産業・IT産業では、ますます「知識」が重要な生産財となる。
現代のビジネスでは、生産財を会社が直接保有することはできず、従業員(の頭の中)を通じて間接的に保有するしかないのだ。つまり、現代のビジネスで生産財を保有するのは、農園主でも資本家でも無く、個々の労働者である
ということである。
<続く>
続きは「産業新潮」
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5月号をご参照ください。
(大原 浩)
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