今回も前回に続き、「新しいお金」について社会的実証実験に取り組んでいるeumoの新井社長との対談です。
[プロフィール]
新井 和宏
株式会社eumo 代表取締役
1968年生まれ。東京理科大学卒。
1992年住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社、
2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)入社。
2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに、それまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持つようになる。
2008年11月、鎌倉投信株式会社を元同僚と創業。
鎌倉投信退職後の2018年9月、株式会社eumo(ユーモ)を設立。
株式会社eumo:https://eumo.co.jp/
Facebook:kazuhiro.arai.33
●お金で解決できる問題には限界があるのに、都会にいる人たちはお金依存症になっている
新井:お金を蓄えておけば、老後は幸せに過ごせる……というのは、もう幻想だと思うんですよ。
幸せには、生きがいやライフワーク、素敵な想いを持つ人と直接つながっていくような共感にもとづく関係性が不可欠で。
仕事に生活の時間の大半を取られるような働き方を我慢しながら続けて、定年してから悠々自適に……というのはこれからの時代に難しいですよね。
都会で、定年まで勤め上げ、人や地域との関係性を持たずに幸せに生きていけるであろう人ってごく一部です。
大企業でも定年まで勤めていられる人なんて限られていますし、そのなかでどういう選択をしていくのか。
これまで会社の名刺を持って生きてきた人も、定年したらそれが効かなくなっちゃいますからね。
その人の手元に生きていくために十分な退職金があったとしても、その後の生活していく能力、社会で必要とされる技術は別で、大事なのは人間力なんですよね。でも、それは会社の中で鍛えられてきた狭い範囲のスキルとはまったく逆のものだったりしますから。
小屋:仕事を通じたつながりは会社を辞めると途切れていくもので、そのとき、ある程度の蓄えがあっても幸せなのか、と。
その疑問は今の若い人にはすんなり伝わりそうですが、昭和を生きてきた世代、特に都会で暮らしている人にとってはなかなかわからない感覚かもしれません。
新井:地域にある古臭い共助の仕組みが面倒だと思って都会に出てきて、地域との関係性は作らず、自由に仕事をして、収入を得る。
それは1つの形としてあったわけですが、共助の仕組みがなにもなくて、マンションの隣の部屋では孤独死が発生しているかどうかもわからない。
そこまでの関係性の希薄さは、ちょっと厳しいですよね。
僕から見ると、お金で解決できる問題には限界があって、だけど、都会にいる人たちはお金依存症になっているように見えるんですよ。
過度に依存してしまっていて、お金で解決しなくていいことまでお金でなんとかしようとするという……。
そういうお金の使い方をしている限り、幸せは遠のくと思います。
この先、都会の中で共助の仕組みを作っていくのか。それとも都会から離れて地域にある古臭い共助の仕組みの中に戻るのか。
あるいは、それを新しい共助に変えていくのか。そういったことをまさに今、時代は模索しているんだと思います。
●お金を集めてうまくいったと思えるのは、最終的にビル・ゲイツを抜かしたときくらい
新井:『あたらしいお金の教科書』のなかでも書きましたが、成長が前提となっている経済では、みんなが集まってでっかいことをやり、合理化、効率化を追求して儲けを分配していくやり方が多くの人の幸せにつながっていたと思うんですよ。
でも、ここから先の日本では、このモデルがうまくいく可能性があまりない。
たとえば、自動車産業があのどでかい城下町のヒエラルキーを維持することは、ほぼ不可能でしょう。
宇宙産業に転換することでカバーできると言っても、その範囲は限られていて、集まって効率的、合理的にやっていくこと自体のニーズは減っていきます。
小屋:そこで起きるのは同じ業種のプレイヤーを蹴落とすような競争ですか?
新井:その可能性は高いですが、それでは日本そのものが持たないですから。
社会全体が変化していかなければならないですし、またそうなっていくと思います。そのとき、個人レベルでは年収がどうあれ、働きがいや生きがいを感じてもらえるような生き方、在り方に向き合っていくようになるでしょう。
ただ、人間は過去の成功体験に縛られます。今の資本主義で言うと、個人で投資をしている人もお金を集めるゲームに参加しているわけです。
そのゲームを続ける限り、評価は損得が中心になりますし、できるだけお金を減らさないようにしたいという圧力がかかります。
そして、たくさんお金を集めたら成功だと思ってしまうわけです。
でも、違いますよね?
人生の成功って。お金だけを集めて、うまくいったと思えるのは、最終的にビル・ゲイツを抜かしたときくらいです。
小屋:金額の大きさだけに着目して、上を見たらきりがないのはたしかです。
新井:損得を基準にすると、人間は持っていないと不安なんですよね。つまり、お金を持っていなければ不幸になってしまう。
あれば何ができるかはわからないけど、とりあえず取っておこうかな……という圧力になっていく。
だけど、ここに幸せは存在していなかったりするわけですよね。
そのお金がノルマに追われて、必死に頑張って、争い合って獲得してきたものになればなるほど、すごく辛くて、しんどい。
小屋:本来であれば、お金をどう活かしていくか、どう使って幸せになっていくかを考える必要があるのに、とりあえず取っておく感覚に陥ってしまうクライアントさんは本当にたくさんいます。
新井:それは上場企業の経営者の方々も同じで、この1年くらいで一番相談があったのが、やっぱり活かし方なんですよね。
皆さん、お金を集めてくる方法論は持っていて、実際に集まった、と。でも、何が社会にとっていい使い方なのだろうか?というところで迷い、ジレンマに陥ってしまっています。
結局、この悩みから抜けるには、その人にとっての「生きているって感覚」が重要なんだけど、それが養われていないから「集めたけど、何かうまくいかないぞ」「こうやったけどうまくいかない。どうも俺のお金の使い方はよくないっぽい」というところで止まってしまっているんですね。
経営者でも、個人でも、大事なのは本人がいかに自分のなかに幸せを感じる世界観を描き、それを実現していこうと行動するか。
小屋:その世界観がなかなか描けないんですよね。
新井:そうなんです。自分の描く世界観がないなかでお金を集めていっても、この先どこに行っていいかわからないですよね。
たとえば、小屋さんのクライアントの方が株を買うにしても、寄付するにしても、直接お金を届ける行為は、応援したい企業への具体的で力強い投票になるはずなんです。
自分や社会にとってポジティブな影響を与えてくれる企業には、大きく成長して欲しい、と。
そういう世界観が描ければ、投資や寄付は未来の社会を明るくするための1つの方法なるんです。
●誰かのためにギブしてきたことを測定し、それを信用にすることができないか?
小屋:僕はクライアントさんたちとコミュニケーションを取りながら、ゆっくりと考え方を変えてもらい、それぞれの世界観を描いてもらえるよう寄り添っていこうと考えています。
新井さんは、共感コミュニティ通貨「eumo」(以下、ユーモ)を世に送り出しましたが、そこにはどんな意図があるのでしょうか?
新井:ユーモは、いい社会づくりをしている正直者に光を当てたいと思い、開発した通貨です。
たとえば、最小限の環境負荷で赤ちゃんが口に入れても安心なタオルを作っているタオル屋さん。無農薬で、棚田の田植えから手作りでお酢を作っているこだわりのお酢屋さん。
愚直に、いい社会づくりをしている素敵な会社、素敵な人たちに光が集まる仕組みを作りたかったんです。
※ユーモに関する詳細はこちら>https://currency.eumo.co.jp/
僕はユーモが1つのリハビリツールだと思っていて、興味関心を持ってくださった方、使ってくださっている方に対して「そうじゃない世界があったらどうする?」と問いかけているんです。
お金を集めるんじゃなくて、お金をギブする社会のなかでの成功とはなにかを考えていきましょうって。
小屋:ユーモが特徴的だなと思ったのは、僕がユーモのアプリを使って1万円を1万ユーモにしても、3ヶ月の期限が過ぎると消えてしまうことでした。
3ヶ月以内に誰かのために使う、それも半強制的に使うような仕組みになっていますね。
新井:人間の思考はそこまで急には変わらないからこそ、リハビリツールが必要で。
ギブする社会の中でお金を手放す形をデザインしたいとも思っています。
今、中国では個人の支払い実績や返済の履歴を集め、ビッグデータを解析して、その人の信用をレーティングしようという試みが進んでいます。
僕は日本から発信するんであれば、利他的な部分に対して信用モデルを作ることができないかと考えたんですね。
ようするに、誰かのためにギブしてきたことを測定し、それを信用にすることができないかな?と。
その仕組みに向かう第一段階として、期限付きのユーモを試してもらいたいと思っています。
小屋:期限が切れたユーモは、完全に消えてしまうわけではないんですよね?
新井:僕や小屋さんのユーモは3ヶ月で期限が切れてしまうんですが、失効したお金の90%はコミュニティのユーザーの皆様に再配布されます。
そして、残りの10%は、プロジェクトに加盟しているお店の社会貢献活動に利用されます。
もちろん、どれだけのお金が再配され、利用されたかも公開されるので、使っても使わなくても社会のためになるお金の使い方になるわけです。
つまり、ユーモは共同の財布なんです。昔で言うところの講ですね。
講はみんなでお金を出し合って、何かをしようとするじゃないですか。
もし期限切れになっても他のみんなが社会のためにいいように使ってくれる、と。そう信じて、お金をユーモに替えて「期限切れしてもいいや」と手放せる状態になると、人間の意識が変わっていくと思うんですよね。
小屋:たしかに、「手元にお金を貯め込むようにしない」という実験の行方はすごく気になります。
我々もクライアントさんたちに話を聞くと、上手に貯めてきた人ほど、活きたお金の使い方に悩んでいることが多いんですね。
お金を使わず貯めてきた。欲しいものは特にないし、自分にも使えないし、他人にも使えない。
そこからどういうステップを踏んでもらって、人のために使う喜びを知ってもらうか。これはなかなか難しいなと感じています。
新井:そうでしょうね。僕がユーモをリハビリツールとして使ってもらい、多くの人に取り戻してもらいたい感覚は、共助やお金を手放す勇気です。そういった意識の変革ができるのであれば、ユーモをやる意味があるんじゃないかと思っていて。
また、こうした試みをしなければ、格差は縮まらないし、共助もなくなっていくし、社会は荒んでいきます。
損得じゃないものを取り戻すことが大切で、その感覚をほんの一部でも自分のなかに実装すれば、幸せが得られる感覚が生まれると思うんですね。
今の日本は、あまりにもお金が強すぎます。人間を信じるより、お金を信じるようになってしまっている。
この状態はよくないんですよ。人が人を信じられる状態をどうやって再構築するか。それが僕らの目指しているところです。
株式会社マネーライフプランニング
代表取締役 小屋 洋一
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)
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